世界最高峰のスポーツカーレースと言えば、ル・マン24時間耐久レース。そしてル・マンをシリーズの1戦とするWEC(世界耐久選手権)でしょう。世界中を転戦し、全9戦で争われるこのシリーズの第7戦・富士6時間耐久レースが今週末、静岡県小山町の富士スピードウェイ開催されます。
今年のル・マン24時間耐久レース、ラスト3分で劇的な敗戦を喫したトヨタとTOYOTA GAZOO Racingにとっては、ルマンの雪辱を果たすべく戦うホームサーキットでの母国レース。必勝への意気込みも強い。あの日のル・マンでのこと、そして富士戦にかける思いを、トヨタ自動車のモータースポーツマーケティング部・TGR推進室長である北澤重久さんにうかがいました。
–ル・マンでの『あの瞬間』はどうされていましたか?
北澤重久さん(以下、北澤):「その時はピットの上で、レース後に備えた準備を慌ただしくしていました。ついに悲願達成かと、その時を待っていました。チームラジオも聞こえておらず、ふとモニターに目を向けたら、歓喜のポルシェ・ピットと沈黙したトヨタのピットが映し出されていて、何が起きたのかわかりませんでした」
–そのままレースは終わり、チームはその後、どんな様子だったのでしょう?
北澤:「混乱の中で、『残念』『悔しい』の渦に飲み込まれたようでした。ユニットリーダーである村田(久武モータースポーツユニット開発部長、レーシングハイブリッド総責任者)は、責任を感じて落ち込んでいました。これは後で聞いた話ですが、ポルシェの人たちがトヨタのピットに駆けつけてくれ、村田に声をかけてハグをしてくれたそうです。また3位に入賞したアウディのドライバーたちは、『自分たちが表彰台を辞退したらトヨタは表彰台に登れるのか』と主催者に聞いてくれたとも聞いています
その後ポルシェ・チームの祝勝会があり、TMG社長の佐藤(俊男さん)と村田とともに招かれ出席しました。チームの作業などもあり少し遅れて到着した私たちが会場に入ると、ポルシェ・チームの人たちやポルシェのゲストの方々から、スタンディングオベーションで迎えられたそうです。『本当に強かったのは君たちだ』との言葉をいただき、『これはレースだしスポーツです。勝利は勝利、あなたたちのものです。おめでとうございます』と返答したそうです。ヨーロッパの伝統のレースで、負けて悔しいし残念ですが、ポルシェからもアウディからも、ライバルであり仲間だと認められたように感じたレース後でした。SNSなどでも、あんなカタチで健闘をたたえあえたことはとても嬉しいですね」