F-PACEのボディは、ほぼ同時期に開発されたEセグ・サルーン「二代目XF」のD7aアルミニューム骨格を基本にする。が、その81%は独自性を与えるため、専用にアレンジされたものだという。
スタイリングはXF&XF Mk2と同じジャガーの現デザイン・デレクター、イアン・カラムの担当だ。
99年に先任のジェフ・ローソンからジャガースタイリングの重いバトンを渡されたカラムだが、それまでの60年代を意識下とする懐古調のジャガーの造形エッセンスを、08年の初代XFを機に大幅に切り替えている。
シンプルな塊に観せながらも、広範囲に巧みなプレスラインの彫塑処理を図ることで途切れぬ緊張感を全身に保たせた、張りのあるカラム調のボディ造形は圧巻だ。中でも、ロングボンネットの先に収斂する短いオーバーハングに刻み込まれた開口の大きい3ピースグリルと、睨みの利いた切れ長のヘッドライトが相まって魅せる、躍動的で力感ある野獣の表情は見事だ。
このカラム・ジャガーの趣には、それまでのどの世代のジャガーとも異なるモダーン、かつクールな佇まいがある。Grace、Pace、Spaceの押えるべき3点の基本も、カラムはモデルを追うごとに確実なステップアップを果たしつつある。
09年発表のトップレンジXJ(SWB)を、15年生まれのXF-Mk2は居住性の基本となるSpace面で明らかに抜き去っているからだ。
そのXFの派生形となるF-PACEは、サルーンが主体だったジャガーの体系を、間違いなく打開する次代への意欲作だろう。
カジュアルでスポーティかつモダーンな新世代ジャガーは、おそらく今後その主軸をXE&XFのサルーン系と、F-PACEを切り口として計画され、今後順次登場する幾つかのSUV系による二本立てで構築されるものになる、と予想できる。
2座スポーツのF-typeの行方は読みにくいが、その上でトップレンジのXJは一段とラグジャリーなハイクラス・スポーツサルーンへと発展することになるだろう。
F-PACEの基礎造形を大雑把に言ってしまえば、XFサルーンの屋根を延した上で、Dピラーをキックアップさせてハッチバック化し、SUVならではの嵩高いアピアランスを持たせたものだ。
この技法の応用により、シューティングブレーク的なミドルレンジワゴンの誕生も、近い将来十分に予想できる。
対XF比で言うと、F-PACEのサイズは全長-234mm、ホイールベースで-86mmそれぞれ短いが、全幅は+56mm拡く、全高も+212mm高い。乗員の着座ポジションをボディ高の増加を活かして見直したおかげで、キャビンは内側に喰い込ませたリアドアの厚みにも関わらず、特に長手方向に結構なゆとりがある。
ホイールベースの短縮にも関わらず508L(左右後席を畳めば最大1598L)のブートスペースが確保でき、かつオフロード走行を見越したオーバーハング長の最適化も合わせて実現している点は、流石だ。
ボディ側面は、側突耐性を確保するストロークを、膨張では無く内側に飲み込ませる技法を基本に構築したために、ドアは相応に厚い。
けれど、ピラーを悪戯に内側へ絞り込んでいないため、側面をスクエアに切り立てたそれは、ショート・ボブの髪型みたいにスリークで涼し気だ。車幅をつかみ易い気遣いを感じさせるまとめが、好い。
ボリューミーなカイエンやマカンのそれとは実に対照的だ。
惜しむらくは、リアエンド周辺の処理で、些か実用面での纏りを無視した感が残り、運転席から確認させる後方が遠方視点寄りにして視野が狭い点が難、だと感じた。
XFに似たインテリアの印象は、正しく20世紀のジャガーと決別した風情。これぞカラムの描くクールの具象なのだろう。
が反面、「古典的なジャガーの世界」を些かなりとも身を置く空間に望みたい向きには、モダーンがドライに過ぎて、「色気や艶、湿り」等が思いっきり排除されている感は、如何にも惜しい。
VWとアウディ、レンジローバーとランドローバーの持分を参考に想えば、独行ゆえに新世代ジャガーブランドの居住空間の設えに関する試行錯誤、まだ最適解に到ってはいないような気がするのだが、いかがなものだろう
(鈴木誠男)
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