『スタート・ユア・エンジン!』
年に1度の楽しみ、JAIA自動車輸入組合の合同試乗会は、ご同業諸氏の記事、ブログ、FB、ツイッターで先刻、ご存知だと思います。
できるだけ多くの乗ったことのない、乗り損なったクルマに乗ろうと欲がでます。「スタート・ ユア・エンジン!」と自らを励ますのですが、昨今、そう簡単にはいきません。大半のクルマでスタート/ストップ・ボタン探しです。計器盤の左下、右下、センター/フロアコンソール上と様々な場所、それも隠れん坊。というのも、目に入りやすく、手の届きやすい場所にあると運転中誤って押してしまうのを防ぐためらしいのです。まあ、真偽のほどは確かめていませんが。
この日の1台、シトロエンDS3のキー。そうなんです、キーなのです、を受け取った時の懐かしさ、涙ぐんでいたかもしれません。
メルケル首相も知らなかった『フォブ』
いまや、『フォブ』の時代になりました。語源は、懐中時計の鎖、転じて時計を入れる小ポケットなのですが、自動車では長方、楕円形の電波信号発信器です。
2011年、メルセデス-ベンツは創立=自動車誕生125周年を祝い、シュトウットガルトで大祝宴を開きました。舞台上には世界一周の旅に出発する燃料電池車女性チームが並びました。司会者はメルケル首相に向かい、「首相閣下、ドライバーにフォブをお渡しください。」「フォブってなに?」、司会者「これでございます。」「ああ、私が何時も置き忘れるのね。」閣下大拍手!
あのメルセデス・ベンツ300SLも「普通にキーを回す」
2012年、イギリス・ブルックランズからグッドウッドまでの“足”がなんとメルセデス-ベンツ300SLガルウイングでした。1954-57年製作された2席クーペで、現在アメリカのオークションでは140万ドル以上(約$1=120円で計算してください!)ですが、まったくのオリジナルものに180万ドル以上ついたという記事を読みました。
メルセデス・クラシックカーを連ねて走るイベントでしたが、ざらざらっと置かれたアパートかロッカー鍵風キーの山。何十年ぶりに乗る300SLでしたが、メルセデス・クラシックのメカニック氏、「普通にキーを回していいんですよ。」と。半世紀以上前、日本ではじめて乗った際にはスタート儀式の講義を受けたものです。
これも半世紀前ですが、300SLRは別ものでした。技術トップの通勤用(!?)に改装されたクルマを予期していたのですが、なんと90度バンクで有名なテストコース脇に置かれていたのはギンギンのレーシングカー。
たしかキーはなく、元F1世界チャンピオン専属メカニック氏がドイツ語で指示、外国広報担当プリンス(旧プロイセン王子)のフォン・ウーラッハが英語に通訳。「イグニッション、マグネット、混合気調整、アクセレレーターは踏まずにボタンを押す。」直噴DOHC強制バルブ開閉(スプリングなし)の3Lエンジンが吠えました。
ジェットエンジンの点火はシガライター?
1963年、クライスラーは来たるべき自動車ジェット化(?)の尖兵として55台のガスタービンカーを製作し、幸運な一般家族に貸与しました。クライスラーのデザイン、イタリアのギア製作の前衛的というか、ジェット機をモチーフにしたクルマでした。ボデイは保税条件で輸入したので、実証走行後(2万キロ走った家族もいました)、クライスラーはチェルシー・テストコースに集めた49台をブルドーザーで踏み潰しました。関税を払った6台はアメリカ各地の自動車博物館に保管されています(1台は個人所有)。
クライスラー・ミュージアムが一般公開を中止する直前、駐車場内で運転することができました。専任技術者が始動バッテリーフル充電を確認します(始動に失敗すると面倒なことになるということです)。キーの上には“イグニッション”、となりのボタン風が“ライター”と表示されています。「キーを回して、ボタンで点火ですか。」「いや、ボタンはシガレットライターですよ。」多数あるレバー、スイッチ類は単に航空機ルックで、機能は自動車です。ガスタービンの音は、ジェットエンジンそのもの。スロットルレバー風は3速ATです。タービンが流体(気体ですが)接手の役をするので、トルコンは省いています。
(山口京一)