ロードスターのグリル部分の開口部が広いと云われる方がおられる様ですが、開口部はフロントをカットした線の延長線上に開いています。
開口部を狭くするためには、フロントのオーバーハングを延長しなければなりません(=車が大きくなり、運動性能が落ちる)。
開口部はグラフックではなく冷却性能を考え、サーキットでも走ってもきちっと冷却出来る車を作らなければならないので、そのままの大きさを確保しています。すべては意味のある形をしています。
ここでクレイモデラー淺野行治氏が造形のしんどさを説明されます。
今までのロードスターのラインは流麗に流れているハイライトを持っていると思うんですね。 今回すごく変えたいなと思ったのは 新型のロードスターは「光を支配したい」という思うが強かった。
どうにかこのパッケージの中で光をコントロールできないかと思ったのは、 耕介(高橋耕介シニアデザイナー)が描いた画がすごくリズミカルで、心を打たれた。これを作らせて頂いたのが、僕の中で凄く印象に残っている。
ここで中山氏がクレイモデラーの仕事を捕捉します。
クレイモデラーと云う仕事は工業用の粘土で形を作り、それをデータに落とし込み最終的には工業製品になっていく訳ですが、 粘土で形作る作業というのが、ものすごく人間の手と勘に(頼るところ)なんですよ。
マツダのクレイモデラーは大変しつこい。まぁ見た目も大変しつこい(笑)人間たちで「コンマ何ミリ」という数字を手で感じ取りながら仕事をしています。
コンマ何ミリというと、「嘘でしょ」「大袈裟でしょ」とよく言われます。が、例えば0.3ミリのシャープペンシルの芯、触るとわかりますよね。朝、顔を洗う時に「荒れてるな」と思ったら0.01ミリ位を感じているんですかね。指先ってそういう繊細な感度を持っていて、その指先でクレイモデラーは「面を作っている」
なぜそこまで拘らなければいけないかというと、車は表面がピカピカだから、洗車大好きな方は拭いている時に「あれ?ちょっとここ凹んでないか?」と発見します。
コンマ数ミリ凹んでいても、ハイライトが歪んで見える。そうならないためには0.01ミリの単位できれいな面を作っていかないと、 工業製品として成立しない。純粋な芸術品ではないです。中にメカニズムを収めていますから、そういったものを成立させながら作っていくという、かなりしんどい仕事をやってもらっている。
デザイナーは自分の拘りを語る機会が多いが、なかなかクレイモデラーは外に出るのが無い。基本的に嫌なんですよね?(と、淺野氏を見る)
淺野:「嫌です」(笑)
今日引っ張ってきたのは「ロードスターを作った男をお見せしたかった」ナマで紹介したかった。…もう後は話さないで、頷いて居てくれれば良いですから(笑)
と云われましたが、淺野氏が補足をします。
人の手に伝わってくるんですよね。外どりして、自分が思っているセクションを作っていると、ココになんか引っ掛かる。
…と、いったら削る。浮いてるなと思うと、盛る。それの限界を探りながらこういうものを作っていく、それが僕たちの仕事の醍醐味だなと思っている。
最後に中山氏より「これ以上は削げません」の話題を振られ、淺野氏が続けます。
削ぐと云うのはこれ以上無駄のないフォルムを作ると云う事で、無駄と思われる物を 我々のボスである前田デザイン本部長が繰り返し「削げ」といってくる。
ある時に、
「淺ちゃん、ココ ちょっと、もうちょっと削れない?」
「ダメ」
そこを削ってしまうと全体をやり直す。面の調子のつながりをやり直す必要がある。もう限界に達している。
「ココをこれ以上削ると、もう凹んで見えるから」
「…そうだなぁ」
と、解って頂きました。
と、いうギリギリのせめぎあいがあって、出来上がった形なので…どうモデル化して頂いたのかすごく楽しみ…というパスを出して実車のコーナーを終わります。
次はロードスターの1/24スケールモデル化の苦労をタミヤの平田氏が語ります。
(川崎BASE)