つい先日、ルノースポールモデルの開発を行なっている「ルノースポールテクノロジー」の開発陣が来日、鈴鹿サーキットで開発テストを行ないました。
彼らは「日本は販売台数が多い重要なマーケット、日本での使用環境を確認したかった…」と言っていますが、その裏には「FFタイプR史上最速と言われる、日本仕様のシビックタイプR(欧州ではタイプRユーロのみが発売)の実力がどのようなものなのか?」という確認がメインだった…という話もあります。
ルノー開発テストの最後には、鈴鹿サーキットでタイムアタックを行ない、メディアのいる中で2分33秒832というラップタイムを記録。市販車FF最速タイムの記録をアッサリと更新してしまいました。
ちなみに鈴鹿サーキットはホンダのホームコース。ここで最速タイムを刻むことは“道場破り”とも言えます。「FF最速はウチだよ!!」と言わんばかりに…。
これに迎え討つ、次期シビックタイプはどのようなクルマになるのか? 実は次期シビックタイプRは市販化間近まで開発が進んでいました。ノーマルモデルの発表タイミングから考えると、2013年のジュネーブモーターショーでプロトタイプがお披露目されるスケジュールだったようです。
ノーマルモデルで先代タイプRを超えるシャシーをベースに更なる改良が施され、フロント・ストラット、リア・トーションビーム式のサスペンションとしては究極と言える仕上がりになっていたと聞いています。ちなみにボディ形状はシビックタイプRとしては初となる5ドア。それはベースのシビックに3ドアの設定がないからです。そのため、WTCCのシビックも5ドアがベースになっています。
エンジンは2.0LのK20Aではさらなる出力向上と排ガス対応が厳しいという判断で2.4L化。オデッセイなどのK24Aではなく、新世代エンジンをベースにしたスポーツユニットだったそうです。パフォーマンスはリッター100psは間違いなく、250ps近い出力だったと聞いています。
車両自体はこれまでのタイプRの延長線上…つまり、高回転のエンジン+軽量高剛性ボディで直線よりもコーナリングスピード狙いとオーソドックスな手法で開発されたこのマシン。車両評価を行なった某スペシャリストは「先代(タイプRユーロ)はイマイチだったけど、今回はかなりいい仕上がりだ!!」と絶賛したそうです。
ニュルブルクリンクより過酷と言われるホンダの鷹栖テストコースで徹底的に鍛えられ、卒業試験として非公式ながらもニュルブルクリンクでのタイム計測も行なわれましたが、思ったよりタイムは出なかったようで…。その後、ルノーメガーヌRSがタイムを公表、ニュルFF世界最速をアピールし始めました。そこから「FF世界最速を奪回しろ!!」と、ホンダ伊東社長の鶴の一声でプロジェクトは白紙に戻った…という顛末になったワケです。
まぁ、過去にもホンダはV10エンジン搭載のFRベースのSH-AWDを採用したNSX後継車やS2000後継車、ビート後継車、FRになるはずだったレジェンドなどなど、これ以外にも量産直前にお蔵入りになったプロジェクトはたくさんあるので、それほど驚くことではありませんが…。
というわけで、新シビックタイプRプロジェクトは、NAをあっさりやめてライバルたちと同じ2Lターボを搭載することになりました。ただ、高出力化に際し2.4Lのブロックをベースに開発しているようです。ただ、同じ2Lで360psを達成している「A45 AMG」がありますので、エンジン開発部門は「ウチだって簡単にできるよ」と言っているとかいないとか!? シャシー開発部門は「素で勝負できる」という人もいれば「新兵器(プレシジョン・オールホイールステア)の進化版を上手に使えれば、FFのままでもスタビリティと旋回性能を高次元で両立可能、コーナリングスピードは更にアップできる」とも…。
恐らく、ニュルブルクリンクのラップタイムは、メガーヌRSの8分7秒97を超えることはもちろん、FFでは前人未到の7分台を狙っているのは間違いありません。
何はともあれ、日本独自の文化とも言える「タイプR」が世界に羽ばたくだけでなく、挑戦者としてライバルに勝負を挑むことになる次期シビックタイプR。2015年と言われる正式発表まで見逃せない一台であることは間違いありません。ただ、初代NSXの時と同じように、開発途中で大幅変更する可能性は否定できませんが…ね(笑)。
(大地 颯人)