1998年登場の初代フォード「FOCUS」は、Cセグメント車のリヤサスペンションに、いち早くコストの掛かるマルチリンクを導入するなど、このクラスの「走り」のレベルを大きく引き上げ、ゴルフをはじめとするライバル達もこれに追従しました。
2代目FOCUSも走りの面で同クラスのベンチマーク的な存在であり、とくに正確無比なハンドリングとロードホールディング性能の高さには、欧州や日本でも多くの熱心なファンを獲得しました。そして、3代目となる新型を擁して満を持しての日本再上陸。その大きな魅力は、キネティック・デザインによるエモーショナルなエクステリアデザイン、初代、2代目と受け継がれ、進化してきた卓越したドライバビリティにあります。
筆者が新型FOCUSを試乗したのは、プレス試乗会が行われた伊豆・長岡周辺。狭い温泉街をベースに、ワインディングから有料道路まで揃い、FOCUSのポテンシャルをうかがうには打ってつけのステージです。
新型FOCUSの心臓部は、2.0Lの直噴Duratec(デュラテック)エンジンで、ゴルフやボルボV40、メルセデス・ベンツAクラスなどのCセグメントモデルが軒並みターボエンジンを搭載する現在では、貴重なNA(自然吸気)で、吸排気に可変バルブタイミングを備えています。
組み合わされるトランスミッションは、日本は初導入となるデュアルクラッチ方式の6速「PowerShift」で、素早くしかもスムーズなシフトフィールを味わえます。
この新しいパワーパワートレーンにより、170ps/6600rpm、202Nm/4450rpmという最高出力と最大トルクを得ていますが、感触としては数値以上にトルクフルで、NAらしくターボラグはもちろん皆無。高回転域までしっかりと伸びやかに回り、しかもパンチ力もあるという、ホットなフィーリングでした。
先述したように、ゴルフやV40などのCセグメントモデルは、「小排気量+ターボ」によるダウンサイジングが進んでいますが、より排気量に余裕のある密度の詰まったパワーフィールはFOCUSならではの美点といえるでしょう。
そして、私が最も感銘を受けたのはシャーシの完成度。リヤサスペンションはもちろん定評あるマルチリンクで、スプリングやダンパー、ブッシュまでも緻密にチューニングされており、ボディ剛性の強化やシャーシの取付剛性などの局部剛性も確保されています。
また、前輪左右のブレーキを制御することでコーナリング性能を向上させるトルクベクタリング・コントロールも装備。ESPによって1秒間に100回の頻度で車両の動きを監視し、イン側のフロントタイヤがスリップするのを検知するとブレーキを掛けることで、アウト側のタイヤにトルク配分することでステアリングの応答性とトラクションが保たれるというもの。
しかし、このトルクベクタリングの作動は、注意深く観察してもドライバーには感知できないもので、自然なハンドリングを存分に享受できます。実際にワインディングを走らせると、水を得た魚のようなフットワークで魅せてくれます。しかも、タイヤの仕事ぶりが手に取るように分かるナチュラルなハンドリングが見どころ。
タイトなコーナーが続く山道でもボディコントロールのしやすさは、Cセグメント車随一といえるもので、運転が上手くなったような気にさせてくれますし、電動パワーステアリングにありがちな妙な軽さ、人工甘味料のような味付けなどはありません。
日本に導入される「Focus Sports」は、前後のスプリングとダンパーが約15%引き締められていますが、工事中の路面を通過しても足の硬さは感じさせず、無粋な揺れがほとんど伝わってこなかったのには、3代目となった進化ぶりを最も実感させられたシーンでした。
良好な乗り心地だけでなく、ロードノイズなどの騒音の遮断も十分なもので、現代のCセグメント車に求められる上質さも兼ね備えているのも美点と言えるでしょう。
■フォード・ジャパン・リミテッド
■フォード FOCUS特集
https://clicccar.com/ford_focus/
(塚田勝弘)