「日本のカローラ」は、46年間もの長い時間をかけて「世界のベストセラーカー」に成長しました。セダンから始まり、話題の「86」こと2ドアクーペ、ハッチバック、ハードトップ、ミニバン、ワゴン等、およそ乗用車ベースの派生車種はほぼ全て網羅してきました。サブネームや兄弟車戦略を巧みに組み合わせて、各時代の要請に応えながらカローラブランドを維持・発展させてきたのです。
ちなみに過去の「カローラのすべて」の電子本でカローラの車種&ブランド戦略を整理するだけでも、マーケティングの卒論が書けちゃうんじゃないかしら?それくらい大胆かつチャレンジングで、わかりやすいプロセスだったと感じています。
新型カローラでは、セダンとワゴンの2車種がラインナップされています。日本の今の市場はエコカー補助金の追い風を受けて「KCHM」、つまりK軽・Cコンパクト、Hハイブリッド、Mミニバンの4ジャンルが牽引しています。(KCHMは、自分が勝手に作った造語でございます。)
そんな中、カローラが開発コンセプトに掲げたのが「原点回帰」です。「カローラとは何か?」という自問から、新型の開発は始まったのだそうです。その結果、開発責任者の藤田さんが掲げた「原点」は、「大人4人が安心・安全・快適に長距離を移動できる最小のクルマ」というコンセプトでした。
ちょっと中身を分解してみましょう。「大人4人が移動できる最小のクルマ」といえば、昭和30年代の国民車構想そのものですよね。スバル360やホンダN360等の初期の軽自動車が思い出されます。これに「安心・安全・快適」の要素が加わると、最新の軽自動車がまさに該当していると思います。そして更に「長距離」というキーワードが加わると、まさに「日本のファミリーカー=日本のカローラ」に相応しいと、改めて実感します。
またカローラは「日本発」のブランドです。日本向けに開発したカローラを、世界各地に輸出・拡販するのがこれまでのパターンでした。ところが今回は、グローバルモデルの「ヴィッツ」のプラットフォームをストレッチして採用しています。つまりヴィッツの兄弟車になったのです。
正直クルマ好きとしては、少し残念な想いがあります。でも日本市場はKCHM全盛で、セダンの数が見込めない状況です。グローバルモデルから日本専用のローカルモデルを派生する今回の手法は、安価で高品質な製品を提供するうえで非常に合理的だと思います。
セダンのアクシオオーナーは、歴代カローラを乗り継いでいる目の肥えた年配世代が多いそうですから、当然前モデルよりも進化していなければそっぽを向かれてしまいます。またワゴンのフィールダーは、全世代に向けた「ライフスタイル商品」という位置づけですから、抜きん出た基本性能を備えていなければ愛車として選んで貰えないでしょう。
もちろんこのあたりはトヨタの誇りにかけて、カローラブランドの伝統に相応しい造り込みになっていることは言うまでもありません。
開発責任者の藤田さんによると、「フルモデルチェンジで小さくするのはカローラ史上初」とのこと。大きくなることが付加価値だった従来の価値観から、初めて「ダウンサイジング」に大きく舵を切った訳です。日本のカローラは、5ナンバー市場のド真ん中にいるのが、やっぱり一番似合うと感じる次第です。
(開発ストーリー編@拓波幸としひろ)