単にカッコよさだけでは生まれないクーペ&カブリオレのデザイン【CARSTYLING VIEWS 4】

フェラーリ・カリフォルニアはオープンとクーペを同時に楽しめるモデル。

特定のクルマが持つ、独特なメカニズムはクルマのデザインを否応なく支配します。そんな一例を、ここでは格納式ハードルーフを持つクーペ・カブリオレ(CC)で見てみましょう。ルーフをトランク内に格納する必要があることから、単に理想の形だけでフォルムを決めがたいのです。

2008年に発表されたフェラーリ・カリフォルニアは、599GTBフィオラノ(日本名:599)と同様のFRレイアウトを持ちながら、クーペにもオープンにもなる魅力的なモデルでした。座席は2+2と広めのレイアウトですが、そのルーフとリヤピラー&ウインドウがすべてトランクに格納される構造となっています。

フェラーリ・カリフォルニア(上)と599(下)。サイズは599がひとまわり大きいが、リヤまわりがやや高いのがカリフォルニア。

 

599と比較すると(写真は両車の角度が違い一見して比較することは難しいですが…)、カリフォルニアはリアフェンダー上部に一段ショルダーを作って再度リアデッキが盛り上がる構造となっています。599よりもコンパクトな寸法としていますので、リアオーバーハングは短くトランクも小さく見えますが、高さはけっこうあります。

カリフォルニア。FRレイアウトながら、ドライバーの頭部がトランクフードと同じくらいの高さ。のリアエンドは厚みを感じさせない配慮か、幅広の黒いガーニッシュが入る。

 

そのためでしょうか、リアビューにはリアデッキを高く見せない工夫があります。ナンバープレートの設置される部分は、横に広いブラックアウトされたガーニッシュが配されています。この横幅のガーニッシュは、それ以下のパーツをアンダーフロアの構造に見せる効果があるのではないでしょうか? 一見するとリアエンドはガーニッシュから上で、リアビューをスリムに見せる効果をもたらしています。

レクサスIS350C(上)とレクサスIS350(下)。IS-Cはルーフ格納構造を成立させるトランクと、格納できるリヤピラーの細い形、前傾したスタイルによってリヤフェンダー&トランクまわりが厚く見えやすい。

レクサスIS350Cでは、クーペスタイルを表現し、2+2の室内空間を覆うルーフをトランクに格納できるサイズとることなどから、かなり前傾して細いリヤピラーを持っています。さらに格納の要件から、Cピラー自体が短くなりその分トランク上面が盛り上がっています。またリアオーバーハングも5cmほど延長されています。IS-Cの場合は、実質的にはそれほどリアエンドは高くなっていないのに、高い印象を持ってしまう結果のようです。

 

対するインフィニティGコンバーチブル(日本未発売:スカイライン・クーペのCCバージョン)は制約を感じさせない好例といえそうです。クーペ自体はウェッジ・シェイプによる高いテールを持っているのですが、リアエンドのコンビランプをはじめとする造形をクーペよりあえて低く下げたデザインとしているのが特徴です。多くのモデルが屋根のないクーペであるのに対し、クーペらしさを離れてコンバーチブルなりの価値観で造形をつくりなおしているようです。

インフィニティGコンバーチブル(上)とクーペ(下)。コンバーチブルはクーペとは異なる価値をデザインでも表現。あえてリアエンドを下げる造形のなかに、マスの必要なルーフ格納部を馴染ませた。

 

力んだスタイルのGクーペに対し、穏やかさを持つのがGコンバーチブルの造形であるのがわかるはずで、そのなかで格納に必要なトランクトップ部をどう作るかを考えたようです。実はコンバーチブルでは、リアトレッドだけが1.4インチ(約3.6cm)ほど広がっていて、走行性能の確保と格納性を高める工夫が施されています。

しかし結果として生まれる外見は、格納したルーフとその隙間にできるトランク容量の考え方からも違ってきます。トランク容量をほとんど無視するのであれば、すっきりとしたトランクを造れますが、荷物をどれだけ積めるべきかはそのクルマのキャラクターによって決まるものです。

たとえば、こうしたCCは旅行に使うのも理想的です。長距離の移動中はクローズドで走り、旅行先の空気のきれいな場所でオープンエアを楽しみたいはず。そんな場合、最低限2人分の旅行用荷物は積めなければその価値は半減です。そのあたりから具体的なトランク容量は決まり、格納されるルーフと合わせたトランクエリアのサイズが決まります。2人の旅行は一例で、それぞれのクルマによってどんなシチュエーションを大切にするのかは違いますから、その狙いによってトランク容量は決まってくるはずです。

日本でも最近発表された新型メルセデス・ベンツSLK。ロードスターに割り切りつつも、ある程度の荷室容量は必須。ルーフだけを格納するなら、トランクはかなり低くできるでしょうが…

前述したフェラーリ・カリフォルニアは、フェラーリ初のトランクスルー機能を持ち、トランク容量も最大時で360リットル、ルーフ格納時でも260リットルを確保しています。ボディ重量はひとまわり大きな599と比較しても50kg重いことからしても、よりGT方向に徹し旅行を楽しむようなクルマにしたいという意図は見えてきます。

カリフォルニアのリアシートにはトランクスルーも採用するなど、荷物の積載を意識。リアシートは大人が座るには不足だが、荷物を置くには十分なスペース。

 

機能がデザインを制約するのはもちろんですが、その根本にはそのクルマ本来の狙いがあります。クルマのデザインは魅力を決める大きな要素ですが、どのように使われるために生まれてきたのかは、デザインを大きく左右する要素でもあります。そのあたりにまで踏み込んで見てみると、クルマそれぞれの味わいに触れることができるかもしれません。とはいえ、カリフォルニアは旅行を目いっぱい楽しむ真のグランド・ツーリング・フェラーリとしてデザインされてもよかったかもしれませんね。シューティング・ブレークとしてデザインされたフェラーリFFのような割り切りは、逆にカッコいいですよね。

フェラーリとしては異例なスポーツワゴン的正確のシューティング・ブレークを狙ったFF。狙いが素直にカタチに現れると、その異例さがクルマを引き立てることもある。

(MATSUNAGA, Hironobu)