自動車関連業界の方で津波から紙一重で逃れた話を直接聞きました【東北関東大震災】

ペインターのA-Handアヤさんは、エアブラシでクルマなどに人物やその他の絵を描く(ミューラルといいます)のが主な仕事です。

弊社発行の「J-lag」などに登場する、ドレスアップ車両などに描いていて、プラモデルにもなっています。今回、被災したアヤさんに、なくなってしまった雑誌とそのプラモデルを届けてきました。

アヤさんは、元々お父さんが塗装のお仕事をされていて、その影響もあり、エアブラシを持つようになったとか。とはいえ、お父さんのほうは粉体塗装で、電気の分電盤などが主な対象です。なので、塗装の基礎知識は一般人よりあったとはいえ、アヤさんは塗るのではなく、描くことなので、だいぶ種類は違っているようです。

そんなアヤさんは地震が起きたとき他社で打ち合わせをしていたそうです。

大きな地震に、実家のおばあちゃんが心配になり、普段使っているホンダ・フィットで塩竈まで帰ってみるとすでに避難済み。そして、幼稚園に6歳になる娘さんを迎えに行きます。そのころはまだ津波が来るとは思ってもいません。

フォットはガス欠寸前なので、一旦会社に戻り、ハイエースに乗り換えようとします。ところが、事務所の中は地震でグシャグシャ。ハイエースのキーが見つかりません。あきらめてフィットで逃げることに。

道路は大渋滞になっています。抜け道を使おうと、河原の道に出てみると、すでに川は大きな橋のすぐ下まで水かさを増しています。これは津波が来るのでは、と身の危険を感じ、少しでも高い方を目指して行きます。ですが、慣れた街といえども、どこの海抜が高いかを正確に把握しているわけではありません。

アヤさんの向かってる方向から波が向かってくるのが見えます。

とっさの判断でUターンし、一旦歩道に乗り上げ、ガソリンスタンドを抜けパチンコ屋さんの駐車場でフィットは完全にガス欠となります。周りのひとに助けを求めると、まったく知らない人ですが運良く乗せてくれる人に出会えました。

どうにか少し高くなっているコンビニの駐車場で助かることができたそうです。その後、フィットも無事だったので、結果的にはその場所でも助かったのかも知れません。

後日、会社に行ってみると、火災が起きていたようです。

シンナーなどがあるため、漏電して引火したのでは?と予想されます。

工場内の塗装ブースの上には、まったく知らないクルマが載っかっています。もしかすると中に人が入っているかも知れませんが危険なので確かめることもできません。

アヤさんは、その家族とともに全員命は助かりました。

後でわかったことでは、ハイエースの鍵はお母さんが持ち出していたそうです。でも、そこでハイエースに乗り換えていたらUターンもできず、歩道の先の幅が狭くなったところを通ることもできず、津波に飲まれていたかも知れません。お母さんが命を救ったのかも知れません。

タイミングが悪ければ火事に巻き込まれたかも知れません。

渋滞に巻き込まれず、河原に出なければ津波が来る危険を知り得なかったかも知れません。

紙一重で何事もいい方にも悪い方にも転んでいたと実感したそうです。

アヤさんが聞いた話では、

家族を避難させたものの避難所が津波に飲まれ、自分だけ助かった。

道ばたでよたよたと避難するおばあちゃんを避難所に連れて行ったおかげで自分も助かった。

逆に、避難所にいるから安心と思っていたら避難所が流された。

など、助かったかそうでなかったかは、一瞬の判断の結果でしかなかったとのことです。

生々しいアヤさんの体験をお聞きし、大げさでなく自分も生きているのは、たまたまなのでは?と思いました。だけど、生きていることになにかワケがあるのではないかとも感じました。

アヤさんの元には、多くのクルマを通して知り合った仲間、エアブラシの同業者など、その他多くのかたから暖かい言葉や物資が届いているそうです。もし運命というのがあるのなら、アヤさんはこれからもみんなと生きて行く必要があったから助かったに違いない、と感じました。

アヤさんのブログはコチラ>>>http://ameblo.jp/a-hand–a/

(小林和久)

この記事の著者

編集長 小林和久 近影

編集長 小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務める。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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