【自動車用語辞典:視認性「電子ミラー」】鏡の代わりにカメラとディスプレーで後側方を確認する技術

■ドアミラーより死角が減り視認性が向上する

●現状では懸念事項も

2018年10月、ドアミラーの代わりにカメラとディスプレーを用いて後側方の状況を確認する電子ミラーが、トヨタ・レクサスESで実用化されました。通常のドアミラーに対して死角が減り、視認性が向上するなど多くのメリットが期待できます。

電子ミラーのメリットと課題、今後の展開について、解説していきます。

●電子ミラーの解禁

2016年、EU/ECE(国際連合欧州経済委員会)でミラーに関する法規が一部改定されました。それに準じて道路運送車両の保安基準が改定され、日本で遂に電子ミラーが解禁されました。今のところ、規制対応しているのは日本と欧州だけですが、米国や中国も追従する予定です。

2018年10月にトヨタ・レクサスESが量産車では世界で初めて電子ミラーを実用化しました。また2019年には、アウデイの電気自動車「e-tron」にも電子ミラーが採用されます。運転支援技術や自動運転技術との親和性が高いため、今後世界中で普及することが予想されます。

●電子ミラーの構成

電子ミラーの機構自体は、最近普及しているバックモニターや映像で後方を映すルームミラーと同様のシステムです。
ドアミラーの代わりに、広角CMOSカメラによって後側方を撮影して、ECUで映像を画像処理して室内のディスプレー(レクサスは5インチ液晶)に映し出します。ディスプレーは、ドライバーが見やすい室内のAピラー部付近に設置されます。

電子ミラーは長細い棒状で、先端部の窪んだ部分にカメラが配置されています。雨水が流れやすいように配慮され、カメラが曇らないようにヒーターも内蔵しています。

電子ミラーの視野範囲
電子ミラーの視野範囲

●電子ミラーのメリットは

ミラーを小さなカメラに代えることによって、空気抵抗が改善してデザインの自由度も向上します。さらに、以下のような機能的なメリットがあります。

・現行のドアミラーの視野範囲(20°程度)に対して、視野範囲が2倍程度拡大
・カメラユニットがコンパクトになるため、ドアミラーによる死角の低減、また風切り音の低減による静粛性の向上
・ディスプレーが室内にあるので、左右の目線の移動量が小さく安全性が改善
・高速走行中は車両後方にフォーカス、交差点などの左右折時および後退時には自動で画像をズームして視認性を向上
・画像が明るいので、夜間の視認性が向上
・雨天時、サイドウインドウへの水滴による視認性不良の回避

電子ミラーによる視野範囲の拡大や死角の減少は、交通事故の減少や自動運転技術の向上に大きく貢献します。

●懸念事項と今後の展開

電子ミラーには、まだ十分な実績はありません。以下のような懸念事項があります。

・ドアミラーと異なる距離感や視界に対するドライバーの違和感
・ディスプレーを設置する場所の確保(レクサスESはAピラー下部に設置しているが、ディスプレーの後付け感が強く不評)・激しい雨や豪雪時でのカメラの視界の確保
・カメラが壊れる、システム異常があった場合の応急的な対応
・システムコストが、現行ドアミラーの約10倍と高価

コスト低減の余地はあるもののドアミラーと同等になることはないので、単なる映像機能だけでなく付加機能が必要です。

付加機能として期待されているのは、運転支援技術や自動運転技術との融合です。

例えば、周辺車両や歩行者、白線の検知による衝突回避や車線維持機能との連携、また360°サラウンドビューカメラと組み合わせて自動運転のための周辺状況の認識などです。


まだコストが高く、採用は高級車に限定されます。

単なるドアミラーの代替でなく、運転支援技術や自動運転技術のセンサーとしての役割も担えるので、将来的には大きく普及することが予想されます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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