【自動車用語辞典:衝突安全「4点式シートベルト」】身体をしっかり拘束できるが公道での使用は違法

■モータースポーツには欠かせぬ装備だが……

●「緩まない」構造が法令に違反する

2012年に、普通乗用車の全席に3点式シートベルトの設置が義務化されました。一方レーシングカーでは、身体をタイトに固定する4点式シートベルトが使われてます。安全にみえますが、実は公道の走行では決して安全ではなく、違法であるため公道を走行できません。

4点式シートベルトの安全性と法規適合性について、解説していきます。

●シートベルトに関する規定の経緯

シートベルトに関する設置義務は「道路運送車両の保安基準」で、シートベルトの着用義務については「道路交通法」で規定されています。

シートベルト設置義務とシートベルト装着義務の経緯は、以下の通りです。

・1969年:運転席にシートベルトの設置義務付け
・1973年:助手席にシートベルトの設置義務付け
・1975年:後席に設置義務付け
・2012年:後部中央座席に3点式シートベルト設置義務付け(全席3点式シートベルト設置)

・1985年:高速自動車道および自動車専用道路での運転席、助手席のシートベルト着用義務化
・1992年:一般路での運転席、助手席のシートベルト着用義務化
・2008年:全座席のシートベルト着用の義務化

以上より、普通乗用車で2012年以降のクルマについては、一部の特殊な車両を除いて全席3点式シートベルトの設置が義務化されています。それ以前に生産されたクルマについては、2点式シートベルトの着用で問題はありません。

シートベルト
さまざまなシートベルト

●シートベルトに関する規定内容

シートベルトの具体的な要件について、「道路運送車両の保安基準第22条の3」の中で以下のように規定されています。

・ハンドルやフロントガラスに頭部などが衝突しない、車外に放出されないように身体を固定すること
・シートベルト反力によって胸など身体を圧迫しないように、適度にシートベルトが緩む構造であること
・緊急時にベルトが瞬時に脱着できること
・視界確保やインパネ等の操作のために身体がある程度自由に動かせること

●4点式シートベルトは安全か、違法か

3点式シートベルトが左右腰部と片側肩部を固定するのに対して、4点式シートベルトは左右の肩と胸、腰部をベルトで固定します。

したがって、レース中に発生する大きな前後左右Gの中でもドライバーの姿勢を維持できるため、高い操縦性が確保できます。また、高速運転中の激しいクラッシュを想定すると、車外へドライバーが放り出されないためには4点式シートベルトが効果的です。

しかし、一般車に4点式シートベルトを装着して公道を走行すると、以下のような安全上の問題が発生します。

・運転時に身体が自由に動かせないため、スイッチ類が操作しづらく、視認性が悪い。
・緊急時に容易にベルトが脱着できない。
・身体をタイトに固定するためエアバッグが展開しても効果を発揮せず、頭部と頸部が激しい衝撃を受ける。

以上のように、安全が確保されず保安基準に適合できないことから、4点式シートベルトの公道での使用は違法です。

●HANS

レーシングカーでは、頭部と頸部の衝撃を緩和するため、ドライバーには首と頸部を保護するヘルメットとHANS(Head and Neck Support)の装着が義務付けられています。


4点式シートベルトは、あくまでレーシングカー専用であり、公道で使うのは危険で違法です。一方、日常的に使用している3点式シートベルトは、最近の安全意識の高まりを受けエアバッグとともに日々進化しています。

しかし、重要なことは他力に頼らず、自ら安全運転を心がけることです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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