【自動車用語辞典:タイヤとホイール「転がりのメカニズム」】どんな条件下でも路面との摩擦力を適正に保つ秘密

■摩擦力によって回転しクルマが動く

●タイヤの重要性を理解することが大切

タイヤは、路面との摩擦力によって回転して、クルマを動かします。したがって、タイヤの性能を発揮するためには、あらゆる条件下で路面との摩擦力を適正に保つことがポイントです。

タイヤに求められる基本性能と転がりメカニズムについて、解説していきます。

●タイヤに求められる性能

タイヤは、クルマの性能や安全、快適性を実現する重要な部品です。具体的に要求される性能としては、直進安定性、操縦安定性、ドライ&ウェット走行安定性、低燃費、乗り心地、静粛性、長寿命などが挙げられます。

タイヤは、路面との摩擦力によって回転して、クルマを動かします。したがって、要求性能を実現するためには、タイヤと路面間の摩擦とグリップ力を上手くバランスさせることが重要です。

●路面との摩擦力

濡れた路面や雪路・凍結路のように路面の摩擦力が小さくなると、タイヤのグリップ力が低下して、クルマの操作性が悪化します。一方で幅広(トレッド面積が大きい)タイヤを使うと、駆動力を効率良く路面に伝えることはできますが、グリップ力が強すぎ、後述の転がり抵抗が大きくなり燃費が悪化してしまいます。

理想的な摩擦力、グリップ力は、パワーが必要な加減速時は強く、定常走行はスリップしない程度に弱くなるタイヤが理想です。もちろん、現時点は運転条件に応じて摩擦力が制御できるような都合の良いタイヤはありません。

●さまざまな路面の摩擦係数

路面の摩擦状況を表す代表的な指標は、摩擦係数μ(ミュー)値です。例えば、乾燥した舗装路は0.8~1.0、砂利道0.4~0.6、雪道や凍結路0.05~0.2です。乾燥した舗装路のμ値は高いですが、雨などで濡れてさらに車速が100km/h程度まで上がるとμ値は0.3~0.4まで急落するので、注意が必要です。

●タイヤの転がり抵抗

転がり抵抗の要因としては、タイヤの変形や路面の凹凸、タイヤと路面の摩擦、車輪軸部のフリクション、タイヤの回転による空気抵抗などがあります。

平坦路走行ではタイヤの変形が、悪路では路面間の摩擦や路面の凹凸による損失が、転がり抵抗悪化の主因です。タイヤの空気圧が減ると変形しやすいので、燃費悪化の大きな要因になります。

エコタイヤでは、ゴム材料を強化してタイヤのたわみを軽減させたものが多く、これによって転がり抵抗を低減しています。

●ハイドロプレーニング現象

水溜りのある路面を低速で走行する場合、路面の水はトレッドパターンによって上手く後方に排出されます。しかし、高速では水の排出が間に合わなくなり、タイヤと路面の間に水膜が発生します。

この現象をハイドロプレーン現象と呼び、タイヤの摩擦力が消失し、クルマが制御不能になります。

ハイドロプレーン現象を防ぐには、トレッドパターンの溝を大きく深くして、水の排出性を良くすることが効果的です。しかし、トレッド表面の剛性の低下やタイヤノイズの増大など通常の性能が悪化するので現実的ではありません。慌てず車速を低下させるのが、最良の策です。

●スタンディングウェーブ現象

走行中のタイヤは、路面の接触部は変形、路面から離れるとすぐに復元、これを繰り返します。ところが、高速走行では変形の復元が間に合わなくなり、トレッド表面が波打つスタンディングウェーブ現象が起こります。

これによりトレッド表面が剥がれ、最悪の場合はタイヤバーストを起こしてしまいます。タイヤの空気圧が低い状態で高速走行するのは、非常に危険です。


タイヤ性能の重要性を気にしているドライバーは、意外と少ないように思います。

タイヤの性能は向上しているので、普通に運転している限り安全ですが、傷んだタイヤや空気圧の低いタイヤで走行すると非常に危険なことを認識しておく必要があります。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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