【自動車用語辞典:ブレーキ「電動ブレーキ」】マスターシリンダーをモーターの力で動かす電動化技術

■電動車両や運転支援技術と親和性が高い

●油圧をまったく使わないシステムも開発中

一般的な油圧ブレーキシステムは、ペダルの踏力を油圧に変換して、油圧制御によって制動力を発生させます。電動車や運転支援技術の実用化にともない、ブレーキを電動化する電動ブレーキの採用が進んでいます。

電動ブレーキの取り組みについて、解説していきます。

●電動ブレーキ

EVやPHEV、HEVなど電動車では、燃費やEV航続距離を延ばすために制動エネルギーを回収する回生ブレーキを使います。ただし、回生ブレーキだけではドライバーの要求制動力を確保できないため、不足分は従来の油圧ブレーキで補填する協調回生制御を行います。

回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を高精度に協調制御するためには、応答性の高い油圧制御機構が必要です。電動ブレーキブースターでは、従来のエンジン負圧を利用した負圧式ブレーキブースターの代わりに、応答性の高いモーターを使ってマスターシリンダーのピストンをストロークさせて油圧制御をします。

●電動ブレーキブースター

電動ブレーキブースターは、マスターシリンダーのストロークをアシストするタイプもありますが、多くは「ブレーキ・バイ・ワイヤ方式」で、ペダルとは独立してモーターによってマスターシリンダーのピストンを直接ストロークさせます。

まずブレーキペダルに取り付けたストロークセンサーから得られる信号から、車載モーターによる回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を決めて、油圧ブレーキの制御油圧を決定します。次に、ピストンストローク駆動部のモーターが、減速機構を介してボールねじを回転させます。ボールねじが回転することでピストンがストロークして、目標とするブレーキ油圧を発生します。

このとき、油圧ブレーキによる制動を極力小さくして、モーターによるブレーキ回生によって制動することによって、最大限の電気エネルギーを回収します。

●機能不良への対応

電動ブレーキブースターでは、通常はブレーキペダルとマスターシリンダーが機械的につながってないブレーキ・バイ・ワイヤ方式です。ただし万一の機能不良に備えて、フェイルセーフ用にブレーキペダルとマスターシリンダーが直接つながる経路も用意しています。

電動ブレーキ01
電動ブレーキブースターの構成
電動ブレーキ02
電動ブレーキと回生ブレーキの協調制御

●電気ブレーキ

まだ実用化されていませんが、油圧をまったく使わない電気ブレーキの開発が進んでいます。実用化は、2020年以降と予想されています。

キャリパーの中にモーターと遊星ローラーを組み込み、モーターによって直接ブレーキパッドを押し付けて制動します。先の電動ブレーキブースターに比べてさらに応答性は向上しますが、現時点は小型化と低コスト化が課題です。

電気ブレーキでは、十分な制動力を確保するにはモーターが大きくなり、コストも高くなります。現在、マイルドHEVのために欧州メーカーが取り組んでいる電源電圧48V化が拡大すれば、モーターの軽量小型化と大きな制動力が実現できるので、電気ブレーキが急伸する可能性があります。


運転支援技術の中でも、最も基本的な自動緊急ブレーキシステムが多くのクルマで採用されています。自動緊急ブレーキに要求されるのは、応答性の高さと安全性です。それゆえ、ブレーキの電動化が進むのは自然の流れです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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