車の排出ガスとは? 成分や影響、規制、低減技術を解説【自動車用語辞典】

■排出ガスの成分や影響とは

排出ガス対策

車の排出ガスは、環境や人体に悪影響を与えるため、成分ごとに排出量が規制されています。どんなに高性能で魅力的な車でも、排出ガス規制値をクリアしなければ世に出ることはありません。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとの違いに注目しながら、排出ガスの有害性や低減手法について、解説していきます。

排出ガス有害成分

自動車用燃料のガソリンと軽油は、原油から蒸留されたさまざまな「炭化水素CxHy」で、ガソリンはx=5~11(沸点30~220℃)、軽油はx=14~22(沸点200~350℃)の混合物です。

これらを燃料として、エンジンで完全燃焼すると、理想的にはCO2とH2Oになりますが、不完全燃焼を起こすと、CO(一酸化炭素)やHC(炭化水素)と、C(煤)を含んだPM(Particulate Matter:粒子状物質)が発生します。また、吸入空気中の窒素が酸素と結合して、NOx(窒素酸化物)が発生し、NOxは燃焼温度が高いほど増大します。これらのCO、HC、NOx、PMが有害物質として、排出ガスの規制対象です。

計測法と成分ごとの規制値は、国ごとに法規で定められ、日本では2018年10月からWLTCモード試験で燃費の計測と同時に行われます。

排出ガスと燃費・排出ガス分析装置
排出ガスと燃費・排出ガス分析装置

排出ガス有害成分が人体・環境に与える影響

排出ガスの成分のいったい何が有害なのでしょうか。

・CO
血液中のヘモグロビンと結合することで血液の酸素運搬能力が下がり、めまいや頭痛を起こし、最悪の場合は中毒症状によって死に至ります。

・HC
未燃の燃料で、HCは窒素化合物と光化学反応を起こし、光化学スモッグの原因となる光化学オキシダントを生成します。人体に有害で目を痛め、最悪の場合呼吸障害を引き起こします。

・NOx
大部分はNOですが、酸素やオゾンと反応してNO2になります。NO2は、人体に有害でオゾン層を破壊します。温室効果だけでなく、光化学スモッグや酸性雨の原因となります。

・PM
PMの主成分でもある煤の微粒子は、発がん性物質であり、肺などの呼吸器系障害を引き起こします。

ガソリンエンジンの排出ガス低減

ガソリンエンジンでは、三元触媒を使って、空燃比(吸入空気重量/燃料重量)の高精度制御によって、排出ガスを低減します。三元触媒は、エンジンの空燃比を理論空燃比14.7近傍に設定すると、CO、HC、NOxを同時に浄化することができます。そのため、排気管に装着した酸素サンサーによってフィードバック制御し、空燃比を精度良く理論空燃比に設定します。

ディーゼルエンジンの排出ガス低減

ディーゼルエンジンは、高温の圧縮空気に噴射した軽油が蒸発しながら自着火する拡散燃焼方式のため、煤を含むPMとNOxが発生します。PMとNOxには、一方を減らすともう一方が増えるというトレードオフの特性があり、同時低減が最大の課題です。

PM低減にはDPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルタ)が、NOx低減のためにはNOx吸蔵触媒か、尿素SCR(選択還元触媒)が必要で、排気系(後処理)のコストが高くなります。

煤(黒煙)は、酸素不足の燃焼で発生し、NOxは燃焼温度が高い場合に発生します。ディーゼルエンジンは、局所的にみれば軽油の液滴周辺は燃料が濃い(酸素不足)領域が存在し、煤が発生しやすくなります。また、ディーゼルエンジンは圧縮比が高く、全体としては酸素が多いので高温燃焼になりやすく、NOxが発生しやすい特性があります。

ディーゼルエンジンの燃焼状態
ディーゼルエンジンの燃焼状態

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの排出ガスは、その燃焼方式の違いから排出ガス成分も異なり、低減手法も異なります。本章では、両エンジンの違いに注目して、それぞれの排出ガスの特徴や低減手法、新しい規制RDEの動向の詳細について、個々に解説していきます。

■RDE(実走行)規制とは

欧州の大気環境改善策

欧州では2017年9月から、新しい排出ガス・燃費の試験法としてWLTCとともに、実際の路上走行の排出ガス低減を目的としたRDE(Real Driving Emission)規制が導入されています。日本では、WLTCは2018年10月から、RDE規制は2022年から導入が始まりました。

VWディーゼル車の排出ガス不正

2015年9月、米環境保護局(EPA)がフォルクスワーゲン(VW)グループに対し、大気汚染防止法の違反通知を発行しました。ディーゼル車で組み込まれていた不正ソフトは「Defeat Device(無効装置)」と呼ばれる違法行為です。これは、走行パターンを分析してモード試験を受けていることを検出すると、その場合のみ排気ガス中の有害物質の排出量を低減するような仕組みです。

この種の不正ソフトは、過去にも多くの事例がありましたが、これだけ多くの車種、数に適用した例はなく、大きな社会問題となってディーゼル車の普及に水を差すことになりました。

VWディーゼル車の不正は、エンジン回転やステアリングの挙動から、モード運転中か、一般の路上走行中かを判断して、路上走行の場合はEGRを減らす(NOxを大量放出)等の操作によって、ドラビリや走行性能を確保するという内容でした。

モード試験はNEDCからWLTCへ

欧州は2017年9月(日本では2018年10月)から、従来のNEDC(New European Driving Cycle)モード試験に代わって、世界基準の燃費・排出ガス試験法WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)モード試験が施行されています。車の燃費・排ガスを適正に評価する、国際的に統一された試験法です。

WLTCモード試験は、従来のNEDCに比べて、最高車速が高く、加減速が多く、走行時間や距離が長くなります。走行パターンは、「低速(市街地走行)」「中速(郊外走行)」「高速(高速道路走行)」「超高速」の4つのフェーズに分けられ、全体の平均燃費値とともに、フェーズごとの燃費値も表示することが義務付けられています。

NEDCモード試験とWLTCモード試験
NEDCモード試験とWLTCモード試験

新しい試験法RDE

欧州では、排出ガス規制が段階的に強化されているにもかかわらず、主要都市部の大気環境悪化に歯止めがかからないことが、問題視されていました。この原因のひとつとして、NEDCモードの排出ガス値と実際の路上走行の排出ガス値に大きな乖離があることが指摘されました。

この排出ガス値の乖離を解消するために、新しい試験法RDEの検討が始まり、2015年のVWの排出ガス不正の発覚によって、施行への動きが一気に加速しました。

RDE試験の対象

RDE試験では、NEDCモードの走行条件以外の日常的に使用する、すべての運転条件が排出ガス試験の対象です。車速だけでなく、加減速や標高や外気温なども、幅広く規定されています。その条件に合致した一般走行路を実際に走行し、排出ガスを車載排出ガス分析計PEMS(Portable Emissions Measurement System)で計測します。

NOxの規制値は、第一段階(2017年9月〜)では、ディーゼル車とガソリン車ともにNEDC(Euro6)規制値の2.1倍以下に設定されています。排出ガスの計測対象となる運転条件は、NEDCモード試験<WLTC<RDE試験と大きくなります。

RDE運転領域
RDE運転領域

高速運転が多いWLTC試験やRDE試験の導入は、NOx排出量が多いディーゼル車にとっては、大きな障壁になっています。低コストで効果的にNOxを下げる手法が必要ですが、今現在は尿素SCRを利用した低減手法が一般的で十分なコスト低減は困難です。その結果、またVWの不正の影響もあり、2010年頃には欧州のディーゼル車シャアは50%近くありましたが、今現在(2023年)は30%程度まで落ち込んでいます。

■触媒技術とは

後処理システムの進化

厳しさを増す排出ガス規制への適合には、エンジンの改良とともに、触媒などの後処理システムの技術進化が大きく貢献しています。燃焼方式の異なるガソリンエンジンとディーゼルエンジンには、機能の異なる触媒が必要です。それぞれの触媒の構成や機能について、解説していきます。

触媒

触媒は、断面が円形あるいは楕円形で、内部はハニカム形状のセラミックなどの構造になっており、その表面には貴金属微粒子を担持した触媒コート層が塗布されています。触媒コート層の表面上を、規制対象の有害な成分CO、HC、NOx、PMが通過すると、化学反応によって無害な成分に浄化されます。

初期の触媒は、排気系に装着するだけの簡単なものでした。最近は、より高い効率で排出ガスを浄化するために、排気温度や空燃比(燃料と空気の質量比)などを高精度に制御する必要があります。

触媒の構造と三元触媒の浄化効率
触媒の構造と三元触媒の浄化効率

ガソリン用三元触媒

三元触媒の触媒コート層には、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)などの貴金属微粒子が担持されています。この表面を排出ガスが通過すると、COとHCはPtとPtによる酸化反応、NOxはRhの還元反応によって、有害な3成分が同時に浄化されます。

・COの酸化  2CO + O2 → 2CO2
・HCの酸化  4CxHy + (4x + y)O2 → 4xCO2 + 2yH2O
・NOxの還元 2NOx → xO2 + N2

この3つの反応を同時に進行させるためには、エンジンの空燃比を理論空燃比14.7近傍に設定する必要があります。そのため、排気管に装着した酸素サンサーによってフィードバック制御し、空燃比を精度良く理論空燃比に設定します。

酸素センサーの出力特性
酸素センサーの出力特性

ディーゼル用NOx吸蔵触媒

ディーゼルエンジンの燃焼は、ガソリンと異なり、希薄(リーン)燃焼です。したがって、ガソリンエンジンのように三元触媒が使えず、希薄燃焼下でNOxを下げるNOx吸蔵触媒や尿素SCRが必要です。NOx吸蔵触媒には、貴金属微粒子に加えてBa(バリウム)などの吸蔵材が担持されています。

NOx吸蔵触媒は、まず排出されたNOをNO2に酸化して触媒の吸蔵材に吸蔵します。十分に吸蔵した時点でリッチスパイク(定期的にリッチ燃焼にする)を行いHC、CO、H2を供給します。これらが還元剤となり、吸蔵したNO2をN2に還元するという手法です。

Nox吸蔵触媒の浄化イメージとDPF+NOx吸蔵触媒の後処理システム
Nox吸蔵触媒の浄化イメージとDPF+NOx吸蔵触媒の後処理システム

尿素SCR(選択還元触媒)

尿素SCRシステムは、尿素を高温の排気ガス中に噴射し加水分解によってアンモニアを生成し、アンモニアを還元剤として、NOxをN2に還元する手法です。

NOx吸蔵触媒よりも、浄化効率は高いですが、システムが複雑でコストは高くなります。また、NOx吸蔵触媒は還元剤として燃料を余分に供給するため、燃費悪化やCO2の増加を伴います。一方、尿素SCRではアンモニアを還元剤とするため、燃費悪化やCO2が増加しないというメリットがあります。

DPF+尿素SCRの後処理システム
DPF+尿素SCRの後処理システム

DPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルター)

PMについては、セラミック製のウォールフロータイプのDPFで浄化します。内部は、ハニカム状の通路を互い違いに目封じした構造で、表面には触媒コート層が塗布されています。

排出ガス中の煤を主にしたPMは、DPF内部の多孔質のフィルタで捕集されます。規定量のPMが堆積すると、PMは再生制御(エンジンで定期的に高温に制御)によって、燃焼させて除去されます。現在は、ほとんどのディーゼル車にDPFが装着されています。

DPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルター)
DPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルター)

ガソリンエンジンについては、魔法の薬「三元触媒」によって、排出ガス規制への適合はそれほど難しくはありません。一方、ディーゼルエンジンは、複数の触媒とそれを効率よく機能させる高精度制御が必要で、適合の難易度はガソリンよりはるかに高いです。

■クリーンディーゼルとは

ディーゼル排出ガス低減技術

2000年以降、世界中でディーゼル車の排出ガス規制が強化され、ディーゼルエンジンの排出ガス低減技術は飛躍的に進化しました。日本では、最新のポスト新長期規制に適合したエンジンを、従来のディーゼルと区別して「クリーンディーゼル」と呼んでいます。排出ガス規制の推移と、クリーンディーゼルの技術について、解説していきます。

ディーゼル排出ガス規制の推移

2000年以前のディーゼル車は、排出ガスが汚く、騒音も大きく、環境にとっては悪者でした。特に2000年頃の東京都による「ディーゼル車NO作戦(ディーゼル乗用車に乗らない、売らない、買わない)」が、イメージの悪化に拍車をかけました。

ディーゼル車のシェアが高い欧州は、2000年以降、世界に先行してEuro3からEuro4、Euro5、現行のEuro6へと、NOxとPM(煤などの粒子状物質)の規制値を段階的に強化してきました。試験法のWLTCへの変更やRDEの導入を経て、今現在は2025年に施行予定のEuro7に向けた議論がされています。

日本でも同様に、新短期から新長期、現行のポスト新長期規制へと強化してきました。従来のディーゼルと区別するために、2009年から施行されている現行のポスト新長期規制に適合したエンジンを「クリーンディーゼル」と呼んでいます。クリーンディーゼル車は、「次世代自動車」のひとつと位置付けられ、自動車取得税と重量税が全額免除されるという優遇措置を受けていました。しかし、エコカー減税の改正によって、2023年5月1日からは、その優遇措置が廃止され、ガソリン車と同じ扱いになりました。

ディーゼル車排出ガス規制値の推移
ディーゼル車排出ガス規制値の推移

クリーンディーゼル排出ガス低減技術

ディーゼルエンジンでは、酸素不足に起因する煤などのPMと、燃焼温度が高いことによって発生するNOxの低減が最大の課題です。PMとNOxがトレードオフの関係であることが、より低減を困難にしています。厳しい排出ガス規制に適合してクリーンディーゼルと呼ばれるためには、コモンレール噴射システムと過給技術、後処理技術の3つの技術開発が必要です。

以下の3つの技術を組み合わせることによって、現行の日本のポスト新長期規制や欧州のEuro6をクリアすることは可能ですが、コストがかかることが大きな課題です。

コモンレール噴射システム

1990年代後半に実用化されたコモンレール噴射システムによって、燃料噴射の噴射量や圧力、噴射時期、噴射回数を自在に制御できるようになりました。

ディーゼルエンジンは、噴射した燃料が自着火して燃焼するため、燃料噴射のパターンで燃焼を制御できます。特に、1回の燃焼行程中に噴射を複数回に分ける多段噴射によって、排出ガスと燃焼音を同時に低減できます。

ディーゼルコモンレール噴射
ディーゼルコモンレール噴射

過給技術

NOxを低減するために、通常は排出ガスの一部を吸気に戻すEGR(Exhaust Gas Recirculation:排出ガス再循環)を採用しますが、このとき吸気量不足(酸素不足)となり、煤が発生します。煤の発生を抑えるためには、過給によって新気量を増やす必要があります。そのため、応答性の良いVGT(可変容量ターボ)や2ステージターボを採用しているケースが多いです。

後処理による排出ガス低減

ディーゼルエンジンの燃焼は、ガソリンと異なり、希薄(リーン)燃焼です。理論空燃比で燃焼させると、噴射された軽油の液滴周辺が過濃(リッチ)になり、大量の煤が発生します。したがって、ガソリンエンジンのように三元触媒が使えず、希薄燃焼下でNOxを下げるリーンNOx触媒が必要です。

PMについては、DPF(ディーゼルパーテュレート・フィルター)で浄化します。DPFは、煤を主にしたPMを、多孔質のフィルターで捕集して、エンジンで定期的に高温制御して、捕集した煤を燃焼除去します。現在は、ほとんどのディーゼル車に装着されています。

NOx触媒としては、日産・エクストレイルや三菱・パジェロが採用しているNOx吸蔵触媒と、トヨタ・ランクルが採用している尿素SCR(選択還元触媒)システムがあります。SCR触媒の方が、NOx浄化率は高いのですが、コストが高くなります。また、マツダの「SKYACTIV-D」はNOx触媒を使わず、低圧縮比や燃焼制御技術でポスト新長期規制に適合したすばらしい技術です。

2015年に発生したVWディーゼル車の排出ガス不正やRDE(実走行排出ガス)規制の施行など、ディーゼル車にとっては、逆風状態が続いています。

世界的にみても、多くのメーカーは電動車の開発に注力しており、ディーゼルのシェアは徐々に下がっています。

■ディーゼルエンジンの対策とは

制御パラメータバランスが重要

ディーゼルエンジンにとっては、排出ガスの低減、特にNOxとPMの同時低減が最大の課題です。解決のためには、噴射系技術、過給技術、後処理技術など多くの制御パラメータをバランス良く最適化することが重要で、その技術的難易度は高いです。

今も開発者を悩ませているディーゼルエンジンの排出ガス低減手法について、解説していきます。

車の排出ガスと排出ガス中のPM構成
車の排出ガスと排出ガス中のPM構成

排出ガス計測法

排出ガスと燃費は、「WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)モード」試験で同時に計測されます。モード試験では、試験車をC/D(シャシーダイナモ)メーターのローラー上で、世界基準の走行を模擬した走行パターンで走行させ、排出ガス(CO、HC、NOx)と燃費を計測します。

計測法と成分ごとの規制値は、国ごとに法規で定められていますが、今現在「試験法や規制値の世界標準化」が進められています。この世界標準化の動きに応えて、日本は2018年10月から従来のJC08モード試験に代わって、国際的に統一された試験法WLTCモードが導入されました。世界的に試験法や規制値が統一されれば、輸出車専用の開発を進める必要がなくなり、メーカーの負担は大きく軽減されますが、技術レベルの違いなどそれぞれの国の事情もあるので、まだ統一化は限定的ですが、徐々に世界的に広がっていくと予想されます。

ディーゼルエンジンの排ガス低減は難しいのか

排出ガス規制の対象となる成分は、CO、HC、NOx、PM(Particulate Matter:粒子状物質)です。酸素不足に起因する煤を主にするPMと、燃焼温度が高いことによって発生するNOxの低減が最大の課題です。PMとNOxがトレードオフの関係であることが、より低減を困難にしています。

排出ガスの低減には、エンジンの「燃焼制御によって低減」する方法と、エンジンから排出された後に触媒などの「後処理技術で低減」する方法があります。

ここでは、燃焼制御として燃料噴射方法(噴射時期、噴射圧力、噴射パターン)、後処理技術としてDPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルター)、NOx吸蔵触媒と尿素SCR(選択還元触媒)について説明します。

ディーゼルエンジンの燃焼状態
ディーゼルエンジンの燃焼状態

燃焼制御による排出ガス低減

ディーゼルエンジンでは、電子制御のコモンレール噴射システムによって、噴射時期、噴射圧力、噴射パターンなどを運転条件に応じて最適化します。特に、1回の燃焼行程中に噴射を複数回に分ける多段噴射は、排出ガスと燃焼音を下げる有効な方法です。

後処理による排出ガス低減

ディーゼルエンジンの燃焼は、ガソリンと異なり、希薄(リーン)燃焼です。理論空燃比で燃焼させると、噴射された軽油の液滴周辺が過濃(リッチ)になり、大量の煤が発生します。したがって、ガソリンエンジンのように三元触媒が使えず、希薄燃焼下でNOxを下げるリーンNOx触媒が必要となります。

NOx吸蔵触媒は、まず排出されたNOをNO2に酸化して触媒の吸蔵材に吸蔵させます。十分に吸蔵した時点で定期的にリッチ燃焼にしてHC、CO、H2を供給し、これらが還元剤となり、吸蔵したNO2を還元するという手法です。

尿素SCRシステムは、尿素を高温の排気ガス中に噴射し加水分解によってアンモニアを生成し、アンモニアによって、NOxをN2に還元する手法です。NOx吸蔵触媒よりも、浄化効率は高いのですが、システムが複雑でコストが高くなります。

DPF+NOx吸蔵触媒の後処理システムとDPF+尿素SCRの後処理システム
DPF+NOx吸蔵触媒の後処理システムとDPF+尿素SCRの後処理システム

PMについては、DPFで浄化します。DPFは、煤を主にしたPMを、多孔質のフィルタで捕集して、エンジンで定期的に高温制御して、捕集した煤を燃焼除去します。現在ほとんどのディーゼル車に装着されています。

DPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルター)
DPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルター)

リーンNOx触媒としては、浄化効率が高い尿素SCRが主流となりつつありますが、簡素で低コストなNOx吸蔵触媒は小型車で採用する傾向があります。

燃費が良く軽油も安いのに、なぜ日本ではディーゼル乗用車が普及しないのでしょうか。

その理由としては、ディーゼル車はエンジン本体と排ガス対策のためにコストがかかるため、通常はガソリン車よりも20万~30万円ほど高価格であることが挙げられます。軽油も安く、燃費も良いディーゼル車の維持費(燃料費)はガソリン車よりも安く済むので、走行距離の長い欧州車では高い車両価格分を比較的短い期間で解消できますが、走行距離が短い日本車では高い車両価格分をなかなか解消できません。日本は、欧米に比べて生涯走行距離が短く、低燃費と安い軽油というディーゼル車の恩恵を得にくいのです。

■三元触媒とは

三元触媒と空燃比制御の組み合わせ

ガソリンエンジンの排出ガス低減は、CO、HC、NOxを同時に浄化する三元触媒と、酸素(O2)センサーを用いた空燃比の高精度制御の組み合わせによって実現しています。メーカーによる違いがほとんどない完成された技術である、ガソリンエンジンの排出ガス低減手法について、解説していきます。

排出ガス計測法

排出ガスと燃費は、「WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)モード」試験で同時に計測されます。モード試験では、試験車をC/D(シャシーダイナモ)メーターのローラー上で、世界基準の走行を模擬した走行パターンで走行させ、排出ガス(CO、HC、NOx)と燃費を計測します。

計測法と成分ごとの規制値は、国ごとに法規で定められていますが、現在「試験法や規制値の世界標準化」の動きがあります。この世界標準化の動きに応えて、日本は2018年10月から従来のJC08モード試験に代わって、国際的に統一された試験法WLTCモードが導入されました。

車の排出ガスと燃費と排出ガスと特性
車の排出ガスと燃費と排出ガスと特性

ガソリンエンジンの排出ガス低減手法

排出ガス規制の対象となる成分は、CO、HC、NOx、PM(Particulate Matter:粒子状物質)です。ガソリンエンジンの場合、吸気行程でガソリンと吸気をあらかじめ混合させる予混合方式なので、均一な混合気が形成されます。したがって、煤が発生しやすい局所的な燃料過濃領域が存在せず、問題となるレベルのPMは発生しません。そのためCO、HC、NOxをバランスよく低減させることがポイントです。

排出ガスの低減には、エンジンの「燃焼制御によって低減」する方法と、エンジンから排出された後に触媒などの「後処理技術で低減」する方法があります。

ここでは、燃焼制御として点火時期とEGR(Exhaust Gas Re-circulation:排出ガス再循環)システム、後処理技術として三元触媒について説明します。

燃焼制御による排出ガス低減

点火時期を変更することによって、燃焼が変化し、燃費や排出ガス成分が影響を受けます。

点火時期を進めると燃費は良くなりますが、燃焼温度が上がりNOx排出量は増え、ノッキングしやすくなります。一方、点火時期を遅らせると燃費は悪化しますが、NOxは下がり、また排出ガスの温度が上がるので触媒の浄化効率が上がる効果があります。

燃費と各排出ガスの排出量のバランスを取りながら、点火時期を運転条件ごとに最適化します。

EGR(Exhaust Gas Recirculation)は、排出ガス(不活性ガス)の一部を吸気系に還流して、燃焼温度を下げ、NOxを低減する代表的な手法です。

不活性ガスが吸気に混ざることによって、同一出力を得るためのスロットル開度が大きくなるため、スロットル絞りによるポンピング損失が減少し、燃費が向上する効果もあります。

ほとんどのガソリンエンジンとディーゼルエンジンが採用しているEGRですが、燃焼が悪化するデメリットもあるので、導入するEGR量には限界があります。

EGRシステムと三元触媒の浄化効率
EGRシステムと三元触媒の浄化効率

後処理による排出ガス低減

ガソリンエンジンのほぼすべてが、三元触媒を使って排出ガス規制に適合しています。

三元触媒は、エンジンの空燃比(吸入空気重量/燃料重量)を理論空燃比14.7近傍に設定することによって、CO、HC、NOxを同時に浄化できます。

空燃比を理論空燃比近傍に精度良く設定するため、排気管に装着した酸素センサーによってフィードバック制御します。

なお、三元触媒では、COとHCは酸化反応、NOxは還元反応で有害3成分を同時に浄化します。

・COの酸化  2CO + O2 → 2CO2
・HCの酸化  4CxHy + (4x + y)O2 → 4xCO2 + 2yH2O
・NOxの還元 2NOx → xO2 + N2

三元触媒は、「魔法の薬」と呼ばれるほどに、ガソリンエンジンの排出ガス低減にとって画期的な技術です。より高い燃費向上を目指すリーンバーン(希薄燃焼)の場合は、設定空燃比が理論空燃比より大きいので、三元触媒は使えません。リーンバーンを実現する技術とともに、排出ガスを低減する技術の開発も大きな課題です。

(Mr.ソラン)

クリッカー自動車用語辞典 https://clicccar.com/glossary/