【第11回・2020年7月11日公開】
マツダといえばロータリーエンジン、ロータリーエンジンといえばマツダ・・・この論に異を唱えるひとはいないでしょう。
第4章から、ロータリーエンジンのお話に入ります。
昭和30年代後半、東洋工業は総合自動車メーカーを目指し、乗用車にさまざまな最新技術を積極的に導入しました。
その中でもっとも象徴的なのがロータリーエンジンの開発です。
1959(昭和34)年12月のドイツのNSU社がロータリーエンジンの開発に成功したとの報道を受け、東洋工業は1961(昭和36)年に技術提携を結びました。早期の実用化を目指して、1963(昭和38)年にロータリー研究部、翌年にはロータリーエンジン研究室を設け、全社を挙げて開発に取り組み始めたのです。
第4章 世界初のロータリーエンジン量産化(ロータリーの歴史1)
その1.バンケル式ロータリーエンジンの技術提携と開発着手
●NSU社によるロータリーエンジン発明
ほぼすべての自動車が搭載しているレシプロ(ピストン往復)機関は、燃料が爆発した際のエネルギーで発生するピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出します。
吸入・圧縮・爆発・排気という4つの行程を、ピストンが2往復(エンジンが2回転)する間に行います。
一方ロータリーエンジンは、三角おむすび型の「ローター」とまゆ(楕円)型の「ローターハウジング」で構成されます。
ローターの回転とともに、ローターとハウジングで形成される空間が容積を変えながら、吸入・圧縮・爆発・排気行程の4行程を形成して繰り返します。
ロータリーエンジンは、爆発によるローターの回転をそのまま動力に利用できる効率のよい機構であり、すでに16世紀頃から注目されていました。レシプロエンジンのように、往復運動を回転運動に変換するといった余計なひと手間がない点でロータリーエンジンのほうが効率的なのです。
代表的な試みに1799年の英国のマードックによるロータリー式蒸気機関や、1908年のウンブレービィのロータリー内燃機関の前例がありますが、いずれも実用化のレベルには到達できませんでした。
1959(昭和34)年、ドイツNSU社(後にアウディに吸収合併)がロータリーエンジンの開発に成功したと発表し、その機構やメリットが世界中から注目を集めました。
理想的な熱機関であるとの声も挙がり、NSU社は日本をはじめ、世界の多くのメーカーから技術提携の申し込みを受けました。
●NSU社との技術提携の締結
東洋工業は、いち早くロータリーエンジンへの挑戦を決めて、技術提携に向けて動き始めました。
トラックでは実績があるものの、乗用車への参入が遅れた東洋工業にとっては、先進的なロータリーエンジンは非常に魅力的でした。先端技術としての将来性もさることながら、技術力でメーカーとしての将来性をアピールすることによって、資金調達を容易にして設備投資などを強化するというねらいもありました。
松田恒次社長一行は、技術提携の交渉のために現地ドイツのNSUを訪れ、エンジン試験の見学や試作車の試乗を行いました。
ときは1960(昭和35)年10月3日。このNSU視察は、松田恒次社長にとって初の海外渡航でもありました。
NSU社のロータリーエンジンは、発表どおり静かで振動が少なく、また試乗車はスムーズな加速性能を発揮し、一行はそのポテンシャルの高さを確信しました。
なにしろその振動の少なさたるや、高速回転中のロータリーエンジンの上に硬貨を直立させても倒れないほどだったのです。
その後早々とした10月12日の仮調印をはさみ、翌1961(昭和36)年に日本政府にロータリーエンジンに関する技術提携契約締結の認可を提出、7月4日に認可がおりて正式契約の締結に至りました。
このときに東洋工業は、ロータリーエンジンの実用化に向けた第1歩を踏み出したのです。
●開発に向けた社内体制の強化
技術提携の締結直後にロータリーエンジン開発委員会を設置して、NSU社からの設計図面を参考にしてエンジンの試作に着手しました。
1963(昭和38)年にロータリー研究部を、1964(昭和39)年にはロータリーエンジン研究室を設置しました。開発を加速するため、開発体制の強化と研究設備の充実を図りました。
開発リーダーには松田恒次社長の長男である松田耕平副社長が任され、ロータリー研究部の部長には「ミスターロータリー」と呼ばれた山本健一(後に社長)が任命されました。
ロータリー研究部には、各部門から優秀な人材を47人集め、後に赤穂浪士になぞらえて「ロータリーエンジン四十七士」と呼ばれました。
しかし実際に試作エンジンを運転してみると、予想を超える多くの課題が露見し、耐久信頼性の低さがロータリーエンジンの商品化を阻む大きな障壁であることを、開発陣は痛感させられたのです。
(Mr.ソラン)
第12回につづく。
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