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■OEM車と共同開発車との違いは?
見覚えがあるクルマになぜか別のメーカーのマークが付いている? こんな思いを経験したことがある方も多いでしょう。これは製造元のメーカーと同じクルマを別のメーカーが販売する「OEM車」というものです。
ちょっと紛らわしいのですが、ではなぜメーカーはOEMをやるのでしょうか? また、最近はメーカー間で共同開発したクルマ、共同開発車というものも出てきていますので、それぞれの違いなども踏まえて、ご紹介しましょう。
●OEM車はマークと車名を変えるだけ?
OEMは、英語の「original equipment manufacturer」の略で、他メーカーが生産したクルマを自社ブランドで販売することを意味します。
車名を変えてクルマのマーク(エンブレム)を自社ブランドのものに変更するだけのものから、フェイスデザインなども変えているモデルなど、様々な車種があります。
以下に、OEM車の例をいくつか挙げてみましょう。
【OEM車の例】
<供給元がダイハツの例>
・ダイハツ・ロッキー→トヨタ・ライズ
・ダイハツ・ブーン→トヨタ・パッソ
・ダイハツ・トール→トヨタ・ルーミー/タンク、スバル・ジャスティ
・ダイハツ・ウェイク→トヨタ・ピクシスメガ
・ダイハツ・ミラ イース→トヨタ・ピクシス エポック、スバル・プレオ プラス
・ダイハツ・キャスト→トヨタ・ピクシス ジョイ
・ダイハツ・タント→スバル・シフォン
・ダイハツ・ムーヴ→スバル・ステラ
・ダイハツ・コペン→トヨタ・コペンGR
<供給元がトヨタの例>
・トヨタ・カムリ→ダイハツ・アルティス
・トヨタ・プリウスα→ダイハツ・メビウス
<供給元がスズキの例>
・スズキ・アルト→マツダ・キャロル
・スズキ・ハスラー→マツダ・フレアクロスオーバー
・スズキ・ワゴンR→マツダ・フレア
・スズキ・スペーシア→マツダ・フレアワゴン
・スズキ・ソリオ→三菱デリカD:2
・スズキ・エブリイワゴン→マツダ・スクラムワゴン、日産NV100クリッパーリオ、三菱・タウンボックス
<供給元が日産の例>
・日産セレナ→スズキ・ランディ
ご覧の通り、かなり数が多いですね。最近話題のロッキーとライズといったコンパクトカーをはじめ、ダイハツやスズキが生産している軽自動車にもかなりのOEM車が存在します。
特に軽自動車のOEMでは、軽自動車を生産していないトヨタや、軽自動車の製造を辞めてしまったスバルやマツダが、ダイハツやスズキからクルマの供給を受けているケースが多く見受けられます。
中でもダイハツは現在、トヨタ傘下の企業ということもあり、多くの軽自動車をトヨタに供給。
面白いのは、トヨタのセダンモデルであるカムリのOEM車としてダイハツがアルティスを販売していること。あまり街で見かけないレアなクルマですよね。
ちなみに、上記の例には商用車は入れていません。ところが、たとえばスズキのエブリイがマツダ・スクラムバン、日産NV100クリッパー、三菱・ミニキャブ バンとして販売されているなど、商用車の生産から撤退したメーカーが他メーカーからOEM供給を受けている例もあります。
●メーカー同士がタッグを組む共同開発車
一方、他メーカーで生産した車両を自社のブランドで販売するという意味では同じですが、開発などを2社が共同で行う共同開発車というものもあります。
こちらも、以下に例を挙げてみましょう。
【共同開発車の例】
・日産ルークスと三菱・ekスペース/ekクロススペース
・日産デイズと三菱・ekワゴン
・トヨタ86とスバルBRZ
・トヨタ・スープラとBMW Z4
こういった共同開発車には、エンブレムと車名を変えるのみではなく、内外装や足まわりの設定など、それぞれのメーカー向けに変更しているモデルも多く存在します。
たとえば、軽スーパーハイトワゴンの日産ルークスと三菱・ekスペース/ekクロススペースの場合は、日産自動車と三菱自動車が共同で設立した会社NMKVが開発を担当、三菱自動車で製造を行っています。
これらは、エンジンや車体といったクルマのベースとなる部分は同じ。ですが、シャープなイメージのルークス、親しみやすいekスペース、タフなSUV風デザインのekクロススペースと、それぞれのフェイスデザインや内装などの装備を変更することで、各キャラクターに合わせた設定を行っています。
●OEM車と共同開発車それぞれのメリット
これらにはそれぞれどんなメリットがあるのでしょうか?
まずOEM車の場合は、販売戦略上の理由から、ラインアップを充実させるために販売されていることが多いといえます。
軽自動車の場合でいえば、前述の通り、トヨタやマツダ、スバルなどは軽自動車を生産していません。ところが、たとえばそれまで自社のクルマに乗っていたユーザーが軽自動車に乗り換えたいといったケース。その時、そのメーカーに売るモデルがなければ、当然ながら他メーカーにユーザーを奪われることになります。
そうなると、今まで販売会社に点検整備や車検などで訪れてくれていたお客さんをなくすことになり、販売会社はもちろん、メーカーとしても新型車の乗り換え需要を失うことになります。買うお客さんが減ることは、企業としては大きな痛手ですからね。
かといって、メーカーとしては今さら莫大な開発費や生産工場への設備投資をして、新しく軽自動車を製造するほど収益が見込めないといった場合も多いのです。つまり、なくなると困るけれど新たに作るほどではないクルマを、他メーカーからOEM供給を受けることで補うという意味合いが強いのです。
共同開発車の場合は、前述の通りクルマに搭載されるエンジンや車体など、基本構成は同じ。これは、お互いに開発を共同で行うことで莫大な開発費を抑えることができます。
特に最近は、軽自動車にも自動ブレーキなどの先進安全運転支援システムを搭載することが当たり前になってきて、部品や開発などにかかるコストはかなり膨らんできています。
その点、共同開発をすればそれぞれのメーカーが持つ先進技術を持ち寄ることもでき、イチから開発しなくても比較的安価で導入できるなどのメリットがあります。
また、製造はどちらかのメーカーで行うことも多く、メーカーにとっては工場を一本化することで製造コストを抑えることが可能です。
ちなみにこれら理由は、あまり我々ユーザーには関係ないことのように思えます。ところが、実はこういった開発費や製造コストは販売価格に大きく影響するのです。
特に、近年のコンパクトカーや軽自動車には装備がかなり充実しながらも、リーズナブルな価格で購入できるモデルも多く出てきています。そういった価格面のメリットで考えると、OEM車や共同開発車の存在も納得できるのではないでしょうか。
(文:平塚直樹/写真:トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、マツダ、ダイハツ工業、スズキ)