HEV&PHEVのモード燃費試験とは?駆動電池の電力収支を考慮した試験【自動車用語辞典:パワートレイン系の試験編】

■HEVの燃費は、試験前後の電力収支を計測してモード燃費を補正

●電力収支が複雑なPHEVでは、ハイブリッド燃費や複合燃費などさまざまな燃費値で表示

エンジンと電池で駆動するモーターを併用するHEVおよびPHEVのモード燃費試験では、駆動電池の電力収支を考慮する必要があります。具体的には、試験の前後で電池の充電率(SOC)を同一にしなければいけません。

モーターと駆動用電池を搭載したHEVおよびPHEVのモード燃費の試験法について、解説していきます。

●HEVおよびPHEVのモード燃費の考え方

モーター/発電機を搭載している電動車は、制動エネルギーを電気に変換する回生ブレーキによって燃費を改良しています。回生ブレーキでは、減速時やブレーキをかけたときにモーター/発電機の回転抵抗を制動力として利用します。このとき発電機で発生する電力が、駆動用電池を充電することによって回収されます。

駆動電池に充電された電力は、走行中に燃費向上やEVの航続距離延長のために再利用されます。したがって、試験前後の電池の電力残量の収支によって燃費は大きく影響されます。

例えば、電池の充電率(SOC)が高く電気を積極的に使えば、燃費は向上します。逆に試験前後のSOCの差が小さい、すなわち電池の電気を使わなければ、エンジンの燃費向上は見込めません。

ハイブリッド車の燃費を公平に計測するときには、運転前後で電力収支を0(電池の充電量=放電量)にする必要があります。

●HEVの燃費試験法

モーター/発電機の制御は、採用しているシステムや車両の状態、走行条件によって異なり、各社のHEVシステムは燃費が最良になるように独自の制御を採用しています。

そのため、モード燃費試験前後で電力収支は0にはならず、また0にもできません。

そこでHEVのモード燃費試験の前に、あらかじめSOCを変化させた試験によって、電池の電力収支とモード燃費の関係を求めておきます。

実際のモード燃費試験では、試験前後の電力収支を計測して、電力収支とモード燃費の関係から、モード燃費を補正して求めます。

HEV燃費計測法
HEV燃費計測法

●PHEVの燃費試験法

PHEVは、外部電源から駆動電池に蓄電した電力も走行に利用するハイブリッド車です。PHEVのモード試験は次のように行います。

・モード試験の前に駆動用電池を満充電にした後の4時間以内に試験を開始します。

・走行開始時はエンジンを使う場合もありますが、基本は外部電源で充電した電池の電力で走行します。この期間は、徐々に電池のSOCが低下していくCD(Charge Depleting mode)モードと呼ばれます。

・その後、電池のSOCが規定レベルに低下すると、HEVと同様にSOCを一定に維持しながら走行するCS(Charge Sustaining mode)モードに移行します。

PHEVの燃費には、CDモードのCD燃費とCSモードのCS燃費、両者を組み合わせて重み付け係数UFをかけて算出するPHEV複合燃費があります。

PHEV複合燃費 = 1 / { (UF/FECD) + (1-UF)/FECS }

FECD:CD燃費、FECS:CS燃費、UF:ユーティティ・ファクター

UFは、日本の自動車ユーザーの走行パターンを参考にして国交省が定義した値です。

外部充電による電力で走行できる最大距離が、1日の走行距離全体に対してどれだけの割合を占めるかを0~1で示します。CDモードの距離が長くなるほど、大きな値になります。

PHEV燃費の計測法
HEV燃費計測法

HEVおよびPHEVの燃費計測の難しさは、駆動電池の電力収支を考慮して評価する点です。

特にPHEVのエネルギー収支は複雑なので、複合燃費やハイブリッド燃費、充電電力使用時の燃費など、多くの燃費値が表示されます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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