■日本で売られているハイオクガソリンはJIS規格でオクタン価96以上と決まっている
ガソリンスタンドにいくと、同じガソリンでもレギュラーとハイオクと2種類が売られています。おおむねリッター当たりの価格で10円以上はハイオクガソリンが高くなっていますから、レギュラーガソリンを入れたほうがトクに見えますし、わざわざ高い燃料を使う理由もないと感じることでしょう。
なぜ2種類用意されているのかといえば、もともと2種類の規格が定められていて、なおかつ自動車メーカーがハイオク指定のエンジンを作っているからです。その理由はハイオクという略称の元になった「ハイ・オクタン価」という言葉の意味を知ると理解できます。
オクタン価というのは、わかりやすくいうとエンジンが異常燃焼(ノッキング)を起こしづらくなる性能のことで、数字が100に近づくほどオクタン価が高いといって耐ノック性能が高い燃料といいます。ノッキングを起こしづらい燃料を使うメリットは、そのほうが熱効率に優れたエンジンを作りやすいからといえます。つまり、省燃費であったり大パワーであったりといったエンジンを実現するにはハイオクが欠かせないのです。
こう書くと、いかにもハイオクガソリン自体の熱量が多いように勘違いしてしまいますが、レギュラーもハイオクも熱量自体は同じです。あくまでも異常燃焼を起こしづらいというメリットを活かして、比較的”攻めたエンジン”を作ることができるのでトータルでの熱効率に優れると理解すべきです。もっとも省燃費エンジンについては経済性も求められますから燃費伸び率に対して燃料コストのほうが上回ってしまってはナンセンスです。ですから国産車のエコカーは、ほとんどがレギュラーガソリンを前提に開発されているのです。
では、そのオクタン価というのはどうなっているのでしょうか。日本で販売されているガソリンについては、JIS規格によってオクタン価が決められています。その数値はレギュラーガソリンがオクタン価89以上、ハイオクガソリンは96以上というものです。これらは最低満たしているべき規格なので、実際にはレギュラーガソリンはオクタン価90、ハイオクガソリンはオクタン価98~100となっていることがほとんどです。
ちなみに、欧州ではガソリンはオクタン価でいうと3種類の規格があります。そのオクタン価を並べると91、95、98となっています。欧州で日本のレギュラーガソリン的なポジションとして主流になっているのはオクタン価95のガソリンです。欧州車を日本に輸入するとハイオク仕様となりますが、正しくは「オクタン価95以上のガソリンを使用してほしい」という意味であって、日本の98~100といったオクタン価のハイオクガソリンを使うのは、ある意味ではオーバースペックともいえるのです。
というわけで、ハイオクガソリンというのはJIS規格で決まっていて、それを前提に自動車メーカーがエンジンを開発しています。つまり、どの銘柄のハイオクガソリンを使っても、基本的に性能差は出ないようになっています。とくにガソリン元売りの業界再編が進んで以降は、ハイオクガソリンの個性をアピールする時代でもなくなりつつあります。
たとえば、業界最大手でシェア50%以上といわれるENEOSはハイオクガソリンに特別な商品名をつけずに単純に「ENEOSハイオクガソリン」として販売しています。F1由来をイメージさせるネーミングのハイオクガソリンを販売しているシェルのようなブランドもありますが、出光と昭和シェルはすでに経営統合していて業界2位の規模。それぞれ別ブランドで展開しているガソリンスタンドについても2021年4月からはアポロステーションとして統一することを発表しています。もはや、独自性を強調するハイオクガソリンによってブランディングする時代は終わりつつあるといえるのかもしれません。
(山本晋也)