■運転が楽しいディーゼルセダン
「本当に軽油なの? 軽油ってディーゼルエンジンのクルマに入れるんだよね? このクルマはディーゼルエンジンじゃないでしょ?」。休暇をとった彼女を乗せて、BMW740Ld xDriveで千葉へと向かう。給油のために立ち寄ったガソリンスタンドで、店員に軽油をオーダーしたボクを見て彼女はそう言った。
無理もないだろう。なぜなら、このクルマにはまったくディーゼルエンジンらしさがないのだから。同乗者はもちろん、運転しているボクだってそれを忘れてしまいそうになる。それほどまでにディーゼルエンジンらしさがないのだ。
まず、ディーゼルらしいガラガラとしたノイズや振動がまったく感じられない。“音が少ない”なんてもんじゃなく、まったくしないのだ。重箱の隅をつくレベルの話でいえば、エンジンをかけたままクルマの外に出た時に、エンジン下の地面からの反射音がほんのわずかにディーゼルらしく聞こえる程度。そこまでしっかりと音は抑え込まれている。
さらにディーゼルエンジンにつきものの振動だが、これもガソリン車と変わらない。もちろんBMWのテクノロジーも大きく効いているはずだが、エンジンが6気筒というのにも大きな意味がある。世の中にある多くの乗用車のディーゼルエンジンが4気筒なのに対し、この740dはなんと6気筒なのだ。しかも直列というのがBMWらしい。
そしてこのディーゼルエンジンの真骨頂は、抜群の快適性で同乗者に優しいだけでなく、ドライバーをもハッピーにしてくれること。ドライバビリティが抜群にいいのである。
一般的にディーゼルエンジンは、低回転域のトルクが太くて運転しやすいいっぽう、高回転が苦手、とされている。気持ちのいいガソリンエンジンのような伸びやかな感じがなく、爽快ではないからドライバーは楽しくない。
しかし、このディーゼルは太い低回転トルクというディーゼルのメリットはそのままに、リニアに盛り上がる高回転が気持ちいい。エンジンの味を楽しめるのだ。これぞ「駆け抜けるよろこび」を具現化したディーゼルに他ならない。
「ディーゼルエンジンってウルサイんじゃなかったの? ぜんぜんわからないね」
きっと、彼女じゃなくてもこのディーゼルエンジンには騙されることだろう。ボクだって、間違えてガソリンを入れそうになったほどだから。
(文:工藤貴宏/今回の“彼女”:久保まい/ヘア&メイク:牧 詠子/写真:ダン・アオキ)