【自動車用語辞典:潤滑系「オイルポンプ」】オイルパンの潤滑オイルを吸い上げて各部に圧送する仕組み

■クランクシャフトでポンプを直動する方式が主流

●電動車には電動ポンプの採用が始まっている

オイルポンプは、エンジン内部の潤滑や冷却のためにオイルパンに溜まった潤滑オイルを吸い上げ、クランクシャフトやカムシャフト、ピストンなどの回転部、摺動部に圧送します。

オイル供給源のオイルポンプの構造と作動原理について、解説していきます。

●オイルポンプの作動原理

オイルポンプは、シリンダーブロック前面下部に搭載され、通常はクランクシャフトで直動します。オイルストレーナーを通じてオイルパンに溜まったオイルを吸い上げ、シリンダーブロックのメインギャラリーからエンジン各部位にオイルを圧送します。

オイルポンプは、内接多数歯トロイド式が主流となっています。

複数の凸を形成するインナーローターが、凹部が1つ多いアウターローターに中心軸をずらして嵌め込まれています。クランクシャフトと連動するインナーローターとともに、アウターローターも同期して回転します。

ここで、ローターの凸凹部の数に1つだけ差があるため、回転時に両ローター間の隙間容積の変化が起こります。容積が拡がるときにオイルを吸い込み、容積が縮まるときに押し出してポンプとして作動します。

●プレッシャーレギュレーター

オイルポンプは、クランクシャフトと連動するので、エンジン回転とともに吐出量と圧力はリニアに増大します。圧力が過度に上昇し過ぎると、ポンプの駆動損失も増え、ガスケットやオイルシールが破損してオイル漏れが発生する可能性もあります。

オイルポンプの出口に装着して所定の圧力に達すると、リリーフ弁を開いて圧力を逃がすのが、プレッシャーレギュレーターです。

プレッシャーレギュレーターは、圧力が高まるとリリーフ弁を開けて、オイルをバイパス通路に逃がす簡単な仕組みです。リリーフ弁は、ピストン型でスプリング力によって通常は閉じています。所定の圧力に達すると、ピストンが押されてリリーフ弁が開き、バイパス通路へ超過したオイルが逃がされます。

バイパス通路に逃がされたオイルは、オイルパンに戻されます。

潤滑経路の一例
潤滑経路の一例
内接多数歯トロコイドポンプ
内接多数歯トロコイドポンプ

●可変容量オイルポンプや電動オイルポンプへの進化

オイルポンプの駆動損失を低減する目的で、可変容量オイルポンプの採用が進んでいます。オイルポンプの吐出量と圧力は、エンジン回転に比例して増大しますが、この特性は実際のエンジンが要求するものとは異なります。

必要な分だけ吐出量と圧力が発生するように、既存のリリーフ弁機構に改良を加えたものから、ポンプのギア構造で可変化したタイプまでさまざまな可変容量ポンプが開発されています。

トヨタの最新エンジンでは、駆動損失を減らして燃費を向上するため、連続可変容量オイルポンプを採用しています。従来の内接多数歯トロイド式ポンプで、アウターローターを偏心させることによってオイルを吸引する時間を変更して、オイル吐出量を可変にしています。

また最近は、PHEVやHEV、アイドルストップ車などは、燃費低減のためエンジンを停止する頻度が高いため、メカ式のオイルポンプが使えないという状況が発生しています。

そのため、高効率のDCモーターを使用した電動オイルポンプも、電動車を中心に採用され始めました。

連続可変容量ポンプ
連続可変容量ポンプ

ウォーターポンプやオイルポンプの電動化については、2つの流れがあります。

ひとつ目は、標準エンジンで駆動ロスを低減して燃費を向上させるための電動化です。もうひとつは、電動車ではエンジンがなくなる、あるいはエンジンの駆動頻度が低くなり、必然的に電動ポンプに移行せざるを得ないという流れです。

いずれにせよ、今後補機類の電動化が加速されることは必然です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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