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■自着火するディーゼルは低温時に始動しにくい
●始動直後の排ガス低減にも役立つ
ディーゼルエンジンは、冷態時には圧縮温度が十分上がらないため、噴射した燃料がうまく着火できずに始動が困難になる場合があります。このため、先端温度が1000℃以上に高熱化するグロープラグを燃焼室に装着して、冷態時の着火性を向上させています。
ディーゼルエンジンの補助熱源装置グロープラグの仕組みや効果について、解説していきます。
●なぜディーゼルエンジンは低温始動が難しいのか
ガソリンエンジンは、火花点火で混合気を着火させて燃焼する「火花点火」方式です。冷態時では、燃料が気化しづらいため始動時間は伸びますが、ガソリンの引火点は低いので始動は可能です。
一方でディーゼルエンジンは、圧縮して高温になった空気に高圧の燃料を噴射して、自着火して燃焼する「圧縮着火」方式です。低温時は圧縮空気の温度が下がり、エンジンも冷態なので着火が不安定になり、極低温では始動できないこともあります。
●グロープラグの役目
最近のディーゼルエンジンの圧縮比は、20年前の18~20から15~17程度まで下がっています。
フリクションを減らして燃費を向上させる、燃焼温度を下げてNOxを低減させるためです。ただし、圧縮比の低下とともに圧縮温度が下がり、始動性悪化が顕著になります。
低温始動時の着火性を改善するために採用しているのが、補助熱源装置のグロープラグです。グロープラグは、先端部に内蔵したヒーターによって、周辺の燃料の着火を促進します。
●グロープラグの構造と仕組み
グロープラグとしては、金属製チューブ内に金属製発熱コイルを内蔵したメタルグロープラグと、発熱体をファインセラミックス(窒化ケイ素)にしてその他の構成部もセラミック化したセラミックグロープラグの2種があります。コストは高いですが、応答性良く高温発熱が可能なセラミックタイプが、現在は主流になっています。セラミックグロープラグでは、先端部温度は2秒で1200~1300℃までに上昇します。
グロープラグの先端発熱体は、燃料の気化成分の多い噴霧の周辺部に位置するように装着します。燃料の液滴よりも、液滴周辺の気化成分の方が着火しやすいためです。グロープラグの挿入位置は、始動性に大きく影響するので最適化する必要があります。
●グロープラグの制御と効果
イグニッションキーをONすることでグロープラグに電源電圧12Vが印加され、予熱(プリグロー)します。同時にインパネ内のインジケーターランプの点灯によって、グロープラグの予熱状態を表示します。
水温等に応じて設定された通電時間(外気温が氷点下でも数秒以内)の後、インジケーターランプが消灯します。この予熱完了を受けて、イグニッションキーからスタートキー(ST)ONに切り換えて、エンジンが始動します。
エンジン始動後も、状況に応じて数分間はグロープラグを通電(アフターグロー)します。始動後も燃焼はまだ不安定なので、燃焼を安定させて未燃のHCや白煙の排出、さらにディーゼルノックを抑えるためです。
●吸気温度低下による着火遅れ
吸気(外気)温度が下がると、着火遅れ期間が延びます。燃料の微粒化や気化が悪化するためですが、着火遅れが延びるとその間燃えなかった燃料が着火して一気に燃焼します。急速な燃焼が起こると、シリンダー内の圧力が急上昇してディーゼルノックが発生しやすくなります。
ディーゼルエンジンには点火装置はありませんが、唯一火花点火のように着火を制御するのがグロープラグです。
低温始動性の改良だけでなく、ディーゼル車の大きな課題であった始動直後のHCや白煙、ディーゼルノックの抑制にも、グロープラグは大きく貢献しています。
(Mr.ソラン)