D1GP初年度から、休むことなく毎年ずっと開催されている唯一のコースがエビスサーキット南コースです。そして、このコースは、おそらく世界的にも屈指の名コースでしょう。ドライバーの心意気やらあせりやらが走りに如実に表れ、それが観客にもビシビシ伝わるのです。エビス南コースは、国内でもドリフトの聖地として知られていますが、世界的にも有名なようで、一度ここを走ってみたいというドリフターが各国から訪れます。アメリカのフォーミュラDシリーズで活躍しているトップドリフターがプライベートで走りに来ることもめずらしくないようです。
その人気の理由のひとつが、ジャンプぎみに飛び出す最終コーナーから、コンクリートウォールすれすれをアクセル全開で駆け抜けるストレートという独特のレイアウトだと思います。この飛び出しの勢いや、コンクリートウォールへの寄せに心意気が表れるいっぽうで、冷静さを失うとストレートでリヤがすっぽ抜けてしまったりしやすい難コースなのです。
最終コーナーは右、左のシケインのようなレイアウトになっています。ひとつ前はゆるい右コーナーで、ここを直線的に抜けつつも、左に荷重をかけておきます。
第6戦のコースウォークが行われている最中に、ちょっとこのコース上を歩いてみました。最終コーナーのひとつ前のコーナーから見た景色、わかりますでしょうか? 先が下っているので見えないのです。見えないところに向かって、選手はこんどは右にテールを振り出して最終コーナーに向かいます。
だいぶ近づいたところで、やっと最終コーナーのアペックスと、ホームストレートが見えて来ました。ここではもうドリフトを開始していて、ここから下り坂の短いストレートをドリフトでつなげて、1コーナーへ飛び込んでいきます。ちなみに第6戦の決勝を戦った末永(直)選手や小橋選手は、フラッグタワーが見えるまではその方向に目線を送っておき、見えた瞬間に1コーナーの奥に目線を移すそうです。
最終コーナー通過中。縁石上のタイヤ痕を見てください。途切れているところがあるでしょう。ここから急に下り勾配がキツくなるので、最終コーナーのイン側を走っていると、イン側タイヤが浮くのです。それどころか、スピードとラインどりしだいでは4輪ジャンプします。
最終コーナーを抜けて、1コーナーにむけてドリフトをしている最中という場所。弧を描くブラックマークを見れば、だいたいラインどりがわかると思います。弧の頂点あたりがフラッグタワーです。
過去のエビスでのD1GPをご覧になっていれば、ご存じのかたも多いと思いますが、このストレートは、ちょっとラインがはらんでしまったり、フロントが逃げてしまったりすると、コンクリートウォールにクラッシュするのです。それがこのコースのスリリングなところです。壁を見れば、さんざん削られた跡が残っています。もともと壁の色は青だったのかな?
最終コーナーのラインどりは、人によってけっこう違います。田中(省)選手は、けっこうイン側を通過して跳んじゃってます。
それに対して、藤野選手なんかは、あまり縁石をまたがず、跳ばないラインで走っていますね。
この最終コーナーは、2004年に当時無名の日比野選手がハチロクで毎回大ジャンプをかまして準優勝し、一躍有名になりました。まぁ、サーキットとしては、危ないのであまり跳んで欲しくないようです。また、跳ぶとクルマへのダメージも大きいので、今のD1GP選手はそんなにむやみには跳びません。いまだに日比野選手はけっこう跳びますが。
ただ、第6戦で松井選手と対戦した小橋選手が「(松井選手が)メチャクチャ速かったので、もうやるしかないと思って、ちょっとジャンプしちゃうラインで行った」と話しているように、ここぞというときにイン寄りのラインで跳ぶケースがあるようです。そういう点でも、選手の心理が走りに反映されやすい場所なんですね。
このように、ドリフトしながらジャンプをするというコースは世界にもそうそうないようで、そこがまた「走ってみたい」と外国人ドリフターを引きつける要素のひとつになっているようです。スリリングでエクストリームな感じがするんでしょうね。また、エビス南コースは客席から見るとクルマが斜面をドリフトで下りてくるので、まさにスタジアムのような見ごたえのあるレイアウトになっています。
さて、8月24、25日に行われたD1GP第5戦と第6戦ですが、このコースを「怖いから苦手」とさんざんいっている藤野選手が2戦連続で単走優勝しました。
いっぽうで、追走のほうは、このコースでD1GPを見てドリフトを始めたという小橋選手が2戦連続で優勝しました。
シリーズ争いのほうは、この大会前には横井選手が独走状態でしたが、第5戦のチェック走行でコンクリートウォールにクラッシュしたことが尾を引いて、横井選手はなんとノーポイント。横井選手のランキング首位は変わりませんが、松井選手が7pts差まで追い上げてきています。D1GPの最終戦は11月2、3日、大分県のオートポリスで開催されます。
(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス)
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