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■エンジンと同様にATの進化も著しい
●ステップAT、CVT、DCTが代表的な方式
トランスミッションは、エンジンの発生するトルクと回転数を走行条件に応じて増減(変速)して、適切な出力をタイヤに伝えながら同時に低燃費を実現する重要な役目を担っています。
歯車やプーリーを組み合わせた複雑な機構で構成される自動トランスミッション(AT)の仕組みと制御について、解説していきます
●トランスミッション制御の概要
MT(マニュアルトランスミッション)は、手動で変速するので特別な制御はありませんが、変速を自動で行うAT(自動トランスミッション)には適切な変速を行うための高精度な制御が組み込まれています。
制御の狙いは、運転状況に応じて走行に必要なトルクを発生させながら、同時に燃費低減を実現することです。
以下に、ステップAT、CVT、DCTの制御について解説します。
●ステップATの変速制御
ステップATは、複数の遊星歯車機構のサンギヤ、遊星キャリヤ、リングギヤの3要素のどれかを固定し、残りの2つを入力軸と出力軸に巧妙に切り替えることで自在に変速を実現します。
変速は、アクセル踏み込み量と車速の自動変速マップをベースに行い、油圧制御によって各要素に配置された多板クラッチの断続で行います。変速操作については、エンジン出力や走行状態に応じて適切な変速時間になるように油圧で制御します。
また高速域では、燃費向上のためロックアップクラッチを直結して、トルクコンバーターの損失を低減します。さらに、低中速域ではトルクコンバーターの滑りを少なくするフレックス(スリップ)ロックアップ制御を採用しています。
●CVTの変速制御
CVTは、一対の入出力プーリーに金属ベルトまたはチェーンを掛けて、駆動力を伝達します。入出力プーリーの有効径(ベルトの巻きかけ径)を変えて、変速比を連続的に変化させます。
プーリーの断面はV字構造になっており、油圧制御でベルトのかかる面がV字の斜面を昇降します。この結果、プーリーの有効径、すなわち変速比が連続的に変化します。
CVTでは、エンジンの「燃費の目玉」(燃費が最良になる運転領域)近傍を通るように、変速比を任意に選択できるため、燃費が向上します。特に、小型車や日本のように市街地中心の走行に向いています。
●DCTの変速制御
DCTは、伝達効率の高いMTをベースにして、奇数段(例えば、1-3-5速)と偶数段(2-4-6速)に分割された2系統の歯車機構と、入力軸を切り替えるための2系統の多板クラッチで構成されています。変速時にはクラッチを切り替えるだけで変速が終了するので、トルク切れがなく、スムーズに変速ができます。
奇数段1速で走行している時は、クラッチが切れている偶数段の2速はシンクロを繋いだ待機状態になっています。2速に変速する際には、奇数段クラッチを切ると同時に偶数段クラッチを繋ぎます。このとき、奇数段の3速は待機状態です。
クラッチ制御と変速制御の基本は油圧制御ですが、クラッチ制御についてはモーターで駆動させるものもあります。
長い歴史の中でトランスミションの外観はそれほど大きく変わったように見えませんが、実際にはエンジンと同様に中身の機構や制御は大きく進化し、性能も向上しています。
車体側やエンジン側からの高出力や高レスポンス、低燃費、低排出ガスなどさまざまな要求に応えるため、多種多様なトランスミッションが生まれ、進化し続けています。
(Mr.ソラン)