【自動車用語辞典:パワートレイン制御「可変バルブタイミング制御」】吸排気バルブの開閉時期を自在に変化させる技術

■カムシャフトとスプロケットの位相を変化させる方式が主流

●出力、燃費、排出ガスのすべてを制御できる

出力や燃費、排出ガス性能を向上させるため、弁開閉時期や弁リフト量を可変にする可変動弁系機構は、多くのエンジンが採用する一般的な技術となりました。

可変動弁系機構の中で最も基本的な可変バルブタイミング機構の制御について、解説していきます。

●可変バルブタイミング機構とは

現在の可変動弁機構は、弁開閉時期だけでなく弁リフト量も可変にするのが、一般的です。

もっとも基本的な可変バルブタイミング機構は、カムシャフトとそれを固定しているカムスプロケットの位相を変えることによって、弁開閉時期を可変にします。

カムシャフトとカムスプロケットの位相は、OCV(オイルコントロールバルブ)で油圧を制御するベーンアクチュエーター方式が一般的です。カムシャフトに固定されたベーン部と油圧室(進角室および遅角室)を設けたハウジング部で構成されます。OCVのスプール弁の位置制御によって、ハウジングの進角室あるいは遅角室にオイルを供給し、弁開閉時期を制御します。

ただし油圧を利用するシステムでは、低速時や低温時に十分な油圧が確保できないため、弁開閉時期の変更に制約があるという課題があります。最近は、カムスプロケットを直接モーターで駆動させる電動可変バルブタイミング機構を採用するエンジンも増えてきました。

ベーンタイプスプロケット
カムシャフトに固定されたベーンを油圧で動かし、バルブタイミングの進角、遅角を作り出す

●可変バルブタイミングの最適化

吸排気弁に可変バルブタイミング機構を採用する場合、一般的には以下のように運転条件に応じてタイミングを切り替えます。

・高負荷/高回転領域
出力向上のため、吸入空気の慣性を利用するために吸気弁の開閉時期を遅らせて、吸入空気量を増やします。

・高負荷/低中回転域
トルク向上のため、吸気弁の開閉時期を進めてピストン上昇による吸入空気の押し戻しを抑えて、吸入空気量を増やします。

・中負荷域/低~高回転域
燃費性能と排出ガス性能向上のため、吸気弁開閉時を進めて排気弁開閉時期は遅らせます。オーバーラップ期間を拡大することによって、残留ガス(内部EGR)量を増やしてNOxを下げ、またポンピング損失を減らして燃費を向上させます。

・アイドル運転と低負荷/低回転域
燃焼を安定化するため、オーバーラップ期間を短くして残留ガス量を減らします。

運転条件と最適バルブタイミング
エンジンの回転数と負荷によって吸排気バルブの開閉タイミングを決める

●オーバーラップ期間

空気の流れには慣性があるので、排気弁は上死点後に閉じ、吸気弁は上死点前に開くようにします。この上死点前後で、排気弁と吸気弁の両方が少しだけ開いている期間をオーバーラップ期間と呼びます。

オーバーラップ期間が短いと、燃焼室に残留する燃焼ガス(残留ガス)が減り、オーバーラップ期間が長いと残留ガスが増えます。出力向上や燃費向上、排出ガス改善など、目的によってオーバーラップ期間を適正に制御します。

●可変バルブタイミング機構の制御

可変バルタイミングECUは、カム角センサーとクランク角センサーの出力からカム位相を算出し、エンジン回転数と負荷から求めた目標カム位相値との偏差を算出します。

偏差よりOCVの制御電流を求めて、油圧を制御します。油圧は、デューティ信号によってOCVのスプール弁の位置制御を行い、ベーンハウジングの進角室あるいは遅角室にオイルを供給します。

可変バルブタイミングシステムの制御
各種センサーの情報からECUが最適なバルブタイミングを決定し、オイルコントロールバルブの油圧を制御する

可変動弁機構は、比較的安価で、出力と燃費、排出ガスのすべてを自在に制御できるため、今やほとんどのエンジンが採用している標準的な機構です。

すべての運転条件で、応答性良く適正に可変機構を作動させるために、ハード面と制御面の両面からの改良が現在も進められています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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