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■マニュアル通りの接客はダメ。いかにお客様目線で対応できるかが重要
●セールス・ロールプレイコンテスト第3回CS-VESC(全国決勝大会)
最近のボルボの勢いときたら、タピオカミルクティー並みではないでしょうか。ボルボ・カー・ジャパンの発表によると、2014年の新車登録台数が13,264台だったのに対して、2018年は17,389台と右肩上がりです。新車登録台数が17,000台を超えたのは、なんと1997年以来、21年振りとのことです。そして、つい先日発表された2019年上半期(1~6月)の新車登録台数は前年比9.1%増の9,268台(昨年同期8,497台)と、絶好調ぶりをキープしています。
そんなボルボの躍進の理由は、何と言っても強化された商品ラインナップです。特に、2年連続でボルボに日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞の栄誉をもたらしたXC60とXC40、そして2018年にモデルチェンジを果たした主力モデルV60の存在が際立っています。
が、絶好調ボルボの秘密は、他にもありました。販売の最前線であるディーラーとセールスタッフの改革です。それを主導したのは、2014年7月にボルボ・カーズ・ジャパンの代表取締役に就任された木村隆之氏。7月24日に開催された「CS-VESC2019」も、木村社長肝入りのイベントなのです。
そのイベントの様子を振り返ってみる前に、まずは「CS-VESC」についてご説明しましょう。CS-VESCとは、「Customer Satisfaction-Volvo Excellent Salespersons Contest」の略称です。ディーラー全店舗を対象としたセールス・ロールプレイコンテストで、顧客満足度ナンバー1実現のため、プレミアム・ブランドにふさわしい接客とおもてなしの技術向上を目的としています。
元々は、その前身となるVESC(Volvo Excellent Salespersons Contest)というイベントが1990年から開催されていましたが、2008年の第10回大会をもって開催が見送られていました。それを木村社長が就任後、「CS-VESC」と名称を改めて復活させたのです。
それに伴い、競技内容もリニューアルされました。VESCでは販売員の商品説明スキルを重視していたのですが、CS-VESCでは「顧客満足度」に重点を置き、個人部門とチーム部門で争われます。
CS-VESCとしては第3回目となる今回のイベントですが、誰もがこの晴れ舞台に立てるわけではありません。約720名が選考会に参加し、さらに4月に東京&大阪で行われたセミファイナルで48チーム&個人60人が競い合い、決勝に進出する個人6人&7チームが選抜されました。
会場となったヒルトン東京ベイ(千葉県)のホールを訪れると、V60T6、V60クロスカントリー、V90の展示車のほか、商談用のテーブル、椅子なども置かれ、ボルボのディーラーを再現したスペースができあがっていました。ここで個人6名と7チームがそれぞれ競い合い、ボルボのセールスパーソンの頂点が決まるのです。
競技内容は、以下の通りです。
●個人部門
・競技種類:1組のお客様の来店対応
・競技時間:7分間
・お客様 :来店1組
●チーム部門(ロールプレイ)
・競技種類:複数のお客様の来店、来電を3人で対応し、その技術を競う
・競技時間:20分間
・お客様 :来店2組、来電あり
チーム部門の競技はかなり複雑です。3人いるスタッフがうまく連携して、次々とやってくる来客・来電に上手に対応していかなければなりません。しかも、ただ当たり障りなく接客すれば言い訳ではありません。このコンテストでは、以下が重点的に評価されます。
●顧客ニーズの把握
「長時間運転に向いた車が欲しい」などといった細かなニーズを確認
●商品説明
ニーズに合った商品の特徴、利点、価値を説明
●デモ・試乗
お客様に実際に車に乗っていただく(コンテストでは直前のシーンまで再現)
鍵を握るのは、「お客様目線」です。セールススタッフは熱が入ってくると、ついつい「このクルマがいかに素晴らしいか」を説明するのに一生懸命になりがち。しかし、ボルボスタンダードの接遇マナーをベースにしながらも、いかに顧客のニーズを把握して、お客様目線での対応が臨機応変にできるか、というのが評価の対象となります。
また、来店するお客様には、細かい人物設定が与えられています。例えば、チーム部門で最初に来店する「オーナー(男)」は、こんな具合です。
●久保良晴(くぼ・よしはる)
・49歳 人材サービス会社経営 家族は妻と長男
・他店購入されている(2015年12月にV70 T5 クラシック 黒)
・引っ越しされていて、当店が最も近いとのこと
・随分前にオイル交換で一度だけ来店されている
・車検があと半年なので、事前に見積案内を送った
・それによって予約いただき今日来店される
・来店時にお伺いしたカーライフ情報としては、普段はご主人が通勤に使っているとのこと
こうした情報(の一部)が参加者には伝えられています。これを頭に叩き込んでおいて、どのように接客に生かすか…というのが、参加者の腕の見せ所です。
●チーム部門は3名のスタッフのチームワークが鍵を握る
では、実際にチーム部門のコンテストの流れを見ていきましょう。競技スタート!
(撮影の都合上、異なるチームの写真が入り混じっています。ご了承ください)
まずは、1組目のお客様(役名:久保良晴さん)が来店されました。スタッフは3名全員でお出迎えです。ちなみに、お客様を演じられているのは俳優さんで、CS-VESCは3回連続の出演なのだとか。
その間に、スタッフ(B)とスタッフ(C)は待機です。いえ、ただボーッと待機しているだけではありませんでした。椅子がずれていたら、それをソッと元の位置に戻しておく。さすが、参加者は気が利く方たちばかりです。
さて、車検の見積もりに来たはずだった久保さんですが、「最近のボルボ、すごくいいねぇ。ちょっとクルマ見せてよ」と言い出しました。しかも、最近、会社の駐車場に充電設備が設置されたとのこと。すかさずスタッフ(A)は、プラグインハイブリッドのV60T6について説明します。「こちらが充電口です」とスタッフ(A)。
そうこうしていると、電話がかかってきました。現在、BMW320iツーリング(黒)に乗っているお客様(役名:岩田さん)が、「近くにいるから来店したい」というのです。スタッフ(C)が電話で応対します。
電話を受けたスタッフ(C)は、待機しているスタッフ(B)に岩田さんの情報を共有。こうしたチームプレイも、今回のコンテストを勝ち抜くための鍵となります。
一方で、スタッフ(A)は引き続き久保さんの接客を行なっています。V60T6に興味を示していた久保さんですが、自身が今乗っているV70よりもサイズが小さいのが気になるとのこと。そこで、スタッフ(A)はすかさず試乗車として用意してあるV90を案内します。
すると、先ほど電話してきた岩田さんが夫婦で来店。スタッフ(B)とスタッフ(C)で応対します。
スタッフ(C)はすかさず、「コーヒー二つでよろしいですね」とドリンクのオーダーをうけつけます。
「本日ご来店くださった理由は?」とのスタッフの問いに、岩田さんは「CMでV60だかなんだか見て、カッコいいと思って」と漠然とした理由を答えますが、スタッフ(B)はにこやかに展示車のV60を案内します。
スタッフ(B)が一生懸命V60のアピールをご主人にしている一方、奥様はちょっと手持ち無沙汰。スタッフ(C)はそんな奥様にお声がけ。「私、最近ゴルフ始めたんですよ」という奥様に、V60のラゲッジルームがいかにゴルフバッグが積みやすいかを説明します。
そんな時に、また電話がかかってきました。電話担当のスタッフ(C)が急いで電話に出ると、「ウェブで見たんですが、車内クイックフレッシュキャンペーンの中身を教えてくれませんか?」という問い合わせでした。このキャンペーンの内容について、しっかりと説明できたチームとできなかったチームがありました。ここも、勝負の分かれ目の一つになったかもしれません。
●仕掛けられた数々のトラップが参加者の前に立ちはだかる!?
そうそう、今回のコンテストはちょっとトラップ(?)が仕掛けられており、その対応が適切にできていたかも見ものでした。
来店された奥様が持っていたバッグを、どのタイミングで預かるか? ボルボと同じ北欧のブランドである「マリメッコ」であるのに気づいて、そこから話を広げられるか?
そして、展示車のV60クロスカントリーは競技開始時にはわざとトノカバーが外れていたり、リヤシートが倒れていたりしたのですが、それに気づいていち早く直すことができたか?
また、試乗車として用意されていたV90は、運転席の位置がわざと最前部に出されています。運転席に座ろうとしたお客様は戸惑うのですが、それにどう対処するか?
さらに、「傘の忘れ物がないか?」という問い合わせの電話にどう答えるか? ある時計店では、客から傘の忘れ物の電話があった時、店舗にはないというのが分かっていたとしても必ず全員で一度探すそうです。それが、お客様をつなぎとめるための心構えの一つだというのですが、そんなエピソードからインスパイアされた題材なのだとか。
そうこうしているうちに、20分間の制限時間が終了です。20分というと長く思われるかもしれませんが、とにかく内容が盛りだくさんなので、あっという間に終わった、という感じでした。参加者も「えっ、もう終わり?」と思われた方は多かったようです。
(会場の一角には、残り時間を示す電光掲示板が設置されていました)
●入賞者はスウェーデンへの海外研修にご招待
コンテストの結果は、以下のとおりです。各部門の入賞者は、ボルボ・カーズ本社のあるスウェーデンへの海外研修に招待されます。太っ腹!
●個人部門
1位 鈴木裕美さん(ボルボスタジオ青山)
2位 白子和英さん(ボルボ・カー虎ノ門)
3位 山岡裕一さん(ボルボ・カー成田)
3位 秋田元さん(ボルボ・カー杉並)
●チーム部門
1位 ボルボ・カー東名横浜(小野寺一平さん・遠山やす子さん・萩野健一さん)
2位 ボルボスタジオ青山(小池上七実子さん・牧之瀬宏太さん・見吉麻希さん)
3位 ボルボ・カー神戸(奥村健作さん・佐藤淳之さん・東美紀さん)
ボルボ・カー・ジャパンの木村社長は「以前はもう少しオーナーの情報を開示していたが、今回はほぼ、リアルな店舗で起きることに限定した。言い間違いも結構あったりしたが、それぞれのチームのキャラみたいなものが結構出ていた」とイベントを総括。
一方、営業本部長の菅原雅樹さんは、「回数を重ねるごとにレベルアップしてきた。商品説明はほぼ100%」と参加者を讃える一方で、「個々の商品をの説明はできていたが、上位概念である『ボルボの思想』を説明している人が少なかった。電話対応も課題」など、まだ物足りない部分があると厳しいコメントも残されました。
ボルボが目指すプレミアムブランドへの道のりは、簡単ではありません。しかし、CS-VESCのような取り組みを根気強く続けていくことで、一歩ずつ、着実に「ボルボ=プレミアム」のイメージが定着していくのでしょう。
(長野達郎)