一方で、86が独自の道を歩む一面もあります。その一例として挙げられるのが86 GRMNではないでしょうか。
648万円いうお値段はノーマル86の最高グレード2台ぶん。限定100台の抽選販売に申し込みが殺到したことで話題にもなりました。
吸排気系の新設計や各部品の摺動抵抗低減などによって19psの出力向上をみたエンジン、そして部位ごとの補強やパネル、フード、ガラス類の材料置換による軽量化が施されたボディ、それをアッセンブルするハンドメイドの工場ライン・・と、それらを市井のチューニングの相場と照らし合わせてみるに、価格はまぁそんなもんだろうと思います。ましてや、86 GRMNはメーカーの製品らしく、前後剛性バランスやブレーキバランス、エンジンのフレキシビリティなどに気配りが行き届いているはず。とあらば、ソロバンを弾ける人は高いものとは思わないのではないでしょうか。
それでも、サーキット走行を前提にしたその走りはタフでハードです。ダンパーの減衰力は微小域からしっかり立ち上がっていますが、いかんせんスタビやバネのレートがごついですから、大きな入力が入らなければサスが活きません。それでも乗り心地が壊滅的に不快ではない理由を突き詰めれば、きちんと計算され尽くのボディがしなやかに路面の変化を受け止めているからでしょう。何もかもをガチガチに固めてしまうと、ここ一発のパフォーマンスは抜群なものの、平時は逃げ場のない入力が容赦なく乗員に浴びせられてしまう、その疲労がハンパではないことは、若かりし頃にチューンドを突き詰めていった方ならばおわかりかと思います。ましてや、86のように軽く小さいクルマをきっちり固めながら街乗り領域もある程度両立させるというのは相当に難しい作業です。この辺りにメーカーチューンドの妙味を見いだす方は多いのではないでしょうか。といっても、オーナーは限られた100人ということになるのですが。
しかし86は本当にいいクルマになりました。GRMNは極端な例ですが、200万円中盤からの標準車でみても、ここまで本格的なFRスポーツがこの価格で手に入るのは他例が見当たりません。その上で、パワフル&ユースフルであることを筆頭に、ちゃんとマツダロードスターとは異なる世界観も供しています。興味はあれどこの期に及んで86とは・・とお思いの方にこそ、この機だから86を選ぶという道は大いにありだと思います。
(渡辺 敏史)
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