【連載】webバイク小説「春待ちライダー」第一話

今回から連載でお届けするwebバイク小説「春待ちライダー」

小説嫌いなあなたでもwebなら淡々と読めてしまうから不思議なんです。編集部・佐藤は大の文字嫌いで、でも小説読んでるって言いたいからケツポケットに単行本を入れて歩いているファッション小説野郎でした。

いつも持ち歩いてはいるけど読む機会もほぼ無く、行き着くところは結局スマホ…。

そこまで文字が嫌い、苦手な編集部佐藤でもこの小説は読めてしまいました。縦文字じゃないところや、頻繁に見出しが入ってくれているので文字嫌いということを忘れてしまうくらいスラスラ読めてしまいました…。

今回は「春待ちライダー」の第一回!長い移動時や暇つぶしにも持ってこいです!

・妙な珍客

「スイマセン…」

馴染みのバイク屋で談笑していると、
店の入り口から、何とも頼りない声が聞こえてきた。
俺は声の主をチラっと見て、空いた口がふさがらなくなった。

ごく普通のスーツ姿の青年。知らぬ顔だが。
どこか幼さも残っていて、鼻も高い。目尻が少し吊り上った爽やかな一重。
3代目なんちゃらかんちゃら、に居そうなイケメンといったところか。

が、残念なことに、ズボンの右膝が大きく裂けて
何やら赤い物が見え隠れしている。
裂けたジーンズはファッションになるが、
スーツが裂けているのは、ちょっとした問題だ。
上着の肘部分にも、砂とも泥とも言えぬ物が
こびり付き、灰色に染まっていた。

「ちょっと、見てもらいたいんでスけど…」
照れ笑いなのか、苦笑いなのか、青年は
後ろ頭をかいている。

「大丈夫かお前? 膝から血が出てるぞ!?」
俺は、持っていたバイクのカタログをカウンターに置き、
慌てて席を立った。

サボっていたバイク屋のおやじも、
「おい! すぐに救急箱持ってきて!」
と、看板娘を奥の部屋へ走らせた。

しかし青年は、いやいや、と
言わんばかりに、手を左右に振った。

「自分は別に大丈夫なんスけど、その…」
「どうした?」
「自分のバイクを…」

俺はやっと状況を察知した。
この若い男は、バイクで転んだのだ。

・雪解けの事情

北東北に位置するこの町は、三方を山に囲まれ、
湾になった海にも面している。雪が降りやすい土地だ。
しかも、ただ降るだけではなく、数日間にわたって降り続く。
そして、毎年12月上旬から3月中旬まで、
車道は完全に雪で白く覆われる。
ライダー達がバイクで走り回れるのは、遅くても11月下旬まで。
それ以降は春を迎え、道路の雪が完全に無くなるまで
バイクには乗れない。
北国のライダー達は「冬眠」と呼んでいる期間だ。

冬眠期間の2月にバイクで走っているのは、
タイヤにチェーンを装着した、新聞屋と郵便屋の原付くらいだろう。
もし今の時期にハーレーなんかが走っていたら、俺は自分の目を疑うはずだ。

「ちょっと、見させてもらうよ。」
バイク屋のオヤジは、男のバイクを確認する為に、
小走りに外へ走っていった。

オヤジの後ろ姿を見送った俺は、パイプ椅子を引き、
座れば、と青年に促した。
一つ会釈をして、青年は椅子に座った。
痛むのか、右足を少し引きずったように見えた。

「いやぁ、近くにバイクの病院があって良かったッスよ。」

「お前さんは、人間の病院に行かなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫ッス。自分よりも、まずは可愛いバイクを。」

「自分よりも、まずは可愛い主人を、ってバイクなら言うぞ。」

今はまだ、興奮した脳内にアドレナリンが分泌されているから、
それほど痛くないのだろう。
でも、絶対に後から痛くなるんだぞ。
と言おうとしたが、まぁ言うまでもないか。
それよりも青年に聞きたいことがあった。

「まだ2月だぞ? もう、バイクに乗ったのか?」
興味半分に尋ねてみたところ、青年は恥ずかしそうに頷いた。

「朝起きたら、暖かかったんで。衝動的に、乗りたくなったんスよ。」

青年に、乗っているバイクを尋ねると、
「250ッス。レプリカの。」
と答えた。
250ccなら比較的軽いから、取り回しはしやすい。
しかし、ブロックタイヤを履いたオフロード車でも
雪が残る道を走るのは、中々の技術が必要だ。
ロードタイヤを履いたレプリカで走るのは
さすがにちょっとした冒険だな、と俺は苦笑いした。

「ちょっと、しみるかもよ?」
娘が奥から持ってきた救急箱から
脱脂綿と消毒液を取り出した。

「いてててて!」

青年はのけ反って、座っていたパイプ椅子は鈍い音を立てて動いた。
しかし、オヤジには似ても似つかない、顔立ちの良い娘。
彼女に手当をしてもらい、青年もまんざらではなさそうだった。

そうこうしているうちに、外からオヤジが静かに戻ってきた。

「とりあえず、右側のカウル。かなり大きく割れちゃってるね。」

オヤジが業務連絡のように言い放つと、
青年は目をつむって唇をかんだ。

「けっこー、修理費かかりそうスかね?」

「パッと見ただけでも、前後のブレーキ、
右の前ウインカーは使い物にならない。交換だね。
あとは、カウルを外してみて、中もどこか破損してたら、
もうちょっと上がるかもよ。修理代。」

「うわー…」
次々に語られる現実。俺が聞いただけでも
バイクが結構な損傷だとわかった。
青年もさすがに、力なくため息をついた。

同じライダーとして、転んで愛車が傷ついた時の
物悲しさを思えば、心が痛い。
しかし青年の事を励まそうにも、逆に傷口を
広げてしまいそうなので、話題を変えることにした。

「ちなみに、どこで転んだの?」

「この店の少し手前にある、牛丼屋の近くのカーブです。」

牛丼屋? あぁ、そういえば昨年末だったかな。
この町に初めて、牛丼屋の大手チェーン店が
近所にオープンした。
この町の住人は新しいもの好きだ。牛丼1杯を食べる為だけに
オープン前に徹夜で並んでいた。
と、次の日の全国ニュースでは、大いに笑われていた。

しかし、まてよ? あそこはたしか….
いや、それよりもどこかで聞き覚えのあるような話だ、と俺は首を傾げた。

そう、何年も前にも、こんな話があったような。

もしや…

「そこ、わりと緩いカーブ、じゃなかった?」

「そうですね。たしか、両脇が空き地の。」

俺はハッとしてオヤジを見た。

オヤジも、何か思い出した顔をした。
誰が見ても、オヤジの顔には「あ」と書いていた。

「のろいのカーブ、だ!!」
オヤジはクイズ番組の司会者のように
鋭い人差し指を向けた。

「は!? 呪いのカーブって何ですか!?」
細めていた目は飛び出そうになり、
青年は身を乗り出した。

続く…。

次回記事:【連載】webバイク小説「春待ちライダー」第二話

(ライター:幸坂 和希/Moto Be バイクの遊び方を提案するWEBマガジン

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