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■専用カラーを施した最終モデルの乗り味を体感
オンロード向けからオフロード向けまで、幅広いタイプを展開しているヤマハ発動機(以下、ヤマハ)のe-バイク(スポーツ電動アシスト自転車)が「YPJ」シリーズ。
それらの中でも、アウトドアの悪路などから街乗りまで幅広いシーンで楽しめるE-MTB(電動アシスト式MTB)の「YPJ-XC」が、なんと生産終了となってしまいます。
2018年の登場以来、誰もが気軽にオフロード走行を楽しめるエントリーモデルとして、根強い人気を誇ってきたのがYPJ-XC。
ヤマハでは、このモデルの生産を終えるにあたり、2023年4月27日に「YPJ-XCファイナルエディション(YPJ-XC Final Edition)」を発売しました。
パワフルでクイックなアシスト性能を発揮するドライブユニット「PW-X」や、悪路での高い路面追従性を発揮するフロントサスペンションなど、従来から定評のある装備はそのまま継承。ボディに専用のカラーやグラフィックを施すことで、より特別感を演出したのがファイナルエディションです。
スポーティさとカジュアルさを両立した新カラーは、アウトドアはもちろん街にもマッチすることで、このモデルが持つキャラクターをより強調していることが注目です。
そんなYPJ-XCファイナルエディションを、MTB専用コースで試乗。改めて、このモデルの魅力や走りの楽しさなどを体感してみました。
●街乗りから郊外へのロングライドまで幅広く対応
「フィールドを選ばない、大人が楽しめるE-MTB」として開発され、前述の通り2018年に登場したのがYPJ-XC。ハードなオフロード走行はもちろん、街乗りから郊外へのロングライドまで、幅広い用途で軽快かつアグレッシブな走りを体感できるモデルです。
ドライブユニットには、小型軽量でパワフルな「PW-X」を搭載。アシスト力は、6つのモードから選択できます。強さの順に
「EXPW(エクストラパワーモード)」
「HIGH(ハイモード)」
「STD(スタンダードモード)」
「ECO(エコモード)」
「+ECO(プラスエコモード)」
「アシストオフ」
を用意。トレイルから街中走行まで、道路状況や好みに応じた設定を行うことができます。
また、36V-13.3Ahの大容量バッテリーを搭載。1充電あたりの走行距離は、最もパワフルなEXPWモードでも89km、最も航続距離が長くなる+ECOモードでは、なんと244kmを実現。
ハードなオフロード走行だけでなく郊外などへのロングライドも楽しめることで、通勤・通学や買い物などの普段使いから休日のアウトドアまで、さまざまな用途で軽快に走れるモデルです。
ほかにも、ROCKSHOX社製のMTB用フロントサスペンションRECON GOLD(120mmトラベル)を採用することで、悪路での高い走破性を実現。
見やすく、操作しやすい「コンパクトマルチファンクションメーター」は、アシストモードの選択からバッテリー残量、速度計など、多様な情報がひと目で分かると共に、スマホなどの充電もできるUSBポートも備えるなどで、高い利便性も誇ります。
そんなYPJ-XCのファイナルエディションでは、フレームカラーに「マットソリッドグレー」を採用。フレームのダウンチューブには「YAMAHA」のビッグロゴ、リムにもアクセントを施すなどで、アウトドアはもちろん、普段の街乗りで着るファションにもマッチする絶妙なカラーリングとなっています。
なお、価格(税込)は43万5600円です。
●アップダウンが激しい林道コースに挑戦
今回、YPJ-XCファイナルエディションを試乗したのは、立木が並ぶ林の中に作られた、急なアップダウンが連続するオフロードコース。まるで、山間にある林道をハードにツーリングするような場所を走りました。
なお、このモデルにはサイズが3タイプありますが、身長165cm・体重59kgの筆者は、Sサイズ(全長1810mm×全幅740mm×サドル高770〜935mm)を選択。最もコンパクトな車体ですから、車両重量も21.3kgとかなり軽量です。
といっても、最も車体が大きいLサイズでも全長は1865mmで、サドル高は845〜1030mm(全幅はSサイズと同じ)。車両重量も21.4kgですから、そもそもYPJ-XC自体が、コンパクトで軽いモデルであることが分かります。
コースに入り、まずは下りの直線をダウンヒル。スタンディングのポジションを取り、リヤに荷重をかけるために腰を後方に引きながら、悪路の坂を駆け下ります。
YPJ-XCには、本格的なMTBと違い、リヤにサスペンションはありませんが、ROCKSHOX社製のフロントサスペンションは、かなり路面追従性がよく、ギャップなどを乗り越える際も安定性は抜群です。
また、車体が軽いのでコントロール性も良好。段差などでジャンプし、着地でやや後輪が跳ねた状態でも、腰を落とすなどの動作で車体の暴れなどを抑え込むことができます。
さらに、下りコーナーなどをある程度の速いスピードで曲がる際も、車体の寝かし込みなどがとっても楽。とてもドライブユニットなどが搭載されているとは思えないほど、軽快な走りを味わえます。
なお、このモデルのドライブトレインには、外装11段速の「SHIMANO DEORE XT」を装備。変速はハンドル右側のレバーで操作しますが、変速の動きがシャープでなめらかなため、ギアのアップやダウンでまごつくことは皆無。思い通りの変速が可能です。
さらに、急な登り坂では、アシスト力がマックスのEXPWモードが威力を発揮します。人力だけで走る普通のMTBでは、かなり疲労度が増すような急勾配の坂でも、楽に駆け上げることができます。特に、50代後半で体力の衰えを感じはじめた筆者にとっては、こうした強力なアシスト力は、かなりあり難いですね。
●気軽に乗れる次期E-MTBに期待
このように、YPJ-XCファイナルエディションは、林道などのオフロードを肩肘貼らず、気軽で軽快に走れることが魅力。しかも、カジュアルなカラーリングは、街乗りにもマッチするでしょうから、日常の足としても十分に使えることも魅力です。
ヤマハYPJシリーズのE-MTBモデルには、ほかにも、シリーズのフラッグシップとなる「YPJ-MTプロ」というモデルもありますが、前後サスなどを備えるこちらは、かなり本格的モデル。価格(税込)も74万8000円とプレミアムです(2023年7月31日に発売される「YPJ-MTプロ 30thアニバーサリー」は税込価格75万9000円)。
そう考えると、価格も比較的リーズナブルな43万5600円で、日常から休日のレジャーまで、気軽に乗れるエントリーモデルのYPJ-XCが生産終了となってしまうのは、かなり惜しい気がします。
なお、生産終了の理由は、ヤマハの技術者によれば「(YPJ-XCは)外付けタイプのバッテリーを採用しているが、規格が古く、世界的なトレンドに対応していないため」とのこと。
確かに、ヤマハのYPJシリーズでも、2022年に発売されたグラベルバイクの「ワバッシュRT」などは、フレームにバッテリーを内蔵した仕様となっています。あくまで個人的な要望ですが、YPJ-XCもバッテリー内蔵式のフレームを採用した新型をぜひ出してもらいたいところです。
もちろん、E-MTBとしてはYPJ-MTプロがありますが、こちらはトップ・オブ・トップのモデル。充実した装備や高い走行性能などは「いつかは手にしたい」憬れではあります。
でも、たとえば、オフロードの初心者が、その性能を十分に引き出せるのは、おそらくYPJ-XCの方ではないかと思います。それだけに、ラインアップからなくなってしまうのは、かなりもったいないと感じます。
ともあれ、今のところはYPJ-XCが新車で買えるのは、このファイナルエディションが最後のチャンス。E-MTBで、これからオフロードライディングを始めてみたい人は、特に注目だと思いますよ。
(文:平塚 直樹/写真:堤 晋一)