復活濃厚のトヨタ「セリカ」、EU方針一転で水素エンジン搭載に現実味

■佐藤恒治新社長がセリカ復活を示唆!?

トヨタ自動車 佐藤新社長
トヨタ自動車 佐藤新社長

トヨタ自動車は2023年4月7日(金)、佐藤恒治社長を筆頭とする“新体制方針説明会”を開催しました。

各種情報によると、スポーツカー好きの豊田章男前社長からバトンタッチした佐藤新社長は、過去に“スーパーストラットサスペンション”を搭載した「セリカ」を所有していたそうで、かねてより「人生の夢はセリカを復活させること」と公言しているようです。

「スーパーストラット」を初採用した6代目セリカ
「スーパーストラット」を初採用した6代目セリカ

ラグジュアリークーペのレクサスLCなど、トヨタのスポーツカーや水素エンジン車の開発に深く携わって来た佐藤社長だけに、この話は大いに現実味を帯びています。

トヨタ新体制方針説明会資料
トヨタ新体制方針説明会資料

同社は今回の説明会で、これまでにHEV(ハイブリッド車)を中心に電動車を世界で2,250万台販売しており、それに伴うCO2排出削減効果は、BEV(電気自動車)換算で約750万台分に相当すると説明。

今後2030年までにCO2をグローバルで33%以上(2019年比)削減し、2035年までに50%以上削減するとしています。

●欧州委員会の方針変更で内燃機関存続に光

トヨタ新体制方針説明会資料
トヨタ新体制方針説明会資料

一方、地球温暖化防止を名目に、2035年までにエンジン車の新車販売を禁止する法案成立に向けて動いていた欧州委員会が先頃、これまでの方針を一転。「2035年以降も合成燃料の使用を前提に内燃機関の使用を認める」としており、半導体やバッテリー原材料不足により、同年までの完全BEV化は無理と判断した模様。

そもそもこの法案は、日本のお家芸であるHEV潰しを狙ったものとの見方もあり、メルセデス・ベンツがいち早く2030年の完全電動化を表明するなど、欧州車メーカー各社もBEV化に向けて一斉に動き出していました。

トヨタ新体制方針説明会資料
トヨタ新体制方針説明会資料

同様に、日本の自動車各社も2030年を目処にBEV化を推進している訳ですが、欧州委員会が合成燃料を使用する内燃機関の存続を認めたことで、BEV化は必達条件では無くなり、カーボンニュートラルに向けた一手段となりました。

BEVは構造がシンプルで参入障壁が低い反面、普及を阻む要素が多いのが特徴(航続距離、充電時間、インフラ整備、バッテリーコスト、重量増、原材料リチウムの他国依存など)。

一方の合成燃料(e-fuel)は、再生可能エネルギー由来の水素(H2)と、発電所や工場から排出される二酸化炭素(CO2)を使って製造する石油代替燃料で、燃焼時にはCO2を排出するものの、製造時にCO2を吸収することで大気への排出量を±0とするCN(カーボンニュートラル)燃料。

トヨタ新体制方針説明会資料
トヨタ新体制方針説明会資料

エネルギー密度が高く、ガソリン車や軽油車で燃料としてそのまま使えるため、e-fuelが代替燃料として利用可能になれば、新車販売台数の20倍にも及ぶ既存車両をエコカーに生まれ変わらせることが可能となります。

しかし、現時点では製造コストが高く(経産省試算で300~700円/L)、日本では今後10年間で集中的に実証事業や研究を進め、2040年までの商用化を目指している状況のようです。

従って、当面はHEV、PHEV(プラグインハイブリッド)、BEV、FCV(燃料電池車)を、使用環境や用途に応じて使い分ける状態が続くことになりますが、その中で期待されているのがトヨタ自動車がレース活動を通して鋭意開発中の“液体水素”を燃料とする「水素エンジン車」の実用化。

●水素エンジン開発が本格化

水素エンジン搭載で蘇ったAE86トレノ
水素エンジン搭載で蘇ったAE86トレノ

「水素エンジン」は、水素の燃焼により動力を発生させるもので、走行時にCO2を排出しないのは勿論、燃焼速度が早く、トルクフルでレスポンスに優れるのが特徴。

ガソリンエンジンの燃料供給系と噴射系を変更することで実現する技術であり、これまで長年に渡って培ってきた自動車メーカーならではのエンジン関連技術、さらにはエンジン生産に必要な生産設備や雇用を維持することが可能となります。

水素エンジンへのコンバート風景
水素エンジンへのコンバート風景

トヨタでは使用燃料を圧縮水素に代わり液体水素を使用することで、燃料タンク形状の設計自由度向上や航続距離の拡大、付帯設備のスリム化などを狙っており、その技術開発もほぼ峠を越している模様。

水素エンジンはカーボンニュートラルに貢献するだけでなく、エンジン音や排気音、振動など、「クルマを操る楽しさ」を満喫できることから、今後のスポーツカーの魅力をいっそう引き立ててくれるに違いありません。

●水素エンジンで「セリカ」を復活!?

初代セリカのエクステリア
初代セリカのエクステリア

「未来の国からやってきた」のキャッチフレーズで、1970年に登場した初代セリカはその後、7代目まで開発されましたが、2006年に姿を消して以来、早16年以上が経過。

その車名はスペイン語の「天空」に由来しており、これまでの歴代セリカが「2ドアクーペ」を基本とする先進的なスタイリングを採用していることから、復活が期待される次期モデルにおいても、そうした流れを継承するものと予想されています。

8代目セリカのエクステリア(筆者予想)
8代目セリカのエクステリア(筆者予想)

トヨタは2017年に続き、2021年に米国特許商標庁に対して、2度目となる「セリカ」の商標権登録申請を実施していることも、同車復活への期待が高まっている要因。

今回、欧州委員会が上述のとおりBEV一辺倒から方針を転じましたが、その裏でBMWやボルボなどの欧州自動車メーカー各社は、すでにトラックなどの大型車向け水素エンジン開発に着手している模様で、今後トヨタに刺激されて、乗用車向けの開発にも乗り出す可能性があります。

こうした情勢から、システムのコンパクト化を得意とする日本メーカーとしては、「セリカ」に代表されるインパクトのあるスポーツカーへの、いち早い水素エンジン搭載が望まれます。

Avanti Yasunori

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Avanti Yasunori

大手自動車会社で人生長きに渡って自動車開発に携わった後、2011年5月から「clicccar」で新車に関する話題や速報を中心に執筆をスタート、現在に至る。幼少の頃から根っからの車好きで、免許取得後10台以上の車を乗り継ぐが、中でもソレックスキャブ搭載のヤマハ製2T‐Gエンジンを積むTA22型「セリカ 1600GTV」は、色々と手を入れていたこともあり、思い出深い一台となっている。
趣味は楽器演奏で、エレキギターやアンプ、エフェクター等の収集癖を持つ。
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