目次
■車の車両制御とは
危険な状態を察知して事故を回避する予防安全技術として代表的なのは、ABS(アンチロックブレーキシステム)とTRC(トラクションコントロールシステム)、ESC(横滑り防止システム)です。また、万一衝突した場合に乗員を保護する衝突安全技術の代表は、シートベルトとエアバッグです。
安全技術の基本である予防安全技術と衝突安全技術の制御に注目して、解説します。
車の安全技術
危険を察知して事故を回避するために運転を補助するABSやTRC、ESCなどの予防安全技術は、歴史は古く1980年代から進化しながら普及しました。
また、衝突が避けられない場合には、乗員の保護を目的にしたシートベルトやエアバッグに代表される衝突安全技術があり、交通事故による死者数を激減させました。
いずれの安全技術も、ハードの開発とともに高精度制御の開発は必須であり、特に制御技術の進化には目覚ましいものがあります。
予防安全技術の基本制御
・ABS(アンチロックブレーキシステム)
ABSは、急ブレーキや滑りやすい路面の制動で生じるタイヤロックを防止して、適切な制動力と操縦性を確保するシステムです。常時各車輪のスリップ状態をモニターして、タイヤロック(スリップ)が発生した場合は、ブレーキ油圧の減少・増加を短い周期(数m~10m/秒)で繰り返します。このポンピング機能によって、操縦性を損なうことなく、安全に車両を停止できます。
・TCS(トラクションコントロールシステム)
TCSは、滑りやすい路面や大きな駆動力によって発生する、駆動タイヤの空転(ホイールスピン)を抑えて、発進時や加速時の車両安定性と加速性を確保するシステムです。ABSと同様に、駆動輪速度と車体速度を比較することによって、タイヤのスリップ状況を判定します。駆動力の制御は、エンジントルクの抑制と駆動輪の制動力制御を組み合わせて行います。
・ESC(横滑り防止システム)
ESCは、ABSとTCSの機能を進化させて、さらに旋回時のアンダーステアやオーバーステアなどの横滑り状態を検出して、車を安定化する制御です。車体挙動を検出するさまざまなセンサー出力から、ドライバーの目標とする車体進行方向のモーメントと実際の車体の進行方向のモーメントを比較し、両者の差が規定値を超えると制動力とエンジントルクの制御を行います。
・EPS(電動パワーステアリング)
ドライバーのステアリング操作力をモーターでアシストするEPS(電動パワーステアリング)は、低燃費や軽量化、制御自由度の高さなどの観点から、乗用車のほとんどが採用しています。EPSシステムは、モーターや操舵力を検出するトルクセンサー、操舵角を検出する操舵角センサー、EPS-ECUなどで構成され、アシストするモーターの駆動力はこれらの情報と車速から決定されます。
衝突安全技術
衝突安全技術の代表であるエアバッグは、シートベルトとの組み合わせを前提に、衝突時に乗員を保護するために開発されました。衝突時にシートベルトで乗員の姿勢を適正に保ちつつ、瞬時にエアバッグを膨らませて乗員の安全を確保します。
エアバッグシステムは、エアバッグECUと前突、側突用のサテライト(衝撃検知)センサー、エアバッグモジュールなどで構成されます。
メーカーは、現在、予防安全技術の先を見据えた運転支援技術と自動運転技術に注力しています。レーザーやレーダー、カメラなどのハードに注目しがちですが、どんなに優れた技術も制御が適正でないと、十分な真価は発揮できず、信頼性も確保できません。
本章では、ドライバーと乗員を守る車の安全制御について、詳細に解説します。
■ABS(アンチロックブレーキシステム)とは
予防安全機能を向上させるブレーキ機能の中で最も基本的なのは、制動時のタイヤロックを防止するABS(アンチロックブレーキシステム)です。
予防安全機能の先駆けとして登場したABSのシステムと制御技術について、解説していきます。
ABSシステムの概要
ABSは、1970年代に登場し、現在はほとんどの車に導入されている基本機能です。ABSの採用によって、急ブレーキや滑りやすい路面の制動で生じるタイヤロックを防止して、適切な制動力を得ることができます。
タイヤロックは、スリップ率が100%(車輪速が0)の状態で発生し、このとき操舵性に寄与するコーナリングフォースはほぼ0です。後輪タイヤがロックした場合は車両が不安定なり、前輪タイヤがロックした場合には操舵が効かなくなります。
スリップ率 = (車体速度―車輪速度)/車体速度 ×100 (%)
ABSは、各タイヤのスリップ率を適正に保ち、グリップ力を適正に保つことによって、コーナリングフォースの低下を防ぎ、操舵性と最適な制動力実現します。
ABS制御の概要
ABS-ECUは、各車輪速センサーのパルス周期から求めた車輪速度とその微分値である車輪加速度、車速を用いて、スリップ状況を演算します。スリップ状況に応じて、ABSアクチュエーターに指令を出して、各車輪のブレーキ油圧を独立に制御します。
ABSアクチュエーターは、制動時に各車輪のホイールシリンダー油圧を調整する装置です。各車輪に一対の電磁弁を有し、そのオン/オフ切り替えによってホイールシリンダーの油圧を増減・保持することで、制動力を制御します。
車輪速センサー
車輪速センサーは、車輪の回転速度を計測するセンサーで、車輪とともに回転するローターの磁界の変化を検出する非接触型センサーが用いられます。
かつては電磁ピックアップ方式が用いられていましたが、現在ではホール素子やMR素子で検出する半導体型が主流となっています。
ABS制御方法
ABS-ECUは、常時各車輪のスリップ状態をモニターして、スリップが発生した場合は以下のようにABSの油圧制御を行います。
急ブレーキなどでタイヤスリップ率が基準値を超えた場合、タイヤロックと判定して、ホイールシリンダー油圧を減少させて制動力を緩め、油圧を保持して車輪速度の回復を待ちます。
その後、スリップが収まる(スリップ率が低下)と、油圧を周期的に保持・増圧を繰り返し、ホイールシリンダーの油圧を増加させ、再度車輪速度を低下(スリップ率低下)させます。
この油圧の減少・保持・増加のサイクルを数m~10m/秒の短い周期で車両停止まで繰り返す(ポンピング機能)ことで、車輪ロックを防止します。
ポンピングブレーキは不要
ABSが普及してない頃は、自動車学校では急ブレーキ時にはポンピング機能をブレーキペダルの踏み込み調整で行うように、ドライバーに指導していました。
ABS装着車の場合、急ブレーキ時には思い切ってブレーキペダルを踏み続け、ステアリング操作に集中すればよいのです。
フェイルセーフ機能
ABSの故障は大事故につながるので、ABS-ECUは自己診断機能を持っています。
もしも故障が発生した場合は、警告ランプを点灯させてドライバーに認識させた上で、システムを通常の制動システムに切り替えます。ABSの誤作動で普通のブレーキ中に頻繁にABS制御が入ると、制動距離が延びてしまう恐れがあります。
長年車を運転していても、急ブレーキをかける経験は少ないと思います。ABSは、通常のブレーキでは作動せず、相当強く踏み込まないと作動しません。
ABSが作動しているときには、ブレーキ力を小刻みに制御するので、ペダルや車体にガクガクした振動やガガガガといった作動音が発生します。
■TCS(トラクションコントロールシステム)とは
TCS(トラクション・コントロール・システム)は、滑りやすい路面や大きな駆動力によって発生する駆動タイヤの空転(ホイールスピン)を抑えて、発進時や加速時の車両安定性と加速性を確保するシステムです。
タイヤの空転を防止するTCSのシステムと制御技術について、解説していきます。
TCSシステムの概要
滑りやすい路面や急加速時に、路面との摩擦を上回るトルクによってタイヤがグリップ力を失い、空転して車体姿勢が不安定になる場合があります。このとき、エンジントルクを制限するとともに、空転している車輪に制動力を加えることで走行を安定させるのがTCSシステムです。
トラクションとは、タイヤが路面に対して発生する駆動力のことです。
TCSでは、ABSと同様に駆動輪速度と車体速度を比較することによって、タイヤのスリップ状況を判定します。駆動力の制御は、エンジントルクの抑制(スロットル開度や点火時期の調整、燃料カットなど)と駆動輪の制動力制御を組み合わせて行います。
TCSの構成
システムは、TCS-ECUや各輪の車輪速センサー、ブレーキアクチュエーター、エンジントルクを制御するエンジンECU、電子制御スロットルなどで構成されます。
ABSシステムにエンジン制御機能を追加し、さらにブレーキ制御のためにTCS用のブレーキアクチュエーターを装備しています。ブレーキアクチュエーターは、ABSアクチュエーターをベースに、プレッシャーレギュレートバルブを追加して、マスターシリンダーやリザーバー、同バルブにそれぞれにカットインバルブを追加しています。
TCS制御
TCSでは、以下のように制御して適正な駆動力を確保します。
アクセルが急激に踏み込まれて、エンジン駆動力がタイヤと路面間の摩擦力より大きい場合、駆動輪速度は急激に上昇し、空転(スリップ)が発生します。駆動輪速度が規定値よりも超えた場合は、空転が発生したと判定します。
空転判定すると、制動力制御とエンジントルク制御を開始し、駆動輪速度が低下して規定値を下回った時点でブレーキ油圧とエンジントルクを保持します。
さらに、駆動輪速度が低下して制御の終了基準を下回ると、ブレーキ油圧を下げながら、エンジントルクをドライバーの要求値に徐々に戻していきます。
TCSシステムは悪路でも活用
TCSでは、空転している駆動輪だけにブレーキをかけることで、空転を抑えると同時に、デファレンシャルギヤを介して、駆動力が伝わらなくなった反対側の車輪に駆動力を伝えることができます。これにより、左右輪の摩擦係数μが異なるような悪路でも安定した発進加速ができるので、トラクション機能を高めたTCSシステムはSUVで活用されています。
ABSは制動時のための安全制御技術、TCSは走行時の安全制御技術です。目的は異なりますが、いずれもドライバーの意思とは関係なく、ドライバーに代わって車両を安定させる技術で、制御方法は類似しています。
最近の車は、ABS(別頁で解説)とTCSを組み合わせて使い、最終的にはESC(横滑り防止システム:別頁で解説)へと統合されて搭載されています。
■ESC(エレクトロニックスタビリティコントロール)とは
ESC(エレクトロニックスタビリティコントロール)は、「ABS(アンチロックブレーキシステム)」と「TCS(トラクションコントロールシステム)」、「ヨー制御」の3つの技術を組み合わせた横滑り防止システムで、さまざまな運転支援技術にも適用されています。
車の安全にとって不可欠で、搭載が義務化されているESCシステムの制御について、解説していきます。
ESCシステムの概要
車が急旋回する際、路面状況によってはオーバーステア(後輪の横滑り)やアンダーステア(前輪の横滑り)が発生する場合があります。
ESCは、制動時のタイヤロックを防止するABSと、発進加速時の空転を防止するTCSの機能を進化させて、さらに旋回時のアンダーステアやオーバーステアなどの横滑り状態を検出して、車を安定化する制御です。
横滑りの検出は、操舵角センサーなどから求めるドライバーが目標とする車体進行方向のモーメントと、4輪の回転角などから求めた実際の車体進行方向のモーメントが一致するかどうかで行います。一致しない場合は、車が不安定な状態、または横滑りが発生したと判定します。
ESCの構成
システムは、各車輪の車輪速センサーに加えて、運転者操作を検出するためのセンサー(操舵角センサーやブレーキ油圧センサーなど)と、車体挙動を検出するためのセンサー(ヨー角を検出するヨーレートセンサー、車両前後と左右の加速度センサーなど)の入力情報と、4輪独立に制動力を制御するアクチュエーター、ESC-ECUで構成されています。
ESC制御に加えて、ABSとTCS機能も備えており、エンジントルクを制御するためにエンジンECUと連携をとっています。
ヨーレートセンサー
ヨーイングは、車の重心を通る上下軸を中心に、コマのように回転する動きです。ヨーレートセンサーは、ヨーイングの回転角速度を計測するセンサーです。
ヨーレートセンサーは、振動子に車両の角速度が作用すると、回転方向と角速度変化に比例した電圧が発生する原理を利用したものです。
ESC制御
各種センサーは、1秒間に100~1000回で演算し、ECUに入力情報として送信します。ESC-ECUは、それらの情報から1秒間に25回程度は走行状態をモニターします。
いろいろなセンサー出力から、ドライバーの目標とする車体進行方向のモーメントと、実際の車体の進行方向のモーメントを比較し、両者の差が規定値を超えるとESC制御を開始します。
アンダーステアは、ステアリングを切っても車が外に振られる現象です。このときESCは、車両に内向きのモーメントを与えるために旋回内側後輪に制動力を与え、同時にエンジントルク制御も行います。一方、オーバーステアの場合は、旋回力が強すぎて、最悪の場合はスピンしてしまいます。このときは、外向きのモーメントを与えるために旋回外側の前輪に制動力を与え、エンジントルクも制御します。
また、雪道などの滑りやすい低μ路面でも、各輪の滑り状況を検出し、制動力とエンジントルクを制御するので、高い走行安定性を実現します。
ESCの義務化
死亡事故の約40%は横滑りが原因です。その一方で、ESCを搭載すると単独事故の30~40%減少させ、また横滑りを原因とする事故の最大80%も低減することが報告されています。
これらの効果を背景に、欧米に追従して日本でもESCの標準搭載が義務化されました。
車の基本性能である「走る」「止まる」「曲がる」のうち、「走る」を制御するTRCと、「止まる」を制御するABSの2つ機能を統合して、「曲がる」を制御する機能を付加したのがESCです。
実用的で予防安全技術の核であるESCは、衝突安全や現在、急進している運転支援技術などと連携しながら、総合的な安全技術へと進化しています。
■EPS(電動パワーステアリング)とは
ドライバーのステアリング操作力をモーターでアシストするEPS(電動パワーステアリング)は、低燃費や軽量化、制御自由度の高さなどの観点から、乗用車のほとんどが採用しています。
電動車や運転支援技術のためにも不可欠なEPSのシステムと制御について、解説していきます。
EPSシステムの概要
EPSは、ドライバーの操舵要求に応じて、モーターのトルクで操舵力をアシストするシステムです。モーターのアシストによって、ドライバーの操舵力は約1/10まで軽減され、また油圧式に比べて軽量コンパクトになるというメリットもあります。
EPSは、モーターの取り付け位置によって3つの方式に分類されます。
コラムアシスト式は、ステアリングシャフト上部のコラム部にモーターを組み込み、ピニオン式は、ステアリングシャフト下部のピニオンギアにモーターを組み込んで操舵力をアシストします。ラック式は、ピニオンギアが噛み合うラック軸上にボールねじを組み込み、モーターでボールねじを駆動させます。
コラムアシスト式は、安価なので小型車を中心に広く採用され、ラックアシスト式はコストがかかるものの、大きなアシスト力が確保できるため、大型SUVや高級車で採用されています。
EPSの構成
EPSシステムは、モーターやモータートルクを増幅する減速機、トーションバーの捻じれから操舵力を検出するトルクセンサー、操舵角を検出する操舵角センサー、EPS-ECUなどで構成されます。
アシストするモーターの駆動力は、操舵力や操舵角、車速情報などから決定されます。
トルクセンサーは、ドライバーの操舵トルクを検出するセンサーです。ステアリング軸上の設定されたトーションバーと、その捻じれ角を検出するセンサーからなります。
操舵角センサーは、ステアリングコラムに装着され、操舵角を検出します。操舵角センサーを使わず、トルクセンサーとモーターの回転角センサーで操舵角を算出する手法を採用している例もあります。
モーター種別
EPSで使われるモーターには、ブラシ付きモーターとブラシレスモーターがあります。
ブラシ付きモーターは比較的安価に構成できますが、大出力とともにローターの慣性モーメントが増大して、操舵フィーリングが悪化します。一方ブラシレスモーターは、構成が複雑で高価ですが、大出力になっても慣性モーメントの増大が抑えられるメリットがあります。
EPS制御
EPS制御は、基本制御と補正制御、モーター電流制御、フェールセーフで構成されます。
基本となるアシスト電流は、操舵力と操舵角、車速情報などから決定します。このベース電流に、ステアリング増速時に増加させる、減速時には減少させるイナーシャ補正や、ステアリングホイールに伝わる振動を抑えるダンピング補正、旋回後ステアリングが戻される場合に対応する戻り補正などを付加します。
上記のアシスト電流指令に対して、モーターを応答良く駆動させるため、モーター電流を高精度に制御します。実モーター電流を検出し、指令値に対する差分を補正するフィードバック制御が一般的です。
フェールセーフには、ドライバーの操舵トルクの方向と、アシスト方向が一致しているかをモニターするインターロッキング方式が一般的です。ステアリングが切れなくなる、勝手に切れるなどの異常が発生した場合は、直ちにシステムを停止します。
パワーステアリングは、もともとエンジンで駆動するオイルポンプを使って操舵力をアシストしていました。燃費向上のために、1990年代に電動パワステ「EPS」が登場し、今や乗用車のほとんどが採用しています。
またHEVやEVなど電動車のため、さらに最近は自動駐車システムや車線維持支援システム(LKAS)などの運転支援技術のために、EPSは不可欠な技術となっています。
■パッシブセイフティ(衝突安全)とは
パッシブセイフティ(衝突安全)技術の代表であるエアバッグは、シートベルトとの組み合わせを前提にして衝突時に乗員を保護するために開発されました。
シートベルトとエアバッグのシステムと制御について、解説していきます。
シートベルト
当初は2点式シートベルトでしたが、現在、ほとんどの車は1959年にボルボが初めて採用した3点式を採用し、エアバッグと組み合わせて乗員を保護します。
3点式シートベルトは、左右腰部と片側肩部を固定し、通常時はベルトの緩みを持たせ、非常時には体が前方へ飛ばされないように適度にロックするELR(Emergency Locking Retractor:緊急ロック式巻き取り装置)が組み込まれています。
さらに、エアバッグと連動して衝突時にベルトを巻き取り、初期拘束の効果を高めるプリテンショナーと、大きな荷重が胸や鎖骨にかかった時にベルトを緩めるロードリミッター機構も一般的に装備されています。
エアバッグ
衝突時にはシートベルトで乗員の姿勢を適正に保ちつつ、瞬時にエアバッグを膨らませて乗員の安全を確保します。衝撃を吸収すると、衝突後のハンドルやブレーキ操作と視界確保のために、すぐに収縮します。
エアバッグは、運転席のステアリング内に装備され、続いて助手席のインパネ内、さらにサイドエアバッグ用に座席内、カーテンエアバッグ用にルーフライニング内と、より安全性の向上を目指してさまざまな場所に設置する傾向にあります。
2009年に発売された3代目プリウスでは、6個のエアバッグを標準装備して話題になりましたが、現在(2023年時点)の車にはおおむね8個のエアバッグが装備されています。
エアバッグシステムの構成
エアバッグシステムは、エアバッグECUと前突、側突用のサテライト(衝撃検知)センサー、エアバッグモジュールなどで構成されます。サテライトセンサーは、応答性を高めるためにクラッシャブルゾーンに配置して、衝突時の加速度をECUに送信します。
その他、展開が必要と判断した時にエアバッグモジュールに点火電流を流す点火装置、システムの故障診断機能、さらに万一バッテリーが外れても点火電流を確保するためのコンデンサによるバックアップ機能を持っています。
エアバッグの動作原理と制御
衝突時、車両前方に装着されたサテライトセンサーと、ECU内の加速度センサーが衝撃を検出(0.003秒後)します。応答が速いサテライトセンサーは、局所的な衝撃でも反応してしまうので、衝突の判定は加速度センサーの情報と合わせて総合的に判断します。
エアバッグの展開が必要と判断(0.015秒後)した場合には、点火装置で着火してインフレーター(ガス発生装置)を作動させ、大量のガスを発生させます。
発生したガスは、バッグの中に充満し、圧力を上昇させてスアリングカバーを押し破り展開します。衝突を検知してから、運転席なら0.02~0.03秒、助手席なら0.03~0.04秒後に展開が完了します。
バッグにはベントホールという穴が開いており、バッグの内圧が上がりすぎるのを防いでいます。
エアバッグの不具合が社会問題に
2010年前後から数年以上、自動車業界を揺るがす大問題となった『タカタ製エアバッグ』の不具合が発生しました。
国内メーカーのほとんどが使用し、世界シェア第3位のタカタ製エアバッグが、2008年頃から米国で展開時に異常破裂し、金属片が飛散することによって死亡事故まで引き起こす事故が発生しました。
原因は、インフレーターガス発生剤(硝酸アンモニウム)の品質(特に湿度の影響)管理が不十分であったためですが、原因が不明のまま、2009年から国内のほとんどのメーカーが大量リコールをするという異常な事態に発展したため、大きな社会問題になりました。
エアバッグは、単独で機能して乗員の安全を守っているわけではありません。
シートベルトを着用していることが前提で、シートベルトの機能を100%発揮するためにエアバッグがフォローしているので、SRS(Supplemental Restraint Syatem:補助拘束装置)と呼ばれます。
(Mr.ソラン)
クリッカー自動車用語辞典 https://clicccar.com/glossary/