■富士24時間レースのデータを解析。水素エンジンの見えない部分が見えてきた。
2022年7月10日(日)に開催された、ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook第3戦 SUGOスーパー耐久3時間レースのグループ1レースの時間帯に、TOYOTA GAZOO RACINGの佐藤恒治プレジデントなどを囲んだ座談会形式のインタビューが行われました。
S耐SUGO戦は、コースの規模に対し参加台数が多いため、レースはグループ1、グループ2に分け戦われます。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptの出走レースはグループ2なので、午前中にレースは終了しています。
ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept、いわゆる水素エンジンカローラの水素エンジンについて、富士24時間レース(2022年6月3日~5日)においてはかなりのデータがとれたということが話題に上ります。
特に、ガソリンエンジンではあまり気になりませんが、水素エンジンではかなりの違いがあるところとして、スリップストリームについた時の吸入する空気の温度の違いがあるとのこと。
スリップストリームとは、ストレートなどで前車にぴったりと近づいて直後を走ることにより、前車が起こす空気の巻き込みに自車をうまく乗せることで、前車に自車を引っ張ってもらう現象のこと。これにより、前車と自車が同じスピードであれば自車の方にパワー的な余裕が生まれ、ストレートエンドで前車を追い抜きやすくなります。
レースでは多用されるテクニックのスリップストリームですが、この際にエンジン内に供給される空気の温度が上がるということが確認されたそうです。そういったときに、燃焼状態としてどういう状態となっているのかがだんだんわかってきたとのこと。
その状態での異常燃焼を減らすために、流入する空気をさらにクリーンにしていくこと、点火時期と水素の噴射時期のバランスをうまく取ることで、異常燃焼と正常燃焼のバラつきを減らすことが出来ることなどを突きとめ、このSUGO戦に臨んでいるとのことです。
富士24時間レースが終わってエンジンを全て分解し、また24時間分の膨大なデータを突き合わせることによって、とくに異常燃焼という、エンジン内部で起こる目に見えない現象についての部分が数値などで見えるようになってきたようです。そのことを踏まえ、SUGO戦では会心のセッティングのエンジンとなっており、安心して3時間のレースを戦えた、とのこと。
●ニュルブルクリンク24時間レースも視野に? 水素エンジンカローラの少し先の未来
ヨーロッパなどでは水素カローラに期待を寄せる向きもあると言い、豊田章男社長は「水素のクルマで(ニュルブルクリンク24時間のコースを)走ることができたらいい」という発言もあったそうです。そんな中、TGRの佐藤プレジデントは「冗談みたいなノリだけど、そういうところから始まっていくんです」と語ります。
「現段階でORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptの航続距離は50km程度ですから、ニュルブルクリンクの北コースを2周しかできない。まともに走ろうと思えば250km程度の航続距離が欲しいところで、この航続距離で8~9周となります」と佐藤プレジデント。
「現在はMIRAIの水素タンクをリアシート位置に3本搭載し、気体水素を充填しています。同程度の容量で液体水素にすれば、航続距離が延びるじゃないか?という議論もありますが、液体水素ではシステム全体が魔法瓶構造となり、車両搭載のタンクも重量が増えます。液体水素が最適かどうかはまだ検証の余地があります」と続けます。
昨年の富士24時間でデビューした水素エンジンカローラがパワーを手に入れて、昨年に比べ100周以上も周回数を伸ばして完走したことで、かなりの進化が確認されました。まだまだ開発中の技術とは言え、1周25kmのニュルブルクリンクへの期待も出てくるなど、スーパー耐久を活用した新技術開発は、本当にスピードアップがなされているのだ、と言うことが実感できます。
今週末、7月31日(日)には第4戦 スーパー耐久レース in オートポリスが開催されます。標高が高くアップダウンの激しいオートポリスでは、また新たな課題も噴出することでしょう。その課題こそが豊田章男社長の狙う、いいクルマを作るために必要なこととなっていくようです。
(写真・文:松永 和浩)
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