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■ロシアのウクライナ侵攻で自動車業界はどう変わる
ネットスラングとして「おそロシア」といった表現を使うことは昔からありましたが、そんな茶化していられる状況ではなくなっています。
ご存知のように、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始したことが報じられています。その後も事態は悪い方向に進んでおり、一部では第三次世界大戦に拡大するのでは? という声もあがっているほどです。世界中がその展開に注目しています。
日本では、ロシアの動きが他国に影響して、日本が侵攻されるような事態になるのではという心配が多いようですが、隣接する欧州ではもっと切実な事態といえます。その中で、EU圏の自動車業界が進めてきた電動化への動きに変化が起きそうなムードも生まれています。
キーワードは「天然ガス」です。
●EUのプランB「水素戦略」が始動するか
EU圏における政府とメーカーが連携したかのような電動化ムーブメントの背景には、地球温暖化防止すなわちCO2排出の低減があり、それを支えているのが再生可能エネルギーや原発によるクリーンな発電です。
そして、欧州の一部ではロシアから供給される天然ガスによる発電もクリーンだとカウントするという風になっています。
将来的なカーボンニュートラルの実現においては天然ガスによる火力発電はNGでしょうが、その過程にある現時点では認めていくことで、まずは石炭火力発電を廃止できるであろうというのが、その背景にあります。
それはロシアにエネルギー政策の首根っこを抑えられていることになり、それがウクライナ侵攻において欧州が弱腰に対応しているように見える理由だという説もあるほどです。
とくに天然ガスの影響を受けるであろうドイツは歯切れが悪く、一方で原発を多数有するフランスは異なる態度をとっている印象もあります。いずれにしても天然ガス利用を前提としたエネルギー政策のロードマップは見直しを求められることは必須といえるでしょう。
そこで思い出されるのが、2020年7月8日にEU(欧州連合)が発表した『A Hydrogen Strategy for a climate neutral Europe (気候変動に対応するための水素戦略)』という宣言です。
発表当時、それほど話題になった印象はありませんが、EUはプランBとして水素社会の構築を計画しているのです。
●燃料電池車はアジアンメーカーがリード中
この宣言によれば、EU圏では2025~2030年には1000万トンの水素を生産することを目指しています。2030年以降は、主たるエネルギーを水素としてCO2フリーの社会を築くという計画です。
1000万トンの水素とは、どのような規模でしょうか。
トヨタMIRAI、ヒョンデ・ネッソといった量産されている燃料電池車のタンク容量はおよそ5kgですから、1000万トンの水素というのは燃料電池車を20億回も満タンにできるスケールです。
一回の満タンで800km走れるとして、乗用車の総走行距離にして1兆6000億km相当の、とんでもない量の水素を生み出そうというのがEUの考えている水素戦略です。
とはいえ、水素社会というのは、すべての自動車を燃料電池車にしようという話ではありませんし、水素の用途もモビリティだけに限った話ではありません。じつは日本が目指している水素社会も同様で、水素の多くは発電に用いるという計画で、自動車に回ってくる水素はせいぜい2割といったイメージになっています。
それでも水素社会が実現されれば、オワコンと思われていた燃料電池車が一気に主役に躍り出る可能性はあり得る話です。
現時点で、燃料電池車にリソースを割いているのは、前述したように量産車を用意しているトヨタとヒョンデといったアジアンブランド(奇しくも両社ともWRCでのライバルです)のほか、メルセデス、GMホンダ連合といったところでしょうか。
もし、EUが天然ガス依存度を下げるべく水素社会へ舵を切ると、こうしたメーカーの存在感がいま以上に大きくなっていくのかもしれません。
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