コロナ禍の奇跡?スズキ・ワゴンRが7年ぶりに日本一売れている軽自動車に返り咲いた【週刊クルマのミライ】

■2021年10月、軽自動車新車販売1位は8808台でワゴンR

●スライドドアの「スマイル」追加で人気復活

コロナ禍は自動車産業に大きな影響を及ぼしています。とはいえ、新車販売に関する部分ではだいぶリカバリーが進んでいます。

問題はサプライチェーン(部品供給)の分断です。報道されているように半導体不足は自動車製造のボトルネックとなっていますし、また東南アジアを中心としたロックダウンにより、そのほかの部品についても供給不足の状態が続いています。

ウィズコロナの新しい生活様式としてマイカーを求める声は大きくなっているのですが、各自動車メーカーは十分にオーダーに応えることができず、納車待ちの状況が続いています。

そうした状況は、新車販売ランキングにも大きく影響しました。

なんと! 軽自動車の絶対王者と思われていたホンダN-BOXが、2021年10月の月間販売においてトップの座を明け渡してしまったのです。

軽自動車販売(通称名別)のトップになったのは、スズキワゴンRでした。後席スライドドアのワゴンRスマイルをラインナップに加えたことで販売が伸びると予想されていましたが、トップになるというのは想像以上の躍進です。

WAGON-R-Smile
ダイハツ・ムーヴキャンバスに対抗するモデルとしてこの夏に誕生したワゴンRスマイルが好調のようだ

■2021年10月軽自動車通称名新車販売ランキング
1位 スズキ ワゴンR 8,808台
2位 日産 ルークス 8,696台
3位 ホンダN-BOX 7,442台
4位 スズキ スペーシア 6,319台
5位 スズキ ハスラー 5,416台

N-BOXは3位まで後退、ワゴンRはかつての定位置を奪い、堂々たるトップとなりました。

筆者の記憶によれば、ワゴンRが月間トップになったのは2014年12月以来ですから、およそ7年ぶりということになります。ちなみに、2014年12月にはワゴンRは1万8255台を販売していました。

それにしてもトップ5のうち3モデルがスズキ車というのは、意外かもしれませんが、ここにワゴンR躍進の秘密が隠されているといえそうです。

●ライバルが生産ペースを落としていた

WAGON-R
ベーシックなワゴンRは109万8900円~と手頃な価格なのもれうしい

たしかに、ワゴンRスマイルの追加による商品力強化という部分は見逃せませんが、こと10月の販売ランキングにおいていえば、ライバルが生産ペースを抑えているのは数字からも明らかです。

絶対王者であったN-BOXの7442台というのは、前月比で63.0%、前年同月比では46.4%と半減しています。N-BOXの商品力がいきなり落ちたというわけではありませんから、この生産減がコロナ禍によるサプライチェーン分断の影響であることは間違いありません。

ダイハツにしてもスーパーハイトワゴンのタントは前年同月比36.4%、クロスオーバーSUVのタフトは前年同月比65.9%と落ち込んでいます。一方、スズキの各車を見てみると、スペーシアこそ前年同月比51.6%ですが、ワゴンRの前年同月比は179.7%、ハスラーの前年同月比は82.9%と、コロナ禍の影響を最小限に抑えているという印象です。

じつは筆者は9月中旬にスズキの軽自動車(エブリイバン)を注文したのですが、10月初旬にはナンバーがつきました。感覚的には、通常のペースで生産されているという印象です。これは、ひとつのケースでしかありませんが、スズキの軽自動車製造ラインはコロナ禍によるネガティブな影響を他社よりも抑えているのかもしれません。

●軽自動車はハイトワゴン主役になる?

WAGON-R-FZ
カスタム系スタイリングについてはスティングレーとFZ(写真)の2タイプを用意する

とはいえ、10月単月でワゴンRが人気ナンバーワンになったからといって、軽自動車のトレンドがスーパーハイトワゴン(N-BOX、スペーシアなど)からハイトワゴン(ワゴンR、デイズなど)に変わると考えてしまうのは早計です。

10月の販売ランキングを見ても、やはりスーパーハイトワゴンが人気ですし、ハスラーやタフトといったSUVテイストのモデルも支持を増やしています。

とはいえ、スライドドアのスマイルを追加したことでワゴンRの人気が高まっているのも事実で、今回の勢いを駆って、ワゴンRがふたたび軽自動車セールスのトップ争いをするようになるのか注目です。なにしろ、ワゴンRの価格は廉価グレードでは110万円を切るほどで、コロナ禍によって経済的にも厳しくなっている社会情勢からすると、売れていってもおかしくないからです。

はたして、軽自動車のトレンドはどうなるのでしょうか。ワゴンRのトップ奪還が一時的なものなのか、この事実をもってトレンドを変えていくのか、大いに注目です。

自動車コラムニスト・山本晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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