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■高回転まで使って速く走る時代はとうに終わっている。
2021年シーズンをもって、ホンダとしてのF1活動(パワーユニット供給)は休止することはすでに発表されています。つまり、ホンダパワーのF1マシンが走るのは、あとわずかというわけです。
そんなタイミングで、ホンダのF1プロジェクト LPL(ラージプロジェクトリーダー)であり、 本田技術研究所 HRD Sakuraセンター長でもある浅木泰昭氏がホンダのF1パワーユニットの秘密について語るという貴重なオンライン取材が開催されました。
浅木氏といえば、最近ではN-BOXの生みの親として知られ、その実績から商品開発における日本担当役員を務めていた人物です。2018年からはホンダF1活動の本拠であるHRD Sakuraのセンター長をつとめています。そして、F1プロジェクトのLPLとして躍進を遂げた人物としても知られているでしょう。
じつは浅木氏は1982年にF1開発に携わっていたことがあります。いわゆるF1第二期の礎を築いた一人であり、レースで勝利した経験を、量産の世界に持ち込み、ふたたび成功した人物でもあるのです。
以前、N-BOXのヒットについてインタビューした際に「レギュレーションの中で勝負するときのポイントはF1で学びましたから」といった旨の話をされていたことは、いまも記憶に残ります。
●現在のF1パワーユニットはV6エンジンのハイブリッド
あらためて、現在のF1パワーユニットについてレギュレーションを説明すると、エンジンは排気量1.6LのV型6気筒エンジンで、バンク角90度と定められています。燃料供給は直噴式で、最大噴射圧は500Barとなっています。レース中に使える燃料は最大110kg、最高回転数は1万5000rpmという規定もあります。
ご存知のように、現在のF1パワーユニットはハイブリッドです。モーターはMGU-K(運動エネルギー回生)とMGU-H(熱エネルギー回生)の2種類が搭載されていて、ES(エナジーストア)と呼ばれるバッテリーについては最大電圧1000W、20~25kgの重量と規定されています。
こうしたレギュレーションから言えることは、現在のF1においてはハイブリッドであることを活かした、トータルでの効率が勝負をわけるということです。
若き日の浅木氏が関わっていた時代(ホンダF1第二期)には燃料は無制限だったので、NAエンジンであれば高回転化、ターボエンジンであれば高過給化することが勝利の方程式といえる状況でした。
しかし、前述したように今のレギュレーションでは燃料は制限されています。エンジン開発のポイントとなるのは熱効率の向上です。そのために生まれた技術が「高速燃焼」というものでした。
●ホンダ躍進の立役者は「高速燃焼」という新しいテクノロジーだった
燃焼室の中心から火炎を広げるのではなく、燃焼室の周縁からも同様に燃焼を広げていくという、ある意味で暴走しているエンジンを制御するような技術を確立するこで、高効率の燃焼が可能になり、F1での勝負権を得ることができたといいます。
そのほか、ターボチャージャーについてはホンダジェットの開発チームによるシミュレーションが功を奏したといいますし、高速燃焼においてノッキング(異常燃焼)を起こさない専用燃料の開発では、バイオ燃料などを研究しているチームの知見が役立ったといいます。ホンダのF1活動はHRD Sakuraだけが進めたのではなく、オールホンダの力を結集して成立していたというわけです。
さらに、2021年シーズン後半から採用されたバッテリーの進化も、パフォーマンスには大きく影響したということです。
●じつはF1用バッテリーはホンダ内製となっている
ホンダ内製のF1用バッテリーは、電極内にカーボンナノチューブを適用した低抵抗で小型なバッテリーだということです。とくにカーボンナノチューブを利用する部分については、量産への展開も考え、しっかり特許を出願しているといいます。ゼロエミッションが求められる量産車に、F1からのフィードバックで生まれたバッテリーが搭載される日は来るのでしょうか。
浅木氏は「F1のバッテリーは出力密度が求められる一方で、電気自動車はエネルギー密度が求められるという風に特性が真逆なので、電気自動車にそのまま活用するのは難しいかもしれませんが、ハイブリッドパワートレインで空を飛ぶ新モビリティ『eVTOL』には活用できそうです」とバッテリー技術の未来も見据えて話してくれました。
それはともかく、第16戦終了時でホンダパワーユニットを積むレッドブルは、コンストラクター部門のランキングで2位となっています。ドライバー部門ではレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手がトップですが、はたしてホンダは有終の美を飾るべくダブルタイトルを獲得できるのかどうか。
シーズン最後の第22戦アブダビグランプリまで、ホンダパワーユニットの活躍に注目です。
※初出時、レギュレーションに関する表記に間違いがありましたので修正しました(2021年10月25日)
(山本 晋也)