もうハンバーガー味ではない!キャデラック初のコンパクトSUV「XT4」は上級感にあふれる料亭の味のよう

■ボディサイズを感じさせないデザインと軽快なドライブフィール

●キャデラック初のコンパクトSUV「XT4」

キャデラックは1902年にデトロイト・オートモビル・カンパニーが改名して誕生した自動車メーカーで、その後1909年にゼネラルモーターズに合流。キャデラックはゼネラルモーターズのフラッグシップブランドとしての道を歩むことになります。

当然のように当初のキャデラックはセダンを製造、第二次世界大戦後にはクーペやロードスターも登場します。しかし、フラッグシップブランドということもありSUVの投入は遅れます。

キャデラック初のSUVであるエスカレードは1999年に登場しますが、このモデルは不評に終わります。しかし2002年に登場した2代目エスカレードはキャデラックらしいSUVということで大成功、キャデラックの面目躍如となりました。

以後、SRX(のちのXT5)、XT6などを投入。今回試乗したXT4は2021年に導入されたキャデラックブランド初のコンパクトSUVです。

XT4フロントスタイル
フロントエッジを強調するデイタイムランニングライトが特徴的なフロントスタイル

ボディサイズは全長×全幅×全高が4605mm×1875mm×1625mmとキャデラックとしてはかなりコンパクトといっていいでしょう。全幅の1875mmはボルボのXC40と同じ、XC40に比べると全長は200mm弱長いのですが、RAV4と同レベルです。

搭載されるエンジンは2リットル直4ターボで最高出力は230馬力・最大トルクは350Nm。駆動方式はフルタイム4WD、ミッションは9速ATが組み合わされます。

グレード展開はベーシックモデルとなるプレミアム、上級のプラチナム、スポーティタイプのスポーツの3種となります。試乗車両はベーシックモデルのプレミアムで、価格は570万円です。

XT4エンジン
キャデラックのエンブレムが装着される直列4気筒エンジン。タワーバーはトップではなくサイド部分に装着される。このほうが横剛性はアップしそうだ
XT4リヤスタイル
リヤコンビランプは縦型。横置き4気筒エンジンながら、2本出しエキゾーストとなっている

国産車と比べるとそれなりに大きなボディですが、その大きさをさほど気にすることなく乗ることができます。視線も高くしっかりと周囲を見回せること、ボディがフラットな面で構成され見切りがいいことなどが手伝って、扱いにくさはほとんど感じません。

試乗車が保管されていたのは都内の地下駐車場で、おそらく高度成長期の設計なのでしょう、料金所付近などはかなり狭く、さすがにこうした場所では気を使いますが、道路に出てしまえば大丈夫! という感じでした。残念なのは左ハンドルしか用意されないことです。

XT4インパネ
ステアリングは革巻きが標準。ステアリングヒーターも装備される
XT4フロントシート
ドライバーズシートはレザーで、8ウェイのパワーアジャスト付きでグレード差はなし。助手席はプレミアムが6ウェイ、ほかのグレードが8ウェイとなる

2リットルターボエンジンは軽快な吹け上がりを見せるタイプ。車重が1760kgもあるのに、加速もハンドリングも軽快。

アメリカ車というとゆったりとした乗り心地…という先入観があるかもしれませんが、最近のキャデラックはどのモデルに乗ってもヨーロッパ車のような乗り心地を持っています。

とくに気持ちがいいのがハーフスロットルくらいで、ちょっと強めの加速をしたとき。9速のATが間断なくシフトアップしていく様子は、かつてのアメリカ車からはまったく想像できないスムーズさです。

XT4リヤシート
フォールディング性能も考慮されるリヤシートは平板なデザイン

そして、静粛性の高さと乗り心地のよさはさすがキャデラックです。長い距離ではありませんが首都高速を走ったところでは、路面の継ぎ目を乗り越えるときのいなし方や、風切り音を含む各種のノイズも上手に除去されています。

単純にすべてのノイズや振動を取り除くのではなく、ドライバーが必要としている情報はきちんと伝え、それでいて不快感を与えないように仕上げるという作り込みは、さすがとしかいいようがありません。

XT4ラゲッジルーム
リヤシートは6対4分割でフォールディング可能。定員乗車時で637リットル、フルラゲッジで1385リットルの容量が確保される

それを象徴するのが、セーフティアラートドライバーシートと呼ばれる機構。この機構は車線を外れそうになったときなどの警告を、シートの振動によって知らせるというもの。乗員全員に警告を知らせるアラームのような無粋な方法でないのはもちろん、ステアリング振動では不可能な、左右どちらかの振動、もしくは左右同時の振動という3つパターンを持たせることで、情報の量を多く、質を上質にしています。

600万円前後のモデルは庶民にとっては手が届きにくい高級車の部類に入ります。とはいえ、そのラインアップはかなり多彩です。キャデラックXT4はそうしたなかでも、かなり価値のあるモデルという印象。

料理に例えると、下ごしらえから、出汁の取り方、そして食器類のしつらえ、提供の作法までが一環して上質である料亭で供される料理のような印象です。

XT4イメージ
車両はスポーツグレード。スポーツは桜の花びらのような5スポークホイールが採用される。

(文・写真:諸星 陽一

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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