この夏登場のモビリティ「グラフィット・GFR-02」は、モビチェンを装着すると車両区分が変化できる!

■「車両区分を変化させることができるモビリティ」とは?

警察庁交通部は6月28日、「車両区分を変化させることができるモビリティ」について都道府県警察に対して通達を出しました。

シャッターを完全に引き上げると自転車モードに(撮影 中島みなみ)

ペダル付原付バイクについて一定の要件を満たす装置を取り付けた車両の中で、特に「EVモード」と「人力モード」が切り替えられるタイプについて、警察庁が把握している製品を例にあげて、それぞれ「50cc原付バイク」と「自転車」として取り扱うことができる装置を写真で掲載して周知。「遺憾(期待したようにならずに残念なこと)のないようにされたい」と記しました。

都道府県警察に向けた警察庁の「車両区分を変化させることができるモビリティ」通達

これを受けて、事例に掲げられたグラフィット(=glafit/本社・和歌山市)は7月2日、会見を開き、ハイブリッドバイクGFRシリーズで、モビチェン(モビリティ・カテゴリーチェンジャー)を搭載したモデルが「車両区分を変化させることができるモビリティ」の日本初の車体となることを発表しました。

●価格は手頃に、GFR-02のオプションとして秋発売

追い風の中、グラフィットは、どのように車両区分を変えることができるモビリティを拡大させていこうとしているのでしょうか。

EVモードのモビチェン。シャッター機構は下から上にナンバーを隠す(撮影 中島みなみ)

日本で最初に車両モードが切り替えられるのは、ハイブリッドバイクの「GFR-02」です。モビチェンを購入し、車両に後付けすることで可能になります。

鳴海氏はモビチェンの販売について、「当初夏頃と言っていたが、少し遅れて秋。ここで発表したものを製品版として量産の準備をしている。秋までにはお届けできる。価格はオプションとして多くの人が選んでいただける価格帯を発売までにはモビチェンページでご案内する」と、話します。

さらに、搭載車の今後の展開については、「GFR-02のオプションとしてモビチェンは発売するため、簡単に取り付けられるが、GFR-01には取付部品が必要なので開発している」と、拡大する予定です。

また、モビチェンの装備は完全に独占せず、ライセンス契約もスタート。将来的にはモビチェンが複数社で生産されるような状況があると言います。

●車両区分を変えることができれば、道路インフラが不十分でも安心して走行できる

続々と登場する新しいモビリティの中でも、グラフィットがハイブリッドバイクで求めた「車両区分を変化させることができるモビリティ」の構想は、国内モビリティの歴史を変える革新的なものです。

ペダル付バイクは、電欠でモーターが回らない状態でも、バイクとしての交通ルールに従う必要がありました。同社が発売したGFR-01と同種のバイクに乗るユーザーの中でも、その不便さを訴える人はいたのですが、鳴海禎造社長は、もっと大きな必要性を感じていました。

和歌山市内の道でペダル付原付の安全を考えて自転車と同じレーンを走ることができないかと考えた(撮影 中島みなみ)

「国内はまだまだ道路環境が小型のモビリティが安心して走れる状況にない。地元和歌山市内でも、交通量の多い幹線道路は自動車と側端に挟まれて走るしかなく、せっかく自転車が通行できる歩道ができても、機能としてはほぼ自転車とかわらない状態でも走ることができない。そこで、自転車とバイク、まさにハイブリッドで運用させてもらうことができないかと考えた」

地方の幹線道路は道路幅が広くても、橋梁部分になると道幅が狭まり、スピードを出せない小型モビリティに覆いかぶさるように自動車が追い越していく光景がよく見られます。GFR-01のユーザーから寄せられた声をヒントに、鳴海社長は原付バイクでも自転車のように通行することができれば、この不安は消すことができると取り組み始めました。

モビチェンを搭載したGFR-02であれば、道幅が狭くなる橋の手前で停車し自転車モードに変更。橋の上では自転車走行のできる歩道を通行することできます。ラッシュ時に車両が動かなくなる道路でも渋滞に巻き込まれることなく、自転車通行レーンに変更することができます。

●足掛け4年、和歌山市や規制改革を推進する内閣官房と共に

EVバイクと自転車の2つのモードが1台で切り替えられる。道路交通法を変えるべきだ、という意見を表明する人はいましたが、車両のモードを切り替えるという発想は、誰にもありませんでした。

鳴海社長がひらめいた2018年当時、内閣官房では政府の成長戦略として規制改革を効果的に推進するサンドボックス制度が始まろうとしていました。車両区分の変更を可能にするためには、交通ルールを決める警察庁、車両の仕様を定める国土交通省など複数の省庁を相手にした折衝が必要になります。鳴海氏は内閣官房の担当者との最初の会話をこう振り返りました。

「行政のやりとりは一筋縄でいかない。相談しても響いていないような返事がくる。だからといって腐らないでほしい。思いを持って必要な改革を訴えていれば、即答はないが、担当者には響いている。粘り強く議論を重ねていって、めげることなくやっていきましょうと、おっしゃっていただいた。その言葉を信じて成果が出てよかった」。

和歌山市・尾花正啓市長(撮影 中島みなみ)

同社の地元・和歌山市の後押しもありました。市民の移動について危機感を抱いていた尾花正啓市長も、車両区分を変えることができるモビリティが、地方の交通に役立つと話します。

「2つのモードが一つの車両で利用できるということは大きなこと。今まで走れなかった空間が走れるようになる。駐車問題も自転車モードであれば公共施設にも自転車置き場に駐車できる。極限のシームレス、大きなモビリティの改革につながっていく。パーソナルモビリティにもつながる。革命としてこれからの社会を支えていただければと思っている」。

期待を背に鳴海社長は「小型電動の国内市場は2030年までに100万台程度に成長すると考えている」と、新しいモビリティの普及に力を入れています。

(文・写真:中島 みなみ)