■GベクタリングコントロールプラスはACC時が快適
MX-30は2019年9月の第46回東京モーターショーでワールドプレミアされた際、マツダ初のEVということでのお披露目でした。
しかし、翌年10月に発売されたMX-30はマイルドハイブリッドモデル。その際に聞いた話では次にEVを投入、さらにロータリーエンジンをレンジエクステンダーに使ったモデルを追加……とのこと。ずいぶん出し惜しみするのだなあと思ったものです。
その宣言どおり、最初に試乗できたのはマイルドハイブリッドシステムで、そのほかのモデルは”おあずけ”でした。そしてやっとEVに乗ることができたのが2021年になってからのことでした。
マツダは、ガソリンエンジンはSKYACTIV-G、ディーゼルエンジンはSKYACTIV-Dといったように、新世代のシステムにSKYACTIVの名を使っています。
MX-30EVのシステムは「e-SKYACTIV」となります。107kW/270Nmのモーターをフロントセクションに搭載、フロントタイヤを駆動します。
リチウムイオンバッテリーの容量は35.5kWhで、フロア下に配置されます。カタログ上の一充電走行距離はWLTCで256km、JC08で281kmとなっています。
じつはバッテリー容量はホンダeと同一の数値となります。走行距離もホンダeのパワフルなほうのモデルアドバンスがWLTCで259km、JC08が274kmでほぼ似た数値です。
車重を見るとMX-30が1650kg、ホンダeアドバンスが1540kgで110kgの差があるので、ホンダeのほうが優位に感じるかもしれませんが、ホンダeのモータースペックは154kW/354Nmと高いものです。
限られたバッテリー容量をどこに振り分けるか? それはクルマごとのコンセプトによって異なることがよくわかります。とはいえ、MX-30の航続距離は決して長いものとはいえません。
この数値に対してマツダは、製造から廃棄までのライフサイクルを考えたときの二酸化炭素排出量を減らせ、実用性にも無理のない容量を選んだとアナウンスしています。
さて、乗り味です。ブレーキペダルをゆるめるとクルマがスルスルッと前に動き出します。
エンジン車では当たり前のクリープ現象ですが一部のEVではクリープ現象を排除しています。その目的は発進から停車までをアクセルペダルのみで行える「ワンペダル」でのドライブを得るためですが、ゆっくりとクルマを動かしたい駐車時の操作や坂道発進ではクリープ現象があったほうが便利です。
道路や駐車場が狭い、一時停止が多い、坂道が多い環境の日本ではクリープ現象はあったほうが便利なのです。かつてCVTが普及し始めたころ「CVTはクリープ現象が無くて安心」というようなアピールがされたのですが、多くのユーザーはクリープ現象があったほうが便利という結論を出し、現在のCVTにはトルクコンバーターが組み合わされてクリープ現象を発生させています。
日産も新型ノートではワンペダルドライブを廃止していて、今後ワンペダルを取るか? クリープを取るか?はますます議論になると思われます。
発進後の加速フィーリングは、なんだかエンジン車に乗っているような感覚です。スバルの水平対向6気筒に乗ったときとか、トヨタのV12セドリックに乗ったときなどに感じた「上質なエンジン」を思わせるフィーリングです。
モーターだからモーターっぽく…これもひとつの選択でしょうが、モーターでもエンジンっぽく…もひとつの選択ですし、それがマツダらしいのです。
MX-30EVは加速時に人工的な加速音をスピーカーから発するようになっています。エンジンの音を模すわけでもなく、モーターの音を強調するのでもない。
私のようにエンジンで育った世代にはとても心地よく、この音をたよりに加速の感覚や速度を読み取れますが、もしかしたらこれからのEVしか乗らないような世代には無用の長物かもしれません。残念ながらオフはできない設定なのですが、これはオフできてもかまわないものでしょう。
MX-30EVのステアリングにはパドルスイッチが装備されています。
中立状態から左のパドルを引くと回生ブレーキが強く効きます。2回引くとさらに回生ブレーキが強くなるといった具合です。MTやATでシフトダウンをして速度を落とすような感じです。
私は平坦路でのMTやATでのシフトダウンによる減速はおすすめしません。下り坂はブレーキの負担を減らすためにシフトダウンは必要ですが、平坦路で速度を落とすならブレーキを踏めばよく、なにもミッションやエンジンに負担をかけて減速する必要はありません。
しかしEVの場合は、単なる減速ではなくエネルギー回収もできるので話は別です。
積極的に回生ブレーキを使ってエネルギーを回収するべきです。MX-30EVのおもしろいところは、右パドルを引いたときです。減速中に右パドルを引くと回生量が減ります。2回引くと惰性走行のコースティングモードとなります。
後続車がいないときに前方の信号が赤くなったときなどはコースティングモードを使って、電気エネルギーを温存できるというわけです。
さらにアクセルペダル(※マツダではMX-30EVからアクセルペダルのことをモーターペダルと呼ぶようになったが、加速のためのペダルはやはりアクセルペダルが正しい表記だと私は思う)が一定の際に右パドルを引くとグッと加速を増します。このギミックはなかなかおもしろいもので、クルマを操作する楽しさを残していると感じる部分です。
もともとしっとりして好感度が高かったMX-30の乗り心地は、さらにアップしています。
その大きな理由は、バッテリーをフロア下に配置したことによる重心のダウンです。というよりも、もともとMX-30はEVとして設計されていて、この位置にバッテリーが配置されるのが前提。正しい位置にバッテリーがきたことで、全体的なバランスが整ったということでしょう。
ステアリング操作に対するクルマの動きが正確で、どこを走っていてもすんなりと素直なハンドリングで、気持ちよく走ることができます。
例によってMX-30EVにもGベクタリングコントロールプラスが装着されます。
Gベクタリングコントロールプラスは、コーナリングの際などにモーターの出力を調整して前後の荷重配分を最適化するとともに、4輪のブレーキを独立制御してコーナリングに安定感を持たせるものです。
ちょっと運転に慣れているドライバーなら、コーナーの手前でアクセルペダルを軽く戻してクルマを安定させることがあると思いますが、それをクルマが自動的に、さらに4輪独立ブレーキも使って制御してくれると考えればいいでしょう。
ですので、ワインディングなどを走っているときはドライバーが自然に調整してしまうので、あまり恩恵は受けません(もちろん漫然と運転しているドライバーは恩恵を受けます)。
Gベクタリングコントロールプラスがもっとも活かされるのはACC&レーンキープで走行している際です。通常だと速度を一定でレーンをキープするだけですが、Gベクタリングコントロールプラスがあることで、コーナーをより安定感のある姿勢でクリアしていくのでじつに快適なのです。
高速道路のACC&レーンキープ走行ではかなりその威力を発揮します。
フリースタイルドアという名前の観音開きドアのおかげで、リヤシートへの乗り込みはかなり楽々と行えます。しかし、この観音開きにはひとつ大きな問題があり、そしてそれが利点でもあります。
リヤドアを開けるためにはフロントドアを開けなくてはならないのです。万が一の事故などの際に2アクションでないとドアが開かないのは脱出がしにくいですし、後席乗員が自分でドアを開けて脱出するのが難しくなっています。
また、外部から助けようとした場合に、まずフロントドアを開けて……ということがわかるかといえば、それは難しいでしょう。
ただし、子どもを乗せるときなどはかならず大人がサポートしなければならないので、いわば強制的にチャイルドドアロックをかけたような状態となります。
少々面倒ですが、子どもの乗降時にサポートする必要があるというのは、非常時以外はつねに安全性が保たれることにもなります。一般的な4ドア車でもチャイルドロックがかかっていれば、リヤドアは内側からは開けられないので内側からでは同条件となりますが、外側からリヤドアを開けようとした際にはスムーズに行えるほうがいいと思います。
(文・写真:諸星 陽一)