■ゼロ加速はS660を上回るというホットハッチでも街乗りスペシャル的な作り込み
ホンダの軽自動車「N」シリーズにおいてN360からつづくホンダ軽自動車のヘリテージを受け継いでいるのがN-ONEです。
2020年11月のフルモデルチェンジでは、まさしくヘリテージを体現するアピアランスは基本そのままに、プラットフォームやパワートレインといったメカニズムは最新世代に刷新するという、前代未聞の進化を果たしたことでも話題となっています。
その新型N-ONEに新設されたRSグレードには、軽自動車として初めて「6速MTとターボエンジンを搭載するFF車」となりました。「本格的な走る楽しさ」を追求したというN-ONE RS 6速MT車に市街地で試乗する機会を得ることができました。
同じターボエンジンを積むグレードとしてPremium Tourerというグレードもありますが、遮音性能の違いなのかRSはよりエンジンサウンドがキャビンに入ってきます。またCVTとの組み合わせではダウンサイジングターボ的にラグのないブースト感がありました。
それはそれで悪くはないのですが、アクセルワークによって変速比とエンジン回転とブーストが同時並行的に変化するためターボらしさは希薄になっていました。
しかし、6速MTではアクセル操作に応じてダイレクトにターボチャージャーが回っているといった感覚になっています。Premium TourerもRSも、スペック的には同じターボエンジンなのですが、6速MTで操ることによってスポーツエンジン的なキャラクターが表現されているのです。
さらにRSグレードにおいては、メーター内のインフォメーションディスプレイにブースト計を表示させることができますから、そうしたターボの働き具合を可視化することができ、ターボエンジンを所有しているという満足度も高まります。
日々触れる操作系でいえば、ディンプル加工が施された専用の本革ステアリングホイールや、S2000譲りというデザインのシフトノブもスポーツ感覚を盛り上げます。
ただし、エンジンのキャラクターとしては高回転まで回して楽しむタイプではないようです。もちろんマニュアルトランスミッションなので、7000rpmのレッドゾーンぎりぎりまで回すこともできるのですが、エンジンの素性的には比較的はやめのシフトアップで適度に負荷をかけたほうがトルクを感じやすいタイプとなっています。
というのも、新型N-ONEはFFの全高が1545mmと軽自動車の中では低めの部類なのですが、プラットフォームの関係なのか車重がライバル他車よりも重い840kgとなっているため、ゼロ発進の加速やキビキビ感を味わうよりも、もう少し落ち着いた乗り方をするほうが似合うと感じるからです。
タイヤについても試乗車に装着されていたのはダンロップ・エナセーブEC300というエコ系の銘柄で、たとえばS660がアドバン・ネオバを履いているのと比べると対照的です。ゴリゴリのホットハッチではなく、あくまで街乗りメインで、日常のなかでスポーツスピリッツが味わえるモデルといったキャラクターに仕上げられているようです。
ちなみに市街地での0-60km/h加速では、タイヤサイズが小さくローギアードなためS660より鋭く加速するということです。
こうしたキャラクターですから、乗り心地にコツコツ感は皆無で、スポーツカーを我慢して日常使いするという感覚はありません。エンジンの粘りもあるので多少は横着なシフト操作も許容してくれます。ストレスなく、ホットハッチを操る楽しみを味わえるのがN-ONE RSというわけです。
そうしたファン・トゥ・ドライブの大きなファクターとなっているのが、新設定された6速MTであることは間違いありません。ステアリングのすぐ横にレバーがある、インパネシフトはコクコクっと気持ちよくシフトチェンジできます。先ほどはやめのシフトアップがマッチするターボエンジンという話もしましたが、信号ダッシュから60km/hまでの間に6速までシフトアップしたくなるような気持ちよいマニュアルトランスミッションになっています。
RSグレードのメーカー希望小売価格は199万9800円とけっして安い軽自動車ではありませんが、日常的に楽しめるコンプライアンス系スポーツカーという新ジャンルと考えれば、その価値は十分にあるといえるのかもしれません。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)