排気系の概説:排気効率を向上させ同時に排気騒音と有害ガスを低減【バイク用語辞典:排気系編】

■排気の脈動を利用した吸出し効果で燃焼ガスの抜けを良くして排気効率を向上

●最新の排ガス規制に適合するためには、三元触媒を使った空燃比制御が不可欠

バイクの排気系は、燃焼ガスをスムーズに排出して排気効率を向上する、排気音を低減する、有害な排ガスを低減するという3つの重要な役目を担っています。排気音と排ガスについては法規で規定され、充填効率の向上はバイクの性能に大きく影響します。

3つの役割を果たす排気系システムの技術について、概説していきます。

●4ストロークエンジンのマフラーシステム

自動車では、マフラーとは円筒形や枕型の容積を持つ消音器を指しますが、バイクの場合は通常排気管を含めた排気系システム全体を指し、消音器はサイレンサーと呼びます。

4ストロークの排気系
4ストロークの排気系

バイクの主流である4ストロークエンジンのマフラーは、排気管やサイレンサーなどのレイアウトを最適化することによって、排気音の消音と排気脈動を利用した充填効率の向上を図っています。

多気筒エンジンの排気管は、1本にまとめて排気させる集合マフラーが採用されています。

集合マフラーにすることによって、排気系全体を軽量コンパクトにできます。さらに、排気管を集合させて各気筒の脈動効果を利用して、燃焼ガスの吸出し効果を促進します。

消音効果は、圧力損失が大きいほど効果が大きいので、エンジンの出力は低下傾向にあります。そのため排気系には、相反する消音効果と圧力損失低減(出力低下の抑制)を両立させる工夫が求められています。

●2ストロークエンジンのマフラーシステム

2ストロークエンジンのバイクは、1998年に始まった排ガス規制に対応できなかったため、現在は国内向けモデルの生産は行われていません。

排ガス規制に対応できないのは、2ストロークには吸排気弁がなく、混合気で燃焼ガスを排出する掃気行程があるため、混合気の排気管への吹き抜けが発生するためです。

2ストロークの排気系
2ストロークの排気系

通常2ストロークエンジンのマフラーは、エキスパンションチャンバーとサイレンサーから成ります。

中間部が膨らんだ形状のエキスパンションチャンバーの容積変化によって、チャンバー内に高圧部と低圧部の圧力差を発生させます。

この排気脈動による圧力差と排気ポートの開閉タイミングの最適化によって、混合気の吹き抜けを抑制しながら燃焼ガスの排出を促進します。

●三元触媒による排ガス低減

1998年に初めてバイクの排ガス規制が施行され、2006年にはさらに規制値が強化されました。その結果、国内のバイクからキャブレター仕様や空冷エンジン、そして2ストロークエンジンがほぼ消え去りました。そのため、バイクでも自動車が採用している三元触媒と空燃比フィードバック制御による排ガス低減技術を採用し始めました。

三元触媒の浄化システム
三元触媒の浄化システム

三元触媒は、空燃比を理論空燃比(14.7)に設定することで有害成分COとHC、NOxを同時に浄化できる触媒です。そのためには、運転条件が変化しても常に理論空燃比14.7になるように制御しなければいけません。そのための手法として、空燃比フィードバック制御が採用されています。

フィードバック制御で必要な空燃比の計測は、排気管に装着した酸素(O2)センサーで行います。酸素センサーは、排ガス中の酸素濃度を計測するセンサーで理論空燃比を境に出力が急変します。この出力変化を利用して、空燃比が理論空燃比に対してリッチ(濃い)か、リーン(薄い)かを判定し、燃料噴射量を増減して空燃比を微調整します。

●その他の排ガス低減システム

また低コストの2次空気供給装置も、排ガス低減のため一部モデルで採用されています。

2次空気供給装置は、エアクリーナーから新鮮な空気を排気ポートに供給して、燃焼しきれなかった未燃HCやCOを再燃焼するシステムです。主として低速低負荷領域のHCとCOの排ガス低減技術として、触媒技術と組み合わせて採用します。


本章では、出力向上と排気音低減、排ガス低減に重要な役割を担っている排気系について、詳細に解説します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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