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■車両姿勢制御装置があればスタッドレスタイヤや4WDは要らないの?
現在、新車販売される車には、タイヤが滑った際にドライバーの操作よりも的確に制御してくれる、高度な車両姿勢制御装置が標準装備されています。
それなら「雪道でもスタッドレスタイヤや4WDは必要ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、残念ながらそうとは言えないようです。
その理由を知るためには、各機能の仕組みや動作条件に目を向ける必要があります。ABSや横滑り防止装置などの車両姿勢制御装置について調べてみました。
●ブレーキロックを防ぐ「ABS」とは
ブレーキペダルを強く踏むと、ガガガッという作動音とともにペダルが振動します。これがABSが効いている状態です。
車のブレーキはタイヤの回転数を抑えて減速させる装置ですが、滑りやすい路面ではブレーキを強く効かせすぎると、タイヤの回転が停止して滑り出してしまう「ブレーキロック」を起こしてしまいます。
一度ブレーキロックが起こると、再びタイヤが路面に食いつくまでに時間がかかるため、制動距離が伸びてしまいます。加えて、前輪がロックするとハンドルによる緊急回避ができなくなり、後輪がロックすると車の向きが勝手に変わってしまうこともあります。
ABSは「アンチロック・ブレーキ・システム」の略称で、このブレーキロックを防止するための装置です。特に、電子制御制動力配分システム(EBD)が備わる近年のABSは、4輪それぞれのブレーキの強さを自動でコントロールして、ブレーキ中でも直進状態を保つように制御されます。
●横滑り防止装置「ESC」&トラクションコントロール「TCS」とは
横滑り防止装置とは、その名の通りスリップを起こした際に、自動で車を直進状態に戻してくれる装置です。
横滑り防止装置が作動すると、ブザー音とともにメーターに作動マークが点滅し、滑ったタイヤやハンドルの向き、速度などに応じてエンジン出力抑制と各輪のブレーキを適切に制御することで、スリップ状態から復帰してくれます。
横滑り防止装置搭載車の多くはタイヤの空転防止装置(トラクションコントロール)も一体になっており、滑りやすい路面での発進時やアクセルの踏みすぎなどで、加速時にタイヤが空転を起こした場合にもエンジン出力やブレーキを制御して空転を抑えてくれます。
横滑り防止装置の名称はVSCやESPなどメーカーによって異なりますが、現在はESC(エレクトリック・スタビリティ・コントロール)に統一されつつあります。トラクションコントロールはTCSの略称で呼ばれることもあります。
●横滑り防止装置とABSの違い
ABSと横滑り防止装置およびトラクションコントロールの大きな違いは、動作条件です。トラクションコントロールはアクセル操作時に働き、ABSはブレーキ操作時に働きます。横滑り防止装置は走行中なら常に働くようになっています。
古い車ではそれぞれの機能が独立していますが、現在は統合制御が主流になっていて、加速しながら曲がるカーブや、減速しながら曲がるようなシーンでも、滑り方に応じて適切な制御を行ってくれます。
もう一つ大きな違いを挙げるとすれば、動作スイッチの有無といえるでしょう。
ABSは原則オフにはできませんが、横滑り防止装置およびトラクションコントロールはエンジン始動後は自動でオンの状態になり、スイッチでオフにできるようになっています。
機能をオフにできる理由は、雪道などで動けなくなってしまうスタックから脱出する際には、横滑り防止装置やトラクションコントロールによるエンジン出力抑制が脱出の妨げになってしまうからです。
●車両姿勢制御装置のメリットとデメリット
横滑り防止装置などの車両姿勢制御装置は、雪道を含む多くのシーンでドライバーの操作以上に素早く正確に車両の立て直しを図ってくれます。ですが、いずれの装置も万能とは言えません。
アイスバーンのような極端に滑りやすい路面では、ABSが作動することで制動距離がかえって伸びてしまうケースがあります。
また、トラクションコントロールが備わっているからといって4WDのようにスタックから簡単に脱出できるわけではありませんし、どれだけ高度な制御を行う横滑り防止装置であっても、装着しているタイヤ以上の性能は発揮できません。
これら車両姿勢制御装置は車を滑らないようにする装置ではなく、あくまでシステムが滑ったのを検知してから復帰させる装置です。制御技術の進歩により機能はどんどん高性能化していますが、それでもスタッドレスタイヤや4WDの代わりにはならないようです。
ABSや横滑り防止装置は滑りやすい路面での補助装置というよりも、事故防止のための緊急安全装置に近いものといえるでしょう。