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■不正を隠したことでブランドイメージはガタ落ち
2023年5月、日本国内向けモデルであるトヨタ・ライズ/ダイハツ・ロッキーのハイブリッド車において、衝突試験における不正が明らかになりました。
型式指定を申請するための認証業務において不正を実施していたのは、両モデルの開発・生産を担当しているダイハツ工業(以下ダイハツ)で、そこから第三者委員会による調査が始まりました。
その報告書が発表されたのは、年の瀬も押し迫った2023年12月20日。内容としては、64車種において174個の不正が確認できたというものでした。国内向け車種についていえば、生産終了モデルを含め46車種142件の不正があったという、「自動車認証制度の根幹を揺るがす」とんでもない内容でした。
この報告を受け、型式指定に関わる監督官庁である国土交通省は、翌12月21日から2024年1月9日まで立入検査を実施しています。年末年始をまたいでいることから、この期間みっちりと立入検査をしたわけではないでしょうが、それでも国土交通省によって”新たに14件”の不正が発覚したというのですから驚きます。
結果として、国内向けモデルだけに限っても、ダイハツの報告と国土交通省の検査検査を合計すると、46車種156件の不正があったということになります。
●悪質な不正は型式指定の取消処分となる見込み
30年以上前から不正を繰り返してきたという第三者委員会による発表も衝撃的でしたが、国土交通省の立入検査でさらなる不正が見つかるというのは、「とんでもない」という印象を受けます。
意図的でないとしてもダイハツが、この期に及んで不正をまだ隠していたと、悪意が感じられるからです。
少なくとも実際の事情を知るすべがなく、報道ベースでダイハツの不正についての情報を得ている一般ユーザーにとって、ダイハツのブランドイメージはガタ落ちとなったことでしょう。
そして、立入検査により新たな不正を確認した国土交通省は、とくに悪質と思われる不正が行われていた3車種について、型式指定の取消処分へ向けた手続きを開始しています。
その3車種というのはダイハツ・グランマックス/トヨタ・タウンエース/マツダ・ボンゴの各トラック型モデル。型式指定が取り消しされると、ナンバーを取得するためには一台一台持ち込み車検をする必要があります。つまり、事実上の販売停止につながる非常に重い処分です。
●ダイハツは企業としてコンパクトになってしまう?
そのほか、ダイハツ・キャスト/トヨタ・ピクシスジョイについてはリコールの必要があるようですが、国土交通省の立入検査も済んだということで、おそらくこれ以上の不正が発覚することはないでしょう。
今後は「56件の不正行為については、国土交通省において基準適合性の確認試験を速やかに行い、その結果を順次公表する」ことになります。現時点ではダイハツの工場はストップしており、国内向けモデルの出荷は止まっていますが、基準適合性が認められた車種から販売できるようになると予想されます…。というのは短期的な未来予想図ですが、元通りになるとは思えません。
国土交通省は、ダイハツに是正命令を出しています。国土交通省の発表を引用しましょう。
二度とこうした不正行為を起こさない体制への抜本的な改革を促すべく、道路運送車両法の規定に基づき、国土交通大臣から別添の是正命令を発出した。また、ダイハツ工業に対し、1ヵ月以内に再発防止策を報告し、その後四半期毎に再発防止策の実施状況を報告するよう求めた。
今回の大規模な不正からすると、担当者レベルではなく企業体質として不正が蔓延していたと考えるのが妥当です。はたして、それだけ根深い問題の再発防止となると、かなり大胆な改革が必要なのは間違いありません。
ダイハツの100%親会社であるトヨタの佐藤恒治社長は、メディアに向けた会見において『ダイハツの事業スキームを見直す』ことや『コアである軽自動車に軸足を置く』こと、国土交通省へ再発防止策を報告するタイミングで新たな経営体制にすることなどを説明しています。
具体的な施策については想像するしかない段階ですが、ダイハツが軽自動車に専念するというのは、将来的に海外事業から撤退する(トヨタが代わりになる)という意味でもあるでしょう。そうなると、経営体制についても国内担当だけとなるため、非常にコンパクトな企業に生まれ変わるのではないかと予想されます。
筆者個人としては、ダイハツが軽自動車に専念するということは、2023年秋のジャパンモビリティショーでコンセプトを発表した「登録車サイズのコペン」という商品企画は完全に消失したと理解できるので、その点については残念と思う部分もありますが、前述したように国土交通省の立入検査で新たな不正が14件も見つかったという悪質さからすると、抜本的な改革は必要でしょう。
むしろ、ダイハツというブランドに、残すだけの価値があるのかどうかも重要なテーマになるでしょう。新ブランドの立ち上げも視野に入れた議論が進むことになるかもしれません。