ダイハツの不正が示す「車は簡単に作れない」という事実【週刊クルマのミライ】

■年末に発表された174件におよぶダイハツの不正行為

2023年のジャパンモビリティショーにおいてダイハツ・ブースの注目モデルだった「VISION COPEN」。
2023年のジャパンモビリティショーにおいてダイハツ・ブースの注目モデルだった「VISION COPEN」

2023年12月20日、ダイハツ工業から衝撃的な発表がありました。

2023年4月~5月にかけて、新型車の衝突試験において不正行為があったことが明らかとなり、その追加調査が第三者委員会により実施されていましたが、その結論がとんでもない内容だったのです。

国土交通省と経済産業省に報告されたという調査結果は、型式指定における認証業務において、「新たに25の試験項目において、174個の不正行為があったことが判明」という、日本の自動車史上において最悪といえるものでした。

不正の中には、実際の基準よりも厳しい条件で試験をしたことを、あたかも基準値に収まっているように数値を書き換えるというもの、実態はオーバースペックであることを示す内容もありましたが、報告書には悪質な行為も散見されます。

たとえば、1999年に軽自動車の規格変更に合わせてフルモデルチェンジした、ハイゼットトラックの衝突”立会”試験において、リハーサル試験時のデータと差し替えて審査官に提出した、というものがあります。これは立会試験の意味を無くすものであり、審査への冒涜といえる行為。20世紀から、こうした不正が行われていたというのも根深いものを感じます。

また、衝突試験では「エアバッグのタイマー着火」という手法も頻繫に行われていたようです。衝撃センサーの信号を受け、エアバッグの展開を制御するのではなく、タイマーによってエアバッグを開くことで衝突試験の結果を得たということであり、これまた意味のない試験となっていました。筆者が報告書を見た限りでは、エアバッグのタイマー着火は複数回行われており、ある意味で常態化していた不正だったといえます。

2023年12月26日時点で、ダイハツはすべての新車生産を停止、少なくとも一ヵ月以上は再開できない状況にあるようですが、これほどの不正を「企業風土」として行っていたのであれば、市場がダイハツの退場を望んでもやむなし、といえるのではないでしょうか。

●EVであれば簡単に作れるという発言は間違っている?

2005年の東京モーターショーに展示されたコンセプトカー「HVS」。名前の由来はHybrid Vehicle Sports。
2005年の東京モーターショーに展示されたコンセプトカー「HVS」。名前の由来はHybrid Vehicle Sports

ジャパンモビリティショー2023では、ダイハツ・ブースにおいて「VISION COPEN」が注目を集めていました。FRでMT、軽自動車の枠を超えたスポーツカーとして進化するというプランは、車好きにとって大歓迎といえるコンセプトといえますが、残念ながら、コペンのような趣味性の強いモデルの商品企画は、こうした状況においてはストップするであろうと容易に想像できます。

それほど「型式指定」に関する不正は悪質といえるのです。

少なくとも、日本国内において車を量産するために「型式指定」は必須であり、その業務において、長きにわたり、これほどの件数の不正が行われていたというのは衝撃です。

そして、ダイハツのような老舗メーカーであっても、コストダウンやスケジュール厳守のためには不正に手を染めるというインセンティブが湧いたということは、型式指定を申請するハードルが高いことを示唆しています。

今でも「EVは部品点数が少ないため、スタートアップであっても量産することは簡単だ」という主張を見かけることもあります。しかしながら、120年もの歴史を持つ老舗企業でさえ、認証業務において不正を行ってしまうことを考えると、スタートアップが容易に車を量産できるという主張は、あまりに浅はかと言わざるを得ないでしょう。

●ダイハツというブランドは存続することはできるのか?

2015年の東京モーターショーではステージの主役だった「キャスト」。事故時のドアロック解除に関する保安基準不適合が疑われている。
2015年の東京モーターショーではステージの主役だった「キャスト」。事故時のドアロック解除に関する保安基準不適合が疑われている。

それはともかく、『DAIHATSU・ダイハツ』というブランドのミライはどうなっているのでしょうか。

2022年に不正が発覚した日野自動車については、型式指定の取消を受けた「プロフィア」については、再び型式指定を受け、再生産を実現するまで約1年がかかっています。今回の不正において、どのような行政処分が下されるかは予想できませんが、仮に幅広いモデルが同じように型式指定の取消処分となった場合、ダイハツおよびOEM車の販売は実質的に不可能となるでしょう。

日野の場合は、フリートユーザー向けの大型トラックゆえに、再生産も可能でしたが、一般ユーザー向けの商品において、これほどイメージダウンした製品をそのまま再生産するというのは、ブランディング的にはあり得ないからです。

ブランド価値を取り戻すには10年単位の時間が必要でしょうし、製品ラインナップを急ぎ一新することも必要となるでしょう。

むしろ、現在の生産設備を活かすのであれば、「ダイハツ」ブランドにこだわる必要はないとさえ思えます。まったく違うブランド名に生まれ変わるほうが、市場マインドとしては受け入れやすいかもしれません。

果たして、それほどの荒療治を実施できるかは疑問もありますが…。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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