自動車教習所で習う「アレ」って本当に必要? S字とクランクを学ぶ意味とは!?

■教習所のS字やクランクのような道はみたことがない!

公道でS字やクランクのような道路に遭遇することはほとんどない
公道でS字やクランクのような道路に遭遇することはほとんどない

S字とクランクは、自動車教習所の第1段階でつまづきやすい技能課題の代表といえます。しかし実際は、日常的な走行でS字とクランクのような道に出くわす機会はほぼありません。

それなのに、なぜS字とクランクは教習内容に組み込まれているのでしょうか。

警察庁交通局運転免許課の資料にはその理由がしっかりと記載されています。教習所でS字とクランクを学ぶ意味について調べてみました。

●第1段階の難関になりやすいS字とクランク教習

曲線コースとも呼ばれるS字は、その名の通りS字型の道路を通過する課題。屈曲コースとも呼ばれるクランクは、左右それぞれ直角に曲がった道路を通過する課題です。これらはまとめて狭路の通行といいます。

S字もクランクも、なんとなくハンドルを切るだけではクリアできないようになって、狭い道幅も相まって圧迫感を覚えやすく、おまけに運転に慣れきらない割と早い時点での課題になっていることもあって、通過に苦労した経験を持つ人も多いことでしょう。

しかもやっとのことでクリアしても、残酷なことに実際の道路にはS字やクランクのような道はほとんどありません。では、S字やクランクの課題は何のためにあるのでしょうか。

●なぜ使わないS字とクランクをやらなきゃいけないの?

車両感覚をつかみ、適切な進路と速度を選んで安全な通行ができるようにするため
車両感覚をつかみ、適切な進路と速度を選んで安全な通行ができるようにするため

もちろん、意味のないことをわざわざ教習内容に組み込むはずがありません。

警察庁交通局運転免許課の資料には、狭路の通行の目標について「様々な形状の狭い道路において車両感覚をつかみ、適切な進路と速度を選んで安全な通行ができる」ようにするためと記載されています。

具体的には以下のようなことを身につけるために、S字とクランクが課題として用意されているようです。

・狭路の形状の捉え方
・視点の配り方、視野のとり方
・車両感覚の捉え方と走行位置のとり方
・速度の調節の仕方
・進路のとり方と修正の仕方
・切り返しの仕方

とりわけ、前輪の向きを変えて進行方向を決める車という乗り物は、内輪差と外輪差が発生します。つまり後輪は前輪と同じ軌道を通らず、感覚に反して内側を通ってしまうため低速走行ほど後輪の軌道にも注意を向ける必要があります。

道路の形状を見定めて適切な走行ラインを選ぶためには、クルマの幅や長さ、タイヤの位置を知ったうえで、なによりクルマの動きを知ることが大切。道路のどこに視線と意識を向けて操作をすればよいかの着眼点も重要です。

加えてS字とクランクは低速走行時のペダル操作を養うためでもあり、失敗したとしても後方確認と切り返しの挙動とハンドル操作を学ぶ機会にもなります。接触や脱輪しそうになったら、危険察知してちゃんとブレーキペダルを踏んで止まれることも大切といえますね。

これら低速走行の基礎は、教習所の外周を走行しているだけでは身に付かないものです。以上のような、細かいクルマの操作に意識を向けさせるのがS字とクランクの目的といえるでしょう。

●低速走行の基礎はS字とクランクで身についている

たとえば発券機がある駐車場では幅寄せするテクニックが求められる
たとえば発券機がある駐車場では幅寄せするテクニックが求められる

実際の教習では「あの目印が、車の横に来たらハンドルを切って」というように、裏ワザに近い方法でS字とクランクをクリアした人も多いことでしょう。

正直、この方法では運転は上達しません。しかし第1段階の時点では裏ワザを使ったとしても、どういう風にクルマが動くか理解できれば十分ともいえます。

どんな方法であってもS字やクランクをクリアできれば、その後の通常走行にも余裕が持てるようになっているはずです。S字やクランクの課題で得たタイヤ位置や向き、車幅の把握は、第二段階の課題になっている方向変換(車庫入れ)や縦列駐車のための予備知識としても必須になります。

たしかに実際の走行でS字やクランクのような道を通ることは稀です。ですが、似たような状況になることはよくあります。

狭い峠道のヘアピンカーブや曲がってすぐに発券機がある駐車場、敷地面積の狭いファストフード店のドライブスルーなどがその代表例です。車とすれ違うときは、道路が広くともそれぞれの車が使える道幅は極端に制限されてしまいます。

実際の運転では、教習所の現場のように道を踏み外しそうになる状況が少ないだけですが、S字やクランクを通過するような注意や操作が求められているのです。

それらのシーンで問題なく走行できているということは、S字やクランクで得た知見がちゃんと役に立っているということですね。

(鈴木 僚太[ピーコックブルー])