もう、タイヤに空気を入れなくていい? ブリヂストン「エアフリーコンセプト」はパンクしない夢のタイヤだ

■タイヤのエアレス化を積極開発するブリヂストン

タジマ・ジャイアンに装着されたブリヂストンのエアレスタイヤ「エアフリーコンセプト」
タジマ・ジャイアンに装着されたブリヂストンのエアレスタイヤ「エアフリーコンセプト」

現在、タイヤと言えば空気が入ったものが当たり前ですが、近い将来、この常識が変わっていくかもしれません。

ブリヂストンは空気を使わないタイヤを開発中で、近いうちに実用化される可能性も高くなってきたのです!

●世界初の車はエアレスタイヤだった

世界初の車であるベンツ・パテント・モトールヴァーゲンのタイヤは空気無しのソリッドタイヤだった
世界初の車であるベンツ・パテント・モトールヴァーゲンのタイヤは空気無しのソリッドタイヤだった

世界初の自動車と言われるベンツ1号車は、1880年代、スチールのリムとスポークでできたホイールに、ソリッドのゴムを巻いたタイヤを履いていました。このソリッドタイヤの乗り心地は想像通り、ひどいものだったと言われています。

時をほぼ同じくして、空気入りタイヤが発明されていますが、当時の空気入りタイヤは自転車には使えたものの、車に使うにはまだまだ耐久性が足りませんでした。

その後、耐久性は改善され、チューブ入りタイヤからチューブレスタイヤに進化。さらには、空気が抜けても走行可能なランフラットタイヤへと進化しますが、空気を充てんしている以上、タイヤはパンクのリスクから逃れることがでません。

タイヤメーカー各社はエアレスタイヤの開発に注力しています。そうした中、ブリヂストンのエアレスタイヤに試乗することができました。

ブリヂストンのエアレスタイヤは、「エアフリーコンセプト」の名で呼ばれるもので、コンセプトの名が示すとおり、まだ市販のモデルとはなっていません。エアフリーコンセプトが最初にお披露目されたのは、2011年の東京モーターショー。それから12年の時を経て、やっとの試乗です。

●ホイールに見える部分も実はタイヤの一部

青い部分はタイヤの一部、ホイールは内側の黒い部分となる
青い部分はタイヤの一部、ホイールは内側の黒い部分となる

エアフリーコンセプトを構成するのは、樹脂のケースとゴムのトレッド。青い部分が樹脂のケースで、これはホイールではありません。中心のスポーク部分がホイールと言っていいでしょう。

ケース部分は突起乗り越しなどでは変形する構造となっていて、乗り心地を確保します。つまり、ここが空気の代わりになってくれるというわけ。トレッド部分は一般的なタイヤと同様に、路面とコンタクトしてグリップを確保します。

エアフリーコンセプトの利点はパンク防止だけでなく、実はリサイクルを重視したモデルでもあるのです。トレッドのゴム部分が寿命を迎えたものは回収され、トレッドを貼り替えることで再び製品として出荷されます。もちろん、ケース部分は検査され、使用に耐えるものが再利用される仕組みです。再利用できなかったケースに関しては、粉砕され、原材料として使うことを想定しています。

●超小型モビリティのタジマ・ジャイアンで試乗

タジマ・ジャイアンに装着されたエアフリーコンセプトを試乗
タジマ・ジャイアンに装着されたエアフリーコンセプトを試乗

試乗は、ブリヂストンが東京都小平市に有するブリヂストン イノベーション パーク内にあるテストコース。試乗車は超小型モビリティのタジマ・ジャイアンが用意されました。

まずは標準タイヤで走行し、その後にエアフリーコンセプトに乗って比較しました。

このエアフリーコンセプト、スタート時のグリップは遜色がなく、標準タイヤ同様にしっかりとしています。

特殊路と呼ばれる路面に入り、突起を乗り越えてみます。さすがに標準タイヤに比べると突き上げがありますが、思ったよりもずっと乗り心地は確保されていたのにビックリ!

突起乗り越し時は青いケース部分も変形してショックを吸収する
突起乗り越し時は青いケース部分も変形してショックを吸収する

見た目では、トレッド部分のみがタイヤに見えていますが、実は青いケース部分がしっかりと変形して乗り心地を確保しているのです。一般路面での乗り心地は、標準タイヤに比べると微振動が多くなっています。こうした振動はエア入りタイヤでも、扁平率の低いもの(つまりエアが少ないもの)は多くなりがちで、エアレスのもっとも苦手な領域といえます。

トレッドゴムが薄いのでハンドリングがシャープかと思いきや、そんなことはありませんでした。ステアリングを切ってからタイヤが反応するまでの遅れは標準タイヤと同レベルで、動きが急で扱いにくいということもありません。この部分もケースの変形が上手に働いているのでしょう。

●ハンドリングの安定感も十分に確保

高めの速度で侵入したコーナーも破綻することなくクリアした
高めの速度で侵入したコーナーも破綻することなくクリアした

ハンドリングの安定感に関しても、標準タイヤレベルのポテンシャルを持っています。40km/hでのレーンチェンジ、20km/hでの20R程度のタイトターンでの安定感も特に不安感はありませんでした。試乗中に若干指定速度をオーバーし、30km/hプラスα程度で20Rのタイトコーナーへ進入し姿勢を崩しましたが、その後のリカバリーも特に難しいレベルのものではありません。

スペアタイヤは日本では使用されることなく車の一生を終える事が多く、スペアタイヤに代わってパンク修理剤が搭載されていることが普通になってきています。車全体の軽量化とコストダウンになるからでしょう。エアフリーコンセプトが実用化されれば、パンク修理剤すら要らない、パンクによるタイヤ交換の必要が無くなる、世界中の治安の悪い地域ではパンクしても車から降りるべきでない、と言われる地域もあると聞きますが、そういう方面にも有効なアイテムと言えるでしょう。

2023年2月より、出光興産の事業所内でエアフリーコンセプトの実証実験が開始されているとのこと。

早期の実用化に期待が膨らみますね。

(諸星 陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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