運転中に熊と遭遇したらどうする? ぶつかったら保険はどうなる?

■熊出没警報発令中! 街中や高速道路にまで熊が出没

近年、熊の出没件数が急増している。
近年、熊の出没件数が急増している。

秋から冬にかけて熊が冬眠前の餌を求めて人里に出没するのは例年のことですが、熊の主な食べ物となるドングリなどが凶作だった2023年は、全国の熊の出没頻度は異常といえるほど高くなっています。

筆者の住む東北では、例年なら見かけるはずのない街中や高速道路にまで熊が出没しています。そうなると普段の運転中でも熊と遭遇する確率が増えるということです。

熊より速く走れる車とはいえ、即座に向きを変えて逃げることはできませんよね。運転中に熊が目の前に立ちふさがったらどうすればよいのか、その対処法を調べてみました。

●運転中に熊と遭遇したらどうするべき?

なるべく停車せず、熊のスキを見つけて、ゆっくりとすり抜けるのが正解。
なるべく停車せず、熊のスキを見つけて、ゆっくりとすり抜けるのが正解。

日本にはヒグマとツキノワグマの2種類が生息しているそうです。本州にはヒグマよりも小さなツキノワグマしかいませんが、ツキノワグマも鋭い牙と爪を持ち、大きなものでは身長150cm・体重120kgにもなるため、どちらも危険なことには変わりません。

結論から言うと、運転中に熊と遭遇したら「なるべく停車せず、熊のスキを見つけて、ゆっくりとすり抜ける」のが正解です。不用意に車を停めると、停止車両が障害物になって周囲の車やバイクを危険に巻き込むことにもなるので、前方に熊が出現したら対向車などに注意しながらすみやかに回避して難を逃れましょう。

遭遇したのが中型犬くらいのかわいい子熊でも、その近くには必ずといっていいほど大きな親熊がいるので、物珍しさから車を停めるのはもちろん、車を降りて近づくのは危険です。

餌を与えるのもいけません。その理由は「この場所に来ると餌をもらえる」と熊が覚えてしまうと、その後も頻繁に道路上に現れるようになるからだそうです。

●熊に道を塞がれたらパニックに陥らないことが大切

とはいえ熊に道路を塞がれたら、さすがに車を停めるしかありませんよね。こうなった場合には、まずは落ち着くことが大切です。

熊から逃れるために慌てて車を後退させると、障害物との衝突や道路からタイヤを踏み外して動けなくなる恐れがあります。また、熊は逃げるものを追いかけてくる習性があるそうなので、バックをすると余計に追いかけられることもあるようです。熊は警戒心が強い生き物で、本来は人間に近付こうとはしません。基本的に草食で、積極的に人間を襲ったり食べたりすることもありません。

興奮しているときは車にのしかかったり、揺すったりすることもありますが、金属パネルと強化ガラスで守られた車の中にいれば、とりあえずは安全です。

●熊の前で停車するときは身を守る操作を忘れずに。クラクションは熊が興奮する可能性も…

熊が出没しやすい場所には、標識が設置されている。
熊が出没しやすい場所には、標識が設置されている。

熊に進路を塞がれてしまったら、まずは熊と交通事故から身を守るための操作をおこないましょう。

前方に熊をみつけたら、後続車からの追突を防ぐために急ブレーキは避けて速度を落とし、周囲へ注意を呼びかけるためハザードランプを点灯。窓はしっかりと閉め、ドアをロックして熊が車内へ侵入するのを防ぎます。

そのうえで、熊の様子をうかがい、進路が空いたらゆっくりと加速して脱出しましょう。大きな音を発する警音器(クラクション)で熊を撃退できると考えがちですが、有識者が言うには大きな音を出すことで熊が逃げることもあれば、反対に興奮させてしまうこともあるため、クラクションは極力使わない方がよいとのことです。

車の中なら安全とはいいましたが、安心はできません。熊の大きさによっては車の窓ガラスを破壊するのに十分な腕力があります。とにかく熊を刺激しないことが肝心ですね。

●熊と遭遇した車を見かけたら周りの車もサポートを

熊の前で立ち往生している車をみかけた際も、距離があるからといって安心はできません。

後続車は、前の車のドライバーがパニックになって急速後退してくることも想定して十分な車間距離をとっておきましょう。対向車側も、熊に遭遇した車の逃げ道を空けてあげてください。

良かれと思っても周囲からクラクションを鳴らす行為は、前述したように熊を興奮させる可能性があるので控えたほうがよいでしょう。

●熊との衝突事故でも保険が使える! ぶつかったら警察と道路緊急ダイヤルへ連絡

「道路緊急ダイヤル(#9910)」に連絡して後処理は専門家に任せる。
「道路緊急ダイヤル(#9910)」に連絡して後処理は専門家に任せる。

熊が走ると40km/hにもなるそうで、体重100kgもある熊が全速力で路上に飛び出してきて衝突したら車もかなりの損傷を受けてしまいます。

野生動物はモノとして扱われ物損事故扱いになるそうなので、熊との衝突事故で生じた車の修理には自動車任意保険の車両保険が使え、乗員のケガなどに対しては対物賠償が使えます。

熊をひいても違反減点や反則金などの罰則はありませんが、事故には違いがないのでドライバーには「危険防止等措置義務」と「報告義務」が生じます。これは熊との衝突を回避して障害物などにぶつかった場合も同じです。

熊の死骸が周囲の車の危険にならないように三角表示板(停止表示板)などを設置したいところですが、熊が生きていて襲われる場合もあるので、けっして熊には近づいてはいけません。車を降りず警察に連絡し、その後の判断を仰ぐとよいでしょう。

野生動物には事故発生時の「救護義務」は生じないので、救命措置はもちろん死骸の撤去は不要です。ですが放置もできません。野生動物の死骸に触れると感染症にかかる危険があるので、「道路緊急ダイヤル(#9910)」にも連絡して後処理は専門家に任せてください。

自動車任意保険の使用する場合にも警察が発行する事故証明書が必要になるので、熊などの野生動物が絡む事故を起こしたら必ず通報しましょう。

●熊の存在を意識した安全運転が大切

運転中に熊と遭遇したら、まずは落ち着いて、熊を刺激しないようにやり過ごすことが大切です。もし事故になってしまったら警察と道路緊急ダイヤルの両方へ連絡してください。

熊が出没しやすい山道はもちろん、これほど出没すると街中や高速道路の運転中も油断はできません。熊は夜にあまり行動しませんが、人との接触を避けるために早朝や夕方に動き活発化することもあるそうです。

路上に飛び出した熊の早期発見のために積極的なヘッドライト点灯を意識して、ハイビームも上手に活用しましょう。衝突を避けるために安全な速度を保つことも大切です。

これらは人間に対する安全運転と同じといえますね。能動的な安全運転で熊から車と身を守りましょう。

(鈴木 僚太[ピーコックブルー])