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■あったらいいなを実現してきたZF
●シートベルトが温かいという新しい発想
モーターで走る車もハイブリッド車も、動力源を動力だけに使おうとすると余計な熱を発しなくなるわけで、寒いときに使うヒーターなんかが別の熱源を必要とするわけです。
世の中、猫も杓子も電動化と言っておりますが、BEVの場合は顕著で、寒い時期にヒーターを使うのと使わないのでは、数十%の違いもざらに出てきます。
それを節約するためには、車内全部を暖かくするのではなく、人間が触れる部分だけを温めればいいんではないか、という発想は昔からあって、シートヒーターやステアリングヒーターが代表例であり、昨今では普通に装備されています。
そして、次に身体に触れている部分というわけで、シートベルトが挙げられるわけです。確かに、安全性を考えると、シートベルトは終始身体に密着、いざというときには素早くその身を拘束する必要があります。そのため、理想的にはたるみ無く身体にピタリと張り付いていて欲しいのです。
ZFではこのシートベルトにヒーターを入れたものを参考出品していました。
実際に寒い車内で試すことはできませんでしたが、スイッチを入れたらそれほど時間をかけずにじんわりとシートベルトが暖かくなるのが体感できました。直接肌に触れることはない(装脱着時を除く)ものですが、運転に適した動きやすい服装ならホワッと暖かさを感じられるのではないでしょうか。
まもなく某車両に装着発売される予定とのことです。安全装備と快適装備が一緒になった珍しいパーツではないでしょうか。
●「走る部品」を多く手掛けるZF
さて、ZFは、シートベルトやエアバッグなどの安全関連だけでなく、トランスミッション、eアクスルという電動駆動ユニットなどや、サスペンション、ステアリング、それに関連する制御系など、車そのものを走らせる部品の総合大手サプライヤーです。
そんなZFの普段公道では走れない開発車両に試乗することができたので、驚きの走りっぷりをお伝えしましょう。
まず、フォルクスワーゲン「ID.3」です。普通に走ったら普通に走りやすいコンパクトクラスの電気自動車ですが、この実験車両にはステアリングにZFの「ステア・バイ・ワイヤ」を組み込むことで、ハンドリングを大きく変化させることができます。
通常にスラロームを走っても、キビキビとした走りを見せてくれますが、ここで、ステアリングのギヤ比をクイックにしてくれました。スイッチひとつでプログラムを切り替えたわけです。
そうすると、ハンドルをほんのちょっと切っただけで「ビュン!」と曲がってくれます。明らかにゴーカート感覚で楽しめます。
もちろん、テストコース内での試乗なので極端に味あわせてくれたわけですが、ステア・バイ・ワイヤであれば、プログラム次第でどのようなハンドリングの特性、車両に合わせるだけでなく、シチュエーションに合わせてドライバーが選択することも可能にできるというわけです。
●4tを超えるピックアップが軽々走る!
次に乗ったのがシボレー「シルバラード」です。こちらは先程のコンパクトなID.3とは間逆、巨大なアメリカンピックアップトラックです。
シルバラードは、全長は6m近くあり、ノーマルでは車両重量は2tを優に超える巨体です。そして、このシルバラードはリヤアクスルに、ZFの「電動ビームアクスル」を組み込み電動化したモデル。設定によって最高出力は180〜350kWm、最大トルクはなんと1万6000Nmまで発生させることができるのだそうです。テスト車はバッテリーその他の重量物を搭載し、総重量は4tほどになっているそうです。
幅2m超えのシルバラードには、乗り込むにも軽くよじ登る感覚で左のドライバーズシートへ這い上がります。乗り込んでもデカい。パイロンが細かく設置されたテストコースでは余計、大きさを感じます。
しかし、一度アクセルを踏み込むと、その大きく重い巨体はなんのストレスもなく加速します。トルク重視の大排気量アメリカンV8エンジンと似ているような感覚でしょう、踏んだだけ「ぶわーーー」っと加速します。
直線を走る限り、重さはまったく感じさせません。実はビビってしまい、狭いコース内ではとてもじゃないがアクセル全開にはできませんでした。
●乗り降りのため車高を上げるビュイック・アヴェニール
そして、最後にデモンストレーションを見せてもらったのが、車高調整機構つきのサスペンション。通常のサスペンション機能と車高調整機能を併せ持ったサスペンションで、各種センサー類も当然、ZFのものが組み込まれています。
さて、デモ車として用意されたのがビュイック「アヴェニール」の中国市場向けという、かなり馴染みの薄いSUVです。これに乗降性を良くするため車高調整機能が付いているわけですが、これがボクの想像を遥かに超えるものでした。
最初は何をやってるのかと思いましたが、なんと、乗り降りする時のために車高を上げるのです!
ZFの車高調整機構のデモ車であるビュイック・アヴェニール中国向け仕様。なんと、乗降性のために車高を上げるという日本人にはなかった発想でした#ZF #試乗会 #クリッカー編集後記 pic.twitter.com/fRwuhvWKxy
— クリッカー編集部 (@clicccar) October 23, 2023
よくバス停に止まったバスが、即座に車高を下げてお年寄りや身体の不自由な人に配慮するじゃないですか。乗り込むとき乗り物を下げるのは、駕籠(かご)にお姫様をお乗せするシーンでも同様、日本の伝統なんですよ。
まあ、足の長いヨーロッパの人が考えたらそうなったらしいです。まあ、たしかに自分のお尻よりもシートが低ければ上げて欲しいのはわからんでもないです。けど、荷物を積み込むときのためには、テールゲートを開けるとリヤサスが下がっていました。なので、設定次第で上げも下げもできるので安心して下さい。
ZFのテスト車両、デモンストレーション車両にはこれまでも何度も乗せていただいていますが、いずれも実用的でユーザーとしても「あったらいいよなぁ〜」と思うものばかり。使い道のわからない技術やエンジニアが、それを使ってなんとか実装してみたけど「?」ってなモノには出会ったことはありません。
けれど、ZFの顧客は我々ユーザーではなく、自動車を作るメーカーなのです。もはや自動車に求められるものすら、サプライヤーが提供する時代になってきていると言えるのかも知れませんね。
(小林和久)