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■スーパースポーツカーに乗るようにボートに乗る
●「SUNSEEKER 65 SPORT YACHT」に乗る日がやってきた
2021年4月、英国SUNSEEKER(サンシーカ―)は新たなステージへのメッセージを発信した。「Famous Five‘ Global Premiere」と銘打ち、5種類のニューモデルを同時発表した。Predator55EVO™、Manhattan55、65 SPOTYACHT、88Yacht and 90Ocean。
特に、スポーツカーのコクピットを思わせる上部操船席を持つ65 SPORT YACHTに関心は集まった。スーパースポーツカーに乗るようにボートに乗る。早く体験したいと願っていた。その日が遂にやってきた。
夏まじかの三浦半島、緑が煌めいている。夏の光にあふれるシティマリーナヴェラシス。時折強い南西風が吹いてくる。給油バース脇のビジターバースにそれはいた。国内でのサンシーカ―はフライブリッジ艇のマンハッタンシリーズが見受けられるが、スポーツクーペフォルムのプレデターシリーズは見かけない。
そのプレデターの発展形、特別なフライブリッジが用意されたのがこの65 SPORT YACHT。実艇のデビューは2021年1月のドイツ・デュッセルドルフボートショー。その魅力的なアッパーヘルムの体験をしてみたい。
ポンツーンから見るシャープなフォルム、カッティングエッジなサイドフォルム、ハルサイドのダイアゴナルな舷窓ライン、フライブリッジは見えないが、その先へ行こうとするSUNSEEKERの意気込みがオーラのように伝わってくる。
まずはメインデッキから見てみよう。チークの貼られたスイミングプラットフォームから。このプラットフォームもちろん水中への上下可動対応。
アフトボンネットを開ければシートイガレージ、Willams345とSeabobの収納可能だ。オーバーヘッドシャワーも用意され、ビーチクラブとしても楽しめる。
両舷のアートフルなウッドステップから後部デッキへ。ガレージの上部はサンベッドとベンチソファ&チークテーブルがある。右舷にはフライブリッジへのウッドラダー、その右にはドッキングステーションが用意される。嬉しい仕掛けがある、サロン入口左舷には2脚のチェストもセットされ、バーカウンターが用意される。
サロンサイドとの間のウインドウを電動で下げると、サロンのギャレーと一体化する。アフトデッキ上部は拡張する電動オーニングイーブスでサンシェイドを作ってくれる。
サロン内はフロントウインドウを含め広々としたサイドウインドウが採光豊かな明るさを演出している。サロンに入るとバーカウンターと左手に最新トレンドのギャレーが用意される。シンク、バーナー、レンジ、食洗器、もちろんフル装備。ハイエンドライフの象徴の食器類もブランディングされている。英国製のSUNSEEKER、搭載されるのは銀のカトラリー、カップやソーサ―はWEDGWOOD、グラスもWEDGWOODクリスタル、Royal Doultonの選択もある。
右舷サイドには冷蔵庫にワインキャビネットが用意される。サロン左舷にはL字ソファ、テーブルをはさんで右舷にベンチソファ、その前方は操船席ヘルムステーション。まさにトレンドシッターとしてのモダンステーションが展開する。
2脚のキャプテンシートの前、カーボンパネルのコンソールステージがある。マルチコネクティングパッド、エアコンのコントロールタッチパネル。6ポークの革巻きステアリング、その内にはクルマのようなパドルリング、2個のベゼルを持つクラシカルなアナログ表示の円形メーター、正面は二面のGARMIN16インチMFDスクリーン。このヘルムには最新トレンドが見える。サンシーカ―CM8デジタルボートマネージメントシステムが潜んでいる。
ステアリング右上にはバウ&スターンスラスターレバー、ウインドウサイドにはVolvo Penta IPS1350-1000hp×2基のコントローラー、GARMINのコントロールパネル、ジョイスティック、イージークルージングの未来がここにある。頭上にはサンルーフが広がる。
ロアデッキにはステートルームが3ヵ所。ミジップにフルビームのオーナーズステート。バウにVIPルーム、右舷に2ベッドのゲストルーム。それぞれに化粧室パウダールームが用意されているが、もう1ヵ所メインデッキからコンパニオンウエイを降りたところにDay Headsと呼ぶ独立したトイレが用意される。
オーナーズステート入口に執務コーナー、スタディエリアがある。オンラインミーティングがあたりまえの現代らしい。オーナーズステートはユーカリのブラウンの色調がエレガントな趣を作り上げている。
クローゼット、採光豊かなシービューウインドウ、アンビエントライトの柔らかさが、フローティングヴィラのリキュスでモダンな設えを生み出している。VIPルームもゲストルームもエレガントな演出は同様だ。
さあ、フライブリッジへ!
●スーパースポーツカーのようなスカイヘルム
“Skyhelm“ ”スカイヘルム“。エアクラフトスタイル、いやスポーツカーを思わせるスポーツブリッジは、まるでスーパースポーツカーのコクピットだ。
カーボンプレートのセンターコンソールを挟んで、左右にBensenzoni製バケットスポーツシート、左舷にスカットル下バルクヘッドからステアリングポッドがステアリングとともに突き出している。
バケットシートに座る。両足をフットプレートに置く。通常ならABCペダルがある位置、ステアリングを握る。スーパースポーツカーのドライビングポジションだ。
ポッド右にバウスラスタースイッチ、左にジョイスティック。右手は自然にセンターコンソールのスロットルにいく。
センターコンソールのシフトレバー位置にVolvo Penta IPS1350-1000hp×2基のコントローラー、その手前にGARMINのマルチモニターのコントローラー、BMW iDriveスタイルのコントローラーによって制御されている。コマンドコントロールの円形のダイヤル、スマホの充電パット、センターにはタッチセンサー&コマンド対応のGARMIN16インチMFDスクリーン-GPSマルチモニターが位置する。
その上部左右に、ベゼル付きの2つの円形計器がセットされる。クラシックカーの円形メータをモダンにオマージュしている。アナログ表示で速度、回転計、ラダーアングルなどがセンターのコマンドコントローラーで管理され表示する。まるでオープンスーパースポーツカーのドライビングシートにいるようでわくわく感がたまらない。
フライブリッジの前方はこの“Skyhelm“、シート2脚。後部にテーブルとL字ソファがあるのみ。その背後にブラックアウトしたレーダータワーが立つ。
●007にも登場するSUNSEEKERとは?
エクステリア、インテリアともにインハウスデザインと、アンチローリングジャイロはシーキーパー16を搭載している。スポーツカーライクのこの65 SPORT YACHT、アストンマーチンならずとも007、ジェームスボンド気分になれる。SUNSEEKERは映画007によく登場する。「ダイ・アナザ・ディ」にスーパーホーク48、「カジノ・ロワイヤル」にはプレデター108などなど。
ここでSUNSEEKERの成り立ちをおさらい。
英国南西部Dorset州Poolにその拠点を置くSUNSEEKERは、1969年Volvo Penta代理店のプールパワーボート社に始まる。ファウンダーRobert Braithwaite(1943年~2019年)はボート設計に少数の顧客のオーダーメイドを受け入れ、斬新なボートの建造に乗り出した。当時、英国にはプレジャーボートの建造をするメーカーはなく、1971年ソブリン17が誕生し、即ソブリン20がデビュー、1972年サウザンプトンボートショーに展示。
F1ドライバーHenry Taylorのオーダーはフルワイドのサンベッドだった。オーダーメイドに答えながら、Robertの弟Johnが製品開発ディレクターとして参加しSport23、Daycab23を生み出す。2019年に退職するまでその職を務めた。
マーケットを地中海に。パートナーとしてナバルアーキテクトDon Sheadと提携。オフショア28のデビュー。1980年代はPortofino31、Tomahawk37が登場。1985年にSUNSEEKER Internationalの誕生となる。
1990年代はRenegade60の登場、ツインジェットのハイパフォーマンスボートのベンチマークとなった。2000年ミレニアムには105YACHTSの進水で2つの国際スーパーヨット賞を受賞。さらに37M YACHTSが続き2015年には100隻めのスーパーヨットの納入と進化は果てしない。
2010年にSUNSEEKERは創立50周年、PREDATOR130はショーボートデザイン賞最優秀賞受賞。2018年、グローバルパートナーシップを。モナコGPでアストンマーチン、レッドブルレーシングF1チームのサポーターに。ワールドカップではFIFA公式パートナーシップを締結。2020年、ロールス・ロイスとMTUとにFrame契約。
Andrea Frabettiは、2019年1月にチーフテクニカルオフィサーとして招かれたが、その半年後にCEOとなる。彼の30年に渡るナバルアーキテクトおよびマリンエンジニアとしての経験とスキルとイノベーションへの情熱が生かされ、2019年から2021年の間にレンジは倍になり、アグレッシブな変化が実現されている。ジェノバ大学でナバルアーキテクトとマリンエンジニアリングを学び、ボローニア大学で経営管理を学んでいる。フェレッティグループでは、チーフテクニカルオフィサーとして活躍をしていた。スポーツカーやバイクへの洞察も深い人物である。
先日、この65SUPORTYACHTSの“Skyhelm“は誰のデザイン?と尋ねたら、速攻「Me」と帰ってきた。ミッレミリアにエントリーするほどスポーツカー好きの彼らしい。
●スポーツカー並みの走りと沖縄までも航続可能な好燃費
さあ、出航だ! 晴れ、気温33度、南南西の風10m、マリーナフラッグイエローコンディション。全長20.5m全幅5.1mドラフト1.6m、37.8トン。フュエル3,500L、清水800L。ジョイスティックでゆっくりと離岸。デッドスロー600rpm6.1ノット、沖には白波が見える。東京湾の南の端、深海の相模湾から水深35mの浅い海峡、本船の行きかう浦賀水道に出ていく。
1000rpm9.0ノット43L/hレンジ619NM。まるでピットレーンからコースインする感覚…荒れる海へ…。実に低いポジションでの操船。フロントエアスクリーンも視界の邪魔にならない低さ、両サイドのガードも極めて低い。ポジションは理想的なレーシングポジション、シートベルトが欲しいほどだ。スロットルはシングルレバーモードにしスロットルを入れていく。フラップはオートモード、安定した姿勢のまま速度を上げる。
Volvo Penta IPS1350-1000hp×2基。2400rpm、12.8L、6気筒、コモンレールディーゼルのパワーユニットは、IPSドライブを介してトルクフルな加速を伝えてくる。南南西10m以上の強風、海象悪化の中、白兎を突っ切れば時折スプレーが舞い上がるが、フライブリッジに影響はない。このコンディションでのシートライアル、そうできることではない。
1200rpm11.5ノット72L/h、1500rpm14.0ノット14.1L/h、1800rpm19.5ノット200L/h。回頭を試みる。まるでスポーツカーの軽快なステアリング、しっかりと体はホールドされながらインサイドバンクを伴い、自分の位置を中心軸に回頭が始まる。スムーズで心地よい。レジンインフュージョンGRPのディープVハル。実に軽快な運動性能を感じさせる。
それにしても、速度感覚がおかしくなるほどスピード感がない、気づくと想定より実速が速いのだ。クルージング2000rpm23.7ノット246L/hレンジ282NM、2200rpm29.3ノット295L/h、2310rpm33.5ノット、荒れ模様の海象だが、MAXを試みる。トップスピード2430rpm34.7ノット! 376L/hレンジ257NM。
ちなみに、ECOロングレンジ800rpm8.2ノット24.0L/hレンジ957NM。デッドスローならのんびり浦賀から沖縄へ、も可能の好燃費だ。
フライブリッジのヘルムに座れば007ジェームスボンドの気分、アストンマーチンに乗って…。さあ、出かけるか、波をかき分けセーリーング!
(山﨑 憲治)
取材協力:株式会社ユニマットプレシャスシティマリーナヴェラシス