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■電動車にミシュランe・PRIMACY、ENERGY SAVER4、PILOT SPORT EVを装着
2050年にすべてのタイヤに再生可能素材やリサイクル素材を使い、100%持続可能なタイヤにすると宣言しているミシュラン。その名も「ミシュラン・サスティナブル試乗会」と題して、最新のいわゆるエコタイヤをいろいろな条件下で乗り比べる試乗会が行われました。
試乗ステージは、栃木県のGKNプルービンググラウンド(テストコース)。試乗メニューは、e・PRIMACY(e・プライマシー)を履いた日産サクラで、ワインディング路を使ったウェットハンドリング(比較でENERGY SAVER4装着車もテスト)。
同じくe・PRIMACYを履いたクラウン・クロスオーバーをテスト車に、外周路を使い、快適性やハンドリングのテスト。
高速外周路では「PILOT SPORT EV(パイロット・スポーツEV)」。また、摩耗していない新品のe・PRIMACYを履いた日産サクラで、ウェットブレーキングを他社品と比べるNEWウェットブレーキング比較。同じコースで摩耗したe・PRIMACYが装着された日産サクラでのウェットブレーキング比較。
さらに、ヒョンデ・アイオニック5に、PILOT SPORT EVを履き、外周路を走行するメニューも用意されていました。
エコタイヤの重要な指標である転がり抵抗では、もう乾いた雑巾を絞るようなもので、改善する余地は少ないと指摘される声もありながらも、各タイヤメーカーの努力により年々少しずつでも進化を遂げています。
現在のエコタイヤには、燃費向上を左右する転がり抵抗だけでなく、相反する要素であるグリップ力(特にウェットグリップ)をはじめ、耐摩耗性や耐久性(ロングライフ)なども要求されることになります。さらに、静粛性や乗り心地などの快適性、デザインや汎用性、サイズや供給量などの量産性も求められます。
トータルパフォーマンスを重視するミシュランでは、同ブランド史上最高の低燃費性能を誇るプレミアムコンフォートタイヤのe・PRIMACYであっても、転がり抵抗はもちろん、それ以外の要素も高いレベルで実現しているのを同試乗会で確認できました。
同タイヤは、新型プジョー408などでも体験済みでしたが、同じ条件下で他社銘柄とも乗り比べることで、全方位隙のない高い完成度を文字どおり実感。
●ワインディング路での安定性と静粛性が光るe・PRIMACY
e・PRIMACYを履いた日産サクラを駆り、ワインディング路を使ったウェットハンドリングでは、滑りやすく、曲がりくねった路面でも意のままのブレーキングとハンドリングを体感できました。コースは狭く、一定の舵角ではクリアできないように回り込むコーナーが続いていても、高いライントレース性により安心感があり、コーナー手前では安定したブレーキングを披露。
コーナーでの姿勢が安定しているのはもちろん、ブレーキング後の揺り戻しの小ささ、回生ブレーキ時の安定した姿勢は、日産サクラが持つ車両制御技術の高さに加えて、同タイヤの扱いやすさも寄与しているはずです。
エコタイヤというと、「よく転がるけれど、止まらない」というのは、e・PRIMACYに関しては完全に過去の話。
日産サクラが装着していたのは165/55R15サイズのe・PRIMACY。同タイヤは、低燃費性能では、グレーティングシステムで「AAA」を21サイズで達成(7サイズで取得済み)。「AAA」が最も転がり抵抗で優れていることを示しています。さらに、バッテリーEVである日産サクラでの静粛性の高さも際立っていました。
乗り比べたENERGY SAVER4も、ウェットハンドリングでもかなり安定していたのが印象的。一方で、e・PRIMACYと比べるとロードノイズ、パターンノイズが大きめで、またコーナーでのロールが大きめに感じられましたが、狭い上に、水をまいたワインディング路では、安定性は十分。
バッテリーEVなどの電動車両に装着し、静粛性までより高いレベルで求めるのであればe・PRIMACYを、ハイブリッド車やガソリンエンジン車などで雨天時の安心感も含めたエコタイヤを求めるのならENERGY SAVER4でも高い満足感が得られそうです。
●高速外周路でクラウンクロスオーバーとアイオニック5で操縦安定性や静粛性を確認
ドライ路面での高速周回路では、最高速100km/h以内でレーンチェーン時やバンクでの操縦安定性や静粛性、乗り心地などを確認できました。
テスト車はトヨタ・クラウンクロスオーバーで、225/45R21サイズのe・PRIMACYを装着。
現行クラウンクロスオーバーは、「RS」や「G」のレザーパッケージ系が21インチタイヤを標準装着しています。別の機会で純正装着タイヤを履いた同モデルに試乗した際は、ロードノイズ、パターンノイズなどは抑えられ、高い静粛性に加えて、高速時のソリッドな乗り味や操縦安定性も印象に残っています。
さらに高速周回路では、255/45ZR20サイズのPILOT SPORT EVを履いたヒョンデ・アイオニック5でもテストする機会がありました。同タイヤは、フォーミュラEで得た技術や知見が盛り込まれたスポーツEV向けの市販タイヤで、ハンドリングと静粛性「AA」を両立しているのが特徴です。
エンジン由来の音振動がないBEVですから、ロードノイズやパターンノイズが相対的に目立ちそうですが、中低速、高速域ともに静かさは維持されています。車体の風切り音が気になるほどで、「AA」を達成しているのも頷けます。同時に、確かなライントレース性に加えて、ダブルレーンチェンジをしても(床下が重いBEVということもあり)、スタビリティの高さが伝わってきます。
エコタイヤであるe・PRIMACYであっても、タイヤ由来のノイズはかなり抑えられているだけでなく、乗り心地も良好そのものといえるレベルに仕上がっています。
ただし、GKNプルービンググラウンドの高速周回路は、一般的な公道と比べると路面状態が良好そのもので、参考程度と考えた方がよさそう。バンクでの安定性もあり、高速でのレーンチェンジでもリヤタイヤの追従性は高く安心感の高さが印象的です。
これであれば、公道で少々飛ばしてもエコタイヤだから…と何かを我慢するようなことはなさそうです。
●摩耗しても大きく性能が落ち込まないe・PRIMACYのウェットブレーキング
最も興味深く、分かりやすかったのがウェット路でのブレーキング比較でした。新品のe・PRIMACYを履いた日産サクラと、同クラスの他銘柄タイヤを履いた日産サクラでフルブレーキング。制動距離や時間、減速G(アベレージとピーク)が分かるメーターが取り付けられ、新品のe・PRIMACYの安定した制動フィールが印象的でした。
距離や時間が短いのはもちろん、ABSの効きも良好で、安定したストッピングパワーを引き出しています。他銘柄だとABSの効きもムラがあり、距離が延びてしまうのは明らかでした。
次に、溝が残り2mmまで減ったケースでもテスト。e・PRIMACYもここまで溝が減ってしまうと、制動距離はかなり延びてしまうものの、他銘柄ではさらに止まらず、ABSの作動も頼りなく、ここまで差が出るのは想定した以上でした。
なお、フルブレーキングするために70km/hまで加速する必要があり、ドライ状態のスタートラインでは他銘柄が盛大にホイールスピンをするのに対し、e・PRIMACYはホイールスピンをせずにスムーズに発進できたのも付け加えておきます。
そのほか、転がり抵抗「AA」のe・PRIMACYと、「A」の「ENERGY SAVER4」を履いた日産ノートe-POWERの転がり抵抗のデモを見学。当然ながら、前者の方がより遠くまで進むのを確認しました。
とはいえ、e・PRIMACYは、今までご紹介してきたように、ウェットグリップの高さやワインディング路、高速周回路でも確かな操縦安定性や静粛性、乗り心地の良さも披露していて、最新のエコタイヤであり、ミシュランの自信作にふさわしく、全方位で隙のない仕上がりであることを実感できました。
(文・塚田 勝弘/写真:日本ミシュランタイヤ)