■A110Rに乗って泣きそうになった理由とは…
初めて『R』のハンドルを握ったのは、アルピーヌのホームタウンであるフランス・ノルマンディ地方のディエップだった。
ルーテシアのメディア対抗エコラン大会優勝賞品がフランスへの往復航空券ということだったのだけれど、遊びに行かせてくれるワケじゃなかった(笑)。毎年ディエップで行われているアルピーヌのホームカミングイベント取材へどうぞ、ということ。まぁそうでしょうね。
そのイベントにA110Rの試乗車が用意されていたのだった。「高い高いカーボンホイールだけ気をつけてくださいね~」とだけ言われキーを渡される。カーボンホイール、現地では4本で300万円と聞いた。1本75万円。もっと高いという話も。自分で買ったら普段は普通のアルミホイールに交換して乗ろうかと思えるレベル。いや、110Rを買うような人は気にしないか?
軽いドアを開け、それだけでウキウキしちゃうほど素晴らしいホールド性を持つカーボン製のフルバケに座ると、シートベルトは6点式のフルハーネスときた。日本もコレで行くのかと聞いたら「そうです。認可も取れています」。ちなみに、フルハーネスはユルユルのままだと全く効果無し。めんどくさいかもしれないが、乗るときは必ずガッチリ締めて頂きたい。
ルームミラーを合わせようとするが、付いてない。リアウインドウ、軽量化のためガラスじゃなくカーボンに置換されている。そこまでやるか!
いろいろ驚きながらプッシュボタンを押すと、SやGTなどと同じ300馬力/340Nmの1800cc直噴ターボに火が入る。アルピーヌあるあるで、伝統的にエンジンはライトチューンだ。気合いの入ったエンジンを搭載した歴史無し。
そんなことを考えながら7速ツインクラッチの1速で走り出す。すると「どうしちゃったの?」というくらい素晴らしい! 何が素晴らしいかといえば、人とクルマの一体感である。ガンダムを操縦したことがないから分からないけれど、機械を自分の身体と同じように操ろうとしたら、おそらくA110Rみたいな一体感が必要になると思う。夢のようなひとときでした。
●世界最高峰のハンドリングを毎日味わえる
そいつが箱根にやってきた! 6点式シートベルトをがっちり締めて走り出すまでは前回と同じ。箱根の道を走り出すと、やっぱり素晴らしい! 少しばかり誇張して表現すると、涙が出そうになるほど感動します。普通のA110も良いクルマだけれど、段違いに滑らかなのだった。
箱根ターンパイクの舗装コンディションは良好ながら、それでもスポーツモデルだと車体は揺すられる。なのに110Rだと、のっぺりした道を走ってるんじゃないかと思うほど滑らか。
これ、フランスでも同じだった。おそらく110R専用にチューニングされたZF(ザックス)のダンパーが良い仕事をしているんじゃなかろうか。もちろんボディ剛性なども向上させているものの、決定的なのはダンパーだと考える。逆に普通のA110もRと同じZFのダンパーに変えたら近い乗り味になるだろう。
標準装着されるミシュランの『パイロットスポーツ・カップ2』は、いわゆるSタイヤと呼ばれるグリップレベルを持ちながら公道も走れる。騒音や振動も、競技用タイヤよりスポーツタイヤに近い。ウェットや低い温度域は苦手ですけど。試乗日はカップ2の性能をフルに引き出せるコンディションだったこともあり、文字通りの「オンザレール」感覚だった。限界のはるか手前である。
けっこう良い速度でコーナーに入ると、安定した姿勢とソフトな乗り心地のまんま、ドライバーが狙ったラインを気持ちよく走り抜けてしまう。前述の通り「意のまま」に走れるのだった。
これだけレベルの高い運動性と快適性を両立しているクルマは他に知らない。ラリー車の場合、意のままに走る性能は持つが、走り出したらずっとノイジー。毎日乗れるかとなれば無理だ。
A110Rの面白さは、世界最高レベルのハンドリングと、毎日乗ってもストレスの無い快適性を両立しているところにあると思う。サーキットに持って行き、130km/hを超える領域で攻めれば、前後の空力付加物も良い仕事をするだろうし、カーボンを多用した軽量化がタイムをそぎ取ってくれるに違いない。
でも、一般道を普通の速度で走っていてもA110Rは泣きそうになるほど良いです。
(文:国沢 光宏/写真:前田 惠介)
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