スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。第6戦 富士スピードウェイの「レース・フォーマット」

3週間前、ここ富士での合同テストの”収穫”を、速さに結びつけられるのは、誰?

東海地方の「梅雨明け宣言」はまだですが、レースの現場はすっかり「夏」。スーパーフォーミュラの2023年シーズンも折り返しを過ぎ、7月も半ばの海の日連休の第6戦・富士スピードウェイ、旧盆連休の第7戦・モビリティリゾートもてぎと、「真夏の2連戦」へと突入します。この記事を書いている15日・金曜日の富士スピードウェイは午後になってちょっと曇り空ですが、土曜日は好転、日曜日は晴れてかなり暑くなりそうです。
エアロダイナミクス・デザインと特性を一新したSF23で戦う、ここ富士スピードウェイでのレースは、今季開幕の2日連続・2戦に続いて2大会目。その間に鈴鹿、オートポリス、スポーツランドSUGOと転戦して、SF23の空力特性が、前作SF19からどれほど変わったかと、それを「手懐ける」のがかなり難しいことを、ドライバーもチームのエンジニアリング・スタッフもそれぞれに痛感してきた、と見受けています。

こちらは何をしているところ? --答:今日の競技車両は外形寸法も各所がきっちり指定されていて、競技終了後にそれがきちんと守られていることを車両検査で計測される。その事前確認として各チームは競技開始前に、SFの場合は専用の車検設備に載せて、寸法確認と各輪荷重計測などを行う(任意車検)。本番の車両検査では審査員と許されたチーム員以外は立ち入り禁止です。(写真:筆者)
こちらは何をしているところ? –答:今日の競技車両は外形寸法も各所がきっちり指定されていて、競技終了後にそれがきちんと守られていることを車両検査で計測される。その事前確認として各チームは競技開始前に、SFの場合は専用の車検設備に載せて、寸法確認と各輪荷重計測などを行う(任意車検)。本番の車両検査では審査員と許されたチーム員以外は立ち入り禁止です。(写真:筆者)

もちろんマシン開発・製造を手掛けたイタリアのダラーラ社からは、全般的な空力特性の数値を、前後ウィングの角度違いや、今日のレーシングカーの空力にとってそれ以上に重要な車両底面前後と路面の間隙、その組み合わせによる車体姿勢の変化などに対して、ダウンフォースと空気抵抗がそれぞれどんな変化をするか、などを記述した数表、「エアロマップ」が提供されていますが、それはあくまでも模型による風洞試験や、コンピューター・シミュレーション(CFD:数値流体解析)で導き出したもの。実際にマシンの形を整え、レーシングスピードで、様々な凹凸のある現実のサーキットを、真っ直ぐだけでなく旋回した時に(モータースポーツ競技ではここが肝心です)、実際に車体に作用し、タイヤを路面に押し付ける「空気力」はどんなふうに現れるのか。その「リアル」を確かめた上ではじめて、「エアロマップ」の数表を整理したものを現実に即してアジャストし、緻密な車両セッティングを導き出すことが可能になるのです。
その「実車による空力計測〜エアロマップとの相関確認」のためには、勾配などがなく、平坦で長い直線路を、車速を変えたり、一定の車速で走っているところから駆動を全部切って「惰行」するなど、基本的な試験走行がまず必要です、が、ほとんどのサーキットではそれに適した場所がありません。日本国内でのサーキットでこの試験が可能なのは、そう、富士スピードウェイ。

6月23・24日の2日間、富士スピードウェイでシーズン中間の合同テスト開催。ここでそれぞれに得た成果が、第6戦(とそれ以降)のシリーズ展開を大きく左右する、はず。(写真:JRP)
6月23・24日の2日間、富士スピードウェイでシーズン中間の合同テスト開催。ここでそれぞれに得た成果が、第6戦(とそれ以降)のシリーズ展開を大きく左右する、はず。(写真:JRP)

でも今季、空力設計としては「フルモデルチェンジ」と言っていいSF23を走らせるにあたって、シーズン前テストは鈴鹿での一度だけでした。そこから各車が最適セットアップになかなか行きつかない、という中、SUGO戦直後の6月23,24日の2日間、富士スピードウェイでようやく合同テストが開催されたのでした。このテストは、一般の皆さんも安価な入場料だけで富士スピードウェイに入り、パドックを見学したり、ピットウォークの時間帯が用意されたり、ドライバーやゲストのトークショーもある、という、マシンとドライバーを間近に見るチャンスとしてはレースディよりもずっと良い、と言えるイベントでしたが、レースエンジニアリングの側からは、「空力確認走行」の時間枠も用意されて、ようやくSF23の基礎的な特性の理解を進められる、まさに価値のある「テスト」だったはずなのです。

シーズン途中の合同テストとあって、空力基礎確認はもちろん各チーム・各車、様々なテストメニューを準備し、次々に消化していった(はず)。(写真:JRP)
シーズン途中の合同テストとあって、空力基礎確認はもちろん各チーム・各車、様々なテストメニューを準備し、次々に消化していった(はず)。(写真:JRP)

そこからの3週間で、各車のエンジニアリング・スタッフが、どれだけ緻密に「空力確認」のデータを整理し、そこからもう一度、ここまでの5戦の走行データを、とりわけここ富士での開幕2連戦のデータを解析し直してきたか。それと並行して、せっかくのシーズン途中のテストの機会をとらえて、実戦の限られた時間の中では試せないような車両セッティングのバリエーションを試してもいるはずで、その中に”発見”は、”アタリ”はあったのか。もちろん”ハズレ”にもちゃんと価値があるのですが。そうした「仕切り直し」が、きっと今戦に、様々な影響をもたらすはずです。分析力に優れたチームが、より明確な差をつける、という可能性も大きいのですが。

その一方で、第4戦を肺気胸で欠場し、復帰してきたSUGOではさすがにレースを走り切ったところで疲労が表に出ていた2年連続チャンピオンの野尻智紀が、じつはその前からマシンの主骨格、モノコックタブに疲労(劣化)の気配があって、それが車両挙動にも現れてきつつあったのを、その第5戦で新品に交換。富士でのテストでは常に速いペースの周回を見せていたのが、気になるところです。

前戦SUGOに向けてモノコックを新品に入れ替えた車両を駆る野尻は、6月の合同テストではその速さを復活させていた。(写真:JRP)
前戦SUGOに向けてモノコックを新品に入れ替えた車両を駆る野尻は、6月の合同テストではその速さを復活させていた。(写真:JRP)

そして週末の戦いを目前にした金曜日に、TGMグランプリの53号車のレギュラー・ドライバー、大湯都史樹の欠場が発表されました。トレーニング中に右鎖骨を損傷したとのこと。彼に替わって53号車のコックピットに収まるのは、2戦前には金曜日の午後に急遽、九州に飛んで野尻の”代走”を務め、6月のテストではB-MAXにリファレンス(比較評価)を依頼されて走った大津弘樹。他のスポーツだったら「ユーティリティ・プレーヤー」と呼ばれそうな存在に、今季はなっています。

何はともあれ、この第3戦はどんな段取り・競技内容で進められるのか、を紹介しておきましょう。

■全日本スーパーフォーミュラ選手権・第6戦「レース・フォーマット」

●レース距離:187.083km (富士スピードウェイ 4.563km×41周)
(最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:120分)

●タイムスケジュール:7/15(土) 午後2時20分~公式予選
7/16(日) 午後2時30分~決勝レース
動画実況は、
J SPORTS オンデマンド:7/15(土) フリー走行 午前8時50分~ 予選 午後2時10分~
7/16(日) フリー走行 午前9時10分~ 決勝 午後2時00分~
J SPORTS BS:7/15(土) 予選 午後2時10分~(J SPORTS 3)
7/16(日) 決勝 午後2時00分~(J SPORTS 3/当日ディレイ放送)
ABEMA:決勝 午後2時00分~

●予選:ノックアウト予選方式/Q1はA、B各組11車→各組上位6車・合計12車がQ2に進出
・公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。その終了から10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行
・公式予選Q1のグループ分けは…(上記のように53大湯は欠場。”代走”は大津弘樹に)SF第6戦FSW_予選Q1グループ分け

・Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される
・Q2の結果順に予選1~12位が決定する

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック:今季の仕様は骨格を形作るゴム層に天然素材を配合。ウエット(現状品は昨年までと同じ)1スペック

●決勝中のタイヤ交換義務:あり~ただしドライ路面でのレースの場合
・スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる
先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。(富士スピードウェイの第1SCラインはピットロード分岐・本コースとの間に入るゼブラゾーンの起点、減速用S字カーブ手前で、本コースまで横切る白線で示されている)
・タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格
・レースが赤旗で中断している中で行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合はOK
・レースが(41周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算
・決勝レースでウェットタイヤを装着した場合、タイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行なった時に限られる
●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて
・ピットレーン速度制限:60km/h
・富士のコースでは、長いストレートを加速して行く途中でピットロードが分岐、S字状の速度抑制部を抜けた先から速度制限区間が始まる。ここから出口シグナルまでの速度制限区間は約380m(Google mapによる)。そこを60km/hで走り抜ける中に停止・発進を挟むと走行時間は25秒ほど。しかしピットロードへの減速は手前の屈曲部で始まり、出口側でも速度制限区間が終わったところで、レーシングスピードでストレートを走ってきた車両の速度は250km/hを越えようとしているところへの合流になるのです。
かくして富士スピードウェイでのSFのレースでは、ピットインにおけるピットロード走行+停止・発進のロスタイムはかなり大きく、28〜30秒と見積もられ、実際に近年のSFのレースデータから抽出・概算した値もそのくらいに落ち着いています。
これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが半周、セクター3にかかるあたりまでのペースで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で35秒、若干のマージンを見て40秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となるわけです。

明日からのSF第6戦に向けて準備を進めるチーム無限のメカニックたち、ですが、何をしているところでしょう? --答:ピットストップ・タイヤ交換の際にマシンを止める目安になる「ボックス」を描き、その粘着テープを叩いて固定しているところ。(写真:筆者)
明日からのSF第6戦に向けて準備を進めるチーム無限のメカニックたち、ですが、何をしているところでしょう? –答:ピットストップ・タイヤ交換の際にマシンを止める目安になる「ボックス」を描き、その粘着テープを叩いて固定しているところ。(写真:筆者)

●タイヤ使用制限
●ドライ(スリック)タイヤ
・新品・3セット、持ち越し(シーズン前テスト~ここまで5戦〜6月下旬の合同テストの間に供給されたセットの中から)・3セット
定石としてはまず金曜日のフリー走行で、開始時の路面状況にもよるけれど、ある程度コンディションの良いタイヤを履いて走り始め、まず”持ち込み”状態のセッティング確認、10周(46km)以上の走行でロングランの状態を確認、走行時間の最後に新品を投入して予選アタック・シミュレーション。予選にはQ1、Q2にそれぞれ新品投入。決勝スタートは新品。という使い方が基本になるはず。
●ウェットタイヤ:最大6セット
●走行前のタイヤ加熱:禁止
●決勝レース中の燃料補給:禁止

●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(120.5L/h)
燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下していきます。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

開幕戦、SFデビューで優勝を勝ち取ったリーアム・ローソン(中左・黒白のシャツ)も、明日からの第6戦を前に、金曜午後はまだリラックスした雰囲気。(写真:筆者)
開幕戦、SFデビューで優勝を勝ち取ったリーアム・ローソン(中左・黒白のシャツ)も、明日からの第6戦を前に、金曜午後はまだリラックスした雰囲気。(写真:筆者)

●オーバーテイク・システム(OTS)
・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」
・一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は、富士スピードウェイでは今季は「120秒間」、次の発動まで待たなければならなくなりました。これはレースペースで1周+35秒ほど。つまりその前の周回にOTS作動を止めた地点からさらに半周ちょっと走ったあたりからなら再発動できる、ということになります。
●OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持されますので、概算で出力が60ps近く増える状態になリます。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされるわけです。
⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎ロールバー前面の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー前面のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。また予選中に「アタックしている」ことをドライバーが周囲に知らせたい場合、このLEDを点滅させる「Qライト」が使えます。
●今季、OTS作動時にロールバー前面と、車両後端のレインライトとリアウィング翼端板後縁のLEDを点滅させていたのが廃止されたのですが、、第4戦オートポリスからリアライトの点滅を復活させたとのこと。つまり後続のドライバーからは作動8秒後からオフにするまでは、車両後端の赤LEDの点滅で前車のOTS作動がそれとわかるようになりました。ただこの赤灯の本来の役目は「レインライト」、つまりウェット路面走行でタイヤが巻き上げた水滴が霧のようになる中で、前を走る車両の存在を確認するためのもの。ドライバーがコックピットの中でオン/オフできるので、OTSを作動させていなくても「フェイク」点灯は可能です。
全車のオンボード映像と車両走行状態をほぼリアルタイムで視聴することができるアプリ、「SFgo」なら、観客もチームスタッフも各車のOTS作動状況を”見る”ことができます。運転操作などと合わせて、OTSの作動、残り時間、インターバルタイムの経過が、表示されるので。さらに今季からはドライバーとチームの無線交信も聞けます。ここまで踏み込んでの観戦には「必須」のツールと言えるでしょう。チームもこのアプリを駆使するようになっていますので、「○○、OTS撃ってるよ」(チーム)「(前後の競争相手の)残り秒数は?」(ドライバー)といった無線交信が増えています。

これらを踏まえつつ、上でも解説したように、開幕2連戦は各車「手さぐり」状態だったところから、直前に基礎確認〜アイデアやアイテムの投入・評価を行った(はずの)合同テストを経て、誰が、どのチームがより多くの収穫を得たのだろうか、それも含めて戦いの様相に変化はあるのか、ここから終盤に向けてどんな流れが生まれるのか…。様々な思いが巡る富士スピードウェイでの「夏の戦いを、SF23×22台が繰り広げる2日間の濃密な自動車競争を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

(文:両角 岳彦/写真:JRP、筆者)

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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